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探し人……見つかる



「俺、シャリナを探しに行きたいと思います!」


 何時もの朝と思い込んでいた面々に、宣言する様に言い放つアギラオ。


「お前分かってるのか? 言いたか無いがあの子が生きてる確率は高くないぞ。行方不明になって時間も経ってる」


「おっさんは心配じゃないの? 俺は見つけてあげたい。無茶はしないから、な?」


 頼み込むアギラオに呆れながら腕を組むノルド。


「わかった、俺だって気になってたんだ。探すだけやってみるか」


「やり、おっさん大好き♪」


 ふざけてまとわりつくアギラオの頭を軽く拳骨しながら、フォルク達にも同意を得る。面識は無いけどシンタも手伝ってくれるみたいだ。頭脳労働はお得意のシンタが手伝ってくれるのは正直助かる。


 まずは魔具店で旦那さん達に話を聞きに行く事になった。



「いやー……、悪いね。娘の捜索を手伝ってくれるなんて助かるよ」


 いつも元気だった旦那さんも流石に参ってるみたいで顔色も悪い。店は大破していて瓦礫が散乱していた。


「これは、何があったんですか?」


 現状の酷さに驚く俺達。化け物の襲撃が集中したのか人が住める様子では無かった。当時、店にはシャリナと奥さんだけで旦那さんは不在。


「実は俺も良く分かってないんだ。生活基盤が破壊されてこの有り様でね……。妻も心を病んで寝込んでいるし。妻に聞いた話では気付いたら娘も居なかったとかで、要領を得なくてね」


「奥さんの話も聞きたいんですけど、大丈夫ですか?」


「妻も喜ぶかもしれん、西区のアルベルト先生の所で世話になっているから会いに行ってやってくれ。それと、残念だが君達のバンドから預かったディスクは壊れてしまったので廃棄してしまった。事後になるが」


 病院までの地図を描きながら申し訳無さそうに言葉を重ねる。


 この現状を見てとやかく言う事なんて出来なくて苦笑う。


 俺達は気を取り直して病院へ。


 西区は比較的、裕福な層の人間が多い場所で町の機能は辛うじ回復した様に見える。病院は通りに面していて大きく年季を感じさせる。


 受付に魔具屋の奥さんの名前を告げ、暫く待たされた。奥さんの同意も得られたと言う事で中へ。


 病室は3階との事で教えられた番号の部屋の扉を叩いた。


「わざわざありがとう。こんな格好でごめんなさい」


 相変わらず線の細い、控えめの仕草の女性で、娘のシャリナとは大きく印象の違いが目を引く。


「イラクシ!?」


 そんな事よりも家に残してきたイラクシが傍らに居る事に俺達は驚く。知り合いなんですの?と奥さんも驚いていた。


「大きい声を出すんじゃないよ。わしはあんた達が来た事の方が驚きだね。この町に来た目的はここに勤める事だったのさ。良い時にきたねぇ、ここの病院に1室貰えたから明日には引き揚げるよ、宿ありがとうね」


 笑顔で言い切られた。


「じゃあの、何時でも訪ねておいで。娘子の世話は帰るまで見てやるで気にせんでいいよ」


 イラクシの態度に俺はいまいち気持ちの切り替えに失敗していたけど、直ぐに立ち直ったおっさん達は奥さんと話を済ませていた。


 奥さんも直ぐに気を失ってしまったらしく、気付いたらあの状態だったそう。薄ぼんやりと娘の影を覚えていると言うか、もしかすると化け物に攫われたかもしれないとハラハラと泣き出す始末。


 何とか慰めた頃には俺達はどっぷり疲れていた。


 病院を辞して、近くの喫茶店で作戦会議よろしく陣取る。


「いやー、聞いた限りじゃ攫われた説が1番有力だな」


 口火を切るおっさん。


「化け物と戦うのは論外として、近くまで近付かないと、どうにもなら無そうですね」とカードを掲げるフォルク。


 気乗りしないが、これ以上関わるなら避けては通れないと言うノルド。やるなら時間との勝負になるとシンタも言う。


「行こうよおっさん。俺に手を貸して」


 拝み倒す勢いでお願いしてみる。


 見上げる俺に皆は仕方ねーなと言う顔で頷いた。


 一度、家に帰って武装を整えた俺達は探索の得意なシンタの後に着いて破壊の後を辿る。



「この化け物、頭が良い?」


 シンタが呟く。破壊跡は北西に向かって谷に消えているけど、シンタには何と無く不自然に見えた。本命は逆方向、森の奥が怪しい。


 気を引き締めた俺達は更に慎重に森へと分け入った。


「この森は擬態する巨大昆虫が多い、警戒を忘れるな。シンタ特によろしくな?」


 おっさんが言いながら前方を薙ぎ払い、シンタとマリがそれぞれの武器を突き刺す。俺には何も見えなかったけどバサリと大きなものが落ちる。


「おわっ! おおお?」


 あんまりびっくりしてしまって変な声が出た。フォルクも判っていたみたいで余裕そうだった。1人だけ驚いてしまって気不味い、顔が熱い。多分赤くなっているだろう顔を誤魔化して「たまたまだもん」と言ってからまた失態に気付く。


「見るな、見るなよ~」


 皆が生暖かく微笑む。


 そんな事を何回か繰り返して、痕跡の薄い位置まで来た。


「居るね」

 

 小さく囁くシンタ。五月蝿い程の虫や獣、鳥などの気配が薄い。何か大きな者が居た様な草の倒れ方は俺でもわかる位大きかった。


 根源から来る恐怖に微かに震える。


 巣を迂回してそろそろと奥へ、小型の生物の通った跡が有るとシンタが言うので辿ってみると岩の裂け目の様な入り口の洞窟に着いた。


 どうにかして逃げ出したシャリナが逃げ込んだ?


 考えてから無理だろうと言う思いがよぎる。彼女は普通の町娘で戦闘だってした事無い筈だ。


 普通の子が動向出来るものじゃない……。



 恐る恐る覗くと女性が倒れて居るのが見えた。もしや本当に!?介抱に向かおうと走り出そうとした俺とシンタの肩をおっさんが押し留める。


 力が強すぎて掴まれた場所が痛い。



「最悪だ……、逃げれるか?」


 顔色の悪いおっさんが引く様に全員を促す。



 目の前で身を起こした人物はシャリナの顔をしていた。


 暗闇で瞳が紅く輝く。


 鼻を匂いを嗅ぐ様に鳴らしにやりと邪悪に嗤い、その身が急激に膨張。





 退避した俺達が出口に辿り着いた瞬間、狙ったかの様に洞窟が破砕。


 吹き飛ばされる俺達。


 土煙の向こうには“化け物”が悠然と佇んで居た。




 


 

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