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殺されなかった“化け物”の話



 濃い土煙の向こうが一瞬開け、紅い瞳が光る。


 反応出来ないで居ると目の前で金属質の轟音が響く。何時の間に化創化したのか銀の巨人と化したおっさんが前に居て、攻撃を防いだ楯ごと腕を跳ね上げられていた。楯には太い矢が当たり楯が割れ弾ける。


 割れ飛んだ破片が俺のこめかみを掠り、血が流れる。


 見えないのを良い事に、次々に飛んで来る矢を何とかかわす俺達。相手も見えていないのか出鱈目に射られる矢は地面を穿ち、木々に穴を開け迂闊に動けない。


 轟音で音が通り難いのでフォルクがスピーカーファンネルを展開。翼の様に両肩中空に待機、尾翼を開く。後方に下がり基本の『エール』を掻き鳴らす。


 魔力を練りこんだエールが皆の動きを底上げし、回避を容易にした。


 次第に晴れる視界。


 視認出来る様になった化け物は動物型で小山程大きく真っ白な体毛に覆われていた。両脇から触腕が生えクロスボウ状の砲台になっている。尾は鼠に似て細長い。


 獣の延髄辺りに空ろな表情の女の顔が逆さに埋もれている。


 その顔はシャリナの顔をしていた。


「手遅れか!!」


 叫び、切り掛かるおっさんの長剣が空を切る。


「速い。ノルドさん避けて!」


 辛うじて見えたシンタが悲鳴を上げる。


 巨体に似合わぬ速度で跳ねる化け物が、お返しとばかりに鋭利な爪を生やしおっさんの肩を切り裂く。


 噴出す鮮血。


 切り口はゆっくりと再生していくが痛いのは痛いらしく呻く。



「こっの野郎」


 俺はついカッとなって飛び込み斧を振るう。振り下ろしたばかりで対応出来ない化け物の前足に叩き込んだ斧は硬い剛毛に阻まれ、嫌がる仕草で打ち払われた。


 悲鳴を上げ飛ばされる俺。


 ぶれる視界と背中を襲う衝撃に目の前が真っ暗になる。



 倒れたアギラオに構わず、詠唱していたマリの『黒磁縛鎖』が発動し、化け物周辺の土が変質。黒い鎖が幾重にも捕り付き動きを封じるべく絡みつく。



「シンタ、そこの無鉄砲を守ってやってくれ」


「くっ、仕方無いですね。この馬鹿」


 鋭く振り向いたノルドの命令に一瞬断りかけたが、渋々抱えて下がるシンタ。



 鎖で動きの鈍った化け物と歌の支援の入って居るノルド。やっと優位になったノルドの剣が化け物の厚い防御を抜き傷を凍らせる。


 地を這うマリが短い呼気を吐き槍を繰り出す。返す石突きで顔面を打ち据え反撃を楯で逸らす。


 強引に鎖を引き千切り自由を取り戻した化け物が2人を睨み付け咆哮を上げる。



「俺達は眼中に無しみたいだな」


 後ろでアギラオを寝かせ乱戦を見るシンタ。


「悔しいな、弱い俺には何も出来ない」


 眉間に皺を刻みブレイカーの柄を強く握り締めた。実際、あいつが気まぐれに矢でもこちらに打ち込んできたら避けるので精一杯だろう。


 フォルクさんみたいに楽器の演奏も出来ない。


 無様に気を失っているこいつにすら勝てない。


 暗い思いに囚われている間も戦いは激しく、一進一退が続く。


 化け物にも再生能力があるのか、さっきまで負っていた傷が見当たらない。が、反対にノルドの化創には皹が入りだしている。



「出し惜しみしてる場合じゃないか、くそったれ」


 ノルドの左手の指が腕に溶け込み、銀のハンマーの如く変化。ツルッとした表面に亀裂が出来ぱっくりと口が開く。その口にはゾロリと牙が生え揃っていた。


「これでも喰らえ!!」



 力一杯喰い付かせた口が化け物の頚動脈を噛み切り、肉を引き千切る。


「ぐえ、不味い」


 噛み取った肉を吐き出させて、剣で追撃の突きを繰り出す。


 血氷の華がが咲く。


 逆転したと思った刹那、化け物が激しく暴れ木ごと粉砕して体当たりをかます。ノルドだけで無くマリも巻き込み弾き飛ばす。


「うおおお」

「くうぅ」


 たった一つの反撃で大きなダメージを負うノルドとマリ。思わずと言う感じでフォルクも演奏を乱す。


 更に打ち出された矢が皆に降り注ぎ運悪くノルドの腹を貫通。千切れた傷は直ぐに塞がるかと思ったが治り切る気配は無い。



 絶体絶命。


 これまでかと諦めかけた。





 --アギラオは暗い夢を見ていた。


 おっさん達の苦戦がうっすらと見え苦しい。


 まるで体が無くなったみたいに力が入らない。


 おっさん達の怪我も、化け物になってしまったシャリナの怪我も本当は嫌。


 大怪我を負った時の事が思い出される。


 じんわりと指に感覚が戻る。


 あの子を助けたい。


 重い瞼を開ける。



「アギラオ?」


 身じろぎする彼女を見上げるシンタ。



 見慣れたアギラオは前回と同じく真っ赤な長髪をなびかせ、鎧姿がドレスに変化する。


 浮き上がる体に羽根型のスピーカーファンネルを浮かせ涙を流していた。


 不振な気配にこちらを見る化け物。



 女神は謡う。



『吹き抜ける 風は謡う 深遠の水底にさえ』


『深く 泡の鼓動が聞こえる』


『君を失ったのは誰?』


『泥に塗れても 翼をもがれても 忘れるな』


『手を伸ばせ その手を女神は掴むだろう』


『力強く浮き上がるならば もう弄う者は居ない 涙流しても 蔑む刃は形骸の手の中』


『君にも謡う潮騒が届いたなら』


『女神さえ心に居る』


『君を失ったのは何時?』


『取り戻せ』


『泥に塗れても 翼をもがれても 忘れるな』


『吹き抜ける 風は謡う 深遠の水底にさえ』


『深く 泡の鼓動が聞こえる』



 旋律に乗せて化け物の体から不浄の煙が立ち昇る。


 苦しがり、逃げようとする化け物をマリの黒磁縛鎖が再度、縛り上げる。


 ジュウジュウと異音を上げる化け物は煙を噴き上げ、確実に小さくなり。煙の晴れた先には傷ついてはいるが化創士となったシャリナの姿があった。


「良かった」


 今回は意識を失わず、自然と髪が魔力に解け、ドレスも鎧に戻る。


 凝視する面々に何と無く笑顔を返した。


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