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十兵衛怪夢譚  作者: いわん


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其之二

二つならんで切り立った暗いビルの最上階。眼下には多くのコンソールとそれを操作するオペレータたち。その前には、刻々と現状を伝えるディスプレイ。地図上で点滅する多くの輝き。

 少年はそれらを一瞥した。現状のトータルステータスはグリーン。正常である。少年ともおぼしき顔がこれまでの行動を思い返す。あと一息なのだ。あと一息で――

「司令」

 インコムから声が聞こえる。

「なんだ」

「司令」と呼ばれたその少年は答えた。

「相手は、ベイビー奪還のための人物をこの世界に召還した模様です」

「ふむ」

 それは想定の範囲内だった。むしろ、想定よりも遅い行動であった。

「どの程度の規模か確認は出来ているのか?召還位置は?」

「申し訳ありませんが、召還された人物および、その人物の現在位置はまだ確定しておりません」

「そうか」

 確かに、大軍でも送り込まない限りは検知は難しい。召還者には、位置情報を示すマーカーはついてはいない。その意味でも、こちらも全てが完全に把握できるわけではなかった。

「ただ、召還に際してのエネルギーから推測するに、人数は一人。多くても二人程度と考えられます」

「ふむ」

 それも想定の範囲内。今の相手に大軍を召還するだけのエネルギーは無いだろうし、仮にあったとしても大軍を呼べば混乱に拍車がかかり、ベイビーを余計危機的状況に陥れるだけだった。対個人戦であれば十分に対応は出来る。

「監視カメラを動員して、現在とは異なる風貌の者がいたら、チェックするように」

 はてさて、相手は誰を送り込んできたのか。しかし、なんだってこんなギリギリの時間に動いたのか――

「明日のベイビーの消滅作業に関しては、十分に警戒態勢をしく事。以上だ」

「了解しました、司令」

「ベイビーが問題なく消滅できれば、いくら向こうが対抗策として強力な召還者を繰り出してきても無意味なのだからな」

 少年は言葉を継ぐ。

「それと、ベイビーの防御壁は予定通り、突破できそうなのかね?」

「ベイビーの防御壁構成エネルギーの組成から考えるに、突破は可能であると現状では判断できます。ただ、それに必要なエネルギー確保のために、一時的にシビリアンの生活に支障が出る可能性が否定できません」

「よろしい。では想定されるシビリアンへの被害を計算し、これまで通り、消滅作業の準備をしたまえ。対防御システム用装備も予定通りかね?」

「『トールハンマー』を三基準備しました。能力的には一基でも十分かと思われますが、万が一、という事も考えられますので」

「了解した。それで問題はなかろう。本件は慎重な判断をすべきであるからな」

「司令」と呼ばれていた少年は、一通り指示を出すと、椅子に深く潜り込んだ。

 ――さて、連中が召還したのは一体誰なんだろうか。このタイミングで、というのが気になる。一応、時間稼ぎの対応措置として、こちらも召還準備をしておくか。

 もっとも、召還者がベイビーを発見する前に、こちらの「消滅作業」が済めばいいのである。今のところ、ベイビーの周りに召還者が現れたという状況は無い。「消滅作業」を実施する作業場に直接召還者は送り込めない。そういう防御措置はしてある。仮にそれが可能だったとしても、召還者は「ベイビーの保護」という使命すら理解できずに処分、消滅されるだろう。今更、召還をするなど、相手の最期のあがきにも等しい行為だ。あまり気にする事も無かろう。そして、これに片がつけば、今しばらく、少なくとも自分がこの椅子にいる間は、安寧な世界が維持することが期待できるのだ。

 そうして、全ての指示を終えた少年は、「状況に変化があれば連絡せよ」と言い残し、椅子に座ったまま眠りについた。


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