序
目が覚めると、飛び込んできたのは銀……いや、灰色の世界だった。どこまでもまっすぐに続く灰色の道。遠くに霞んで見える大きく屹立する灰色の建物群。灰色に淀んだ空。そして、周囲にはまったく生命の気配も緑の欠片もない。花の色も緑のざわめきも、川の流れも、川に跳ねる川魚も、何も感じない。色彩だけではない。そもそも物音すらしないのだ。俺がついさっきまでいた柳生の庄の風景ではなかった。
「夢でも見ているのか?」
思わず口に出た。正直な感想だ。俺は鷹狩りへ向かう途中、昼飯がてら、馬から降り、ちょっと蒲公英を眺めながら木陰で一休みしていただけだというのに。その黄色い蒲公英すら見当たらない。これは夢か。夢なのか。冷静に考える。およそ過去に見たことがない夢のたぐいではあるのだが、これが夢ならば、それも一興。醒めるまで楽しんでみるのもいいやも知れん。と、思ってはみたものの、はてさて、まったくもって見当のつかない世界なので、どのようにしたものかと、俺は思案にくれた。
――夢を夢として楽しもうとしても、こうも、どのような世界か皆目見当もつかない状態ではなぁ。
俺はとりあえず自分の身体を確かめた。五体に問題はなし。装備も休んだときと同じであった。腰には典太もある。まぁ夢であれば、装備を自由に出す事も可能なのかも知らんが、それは後で試してみる事にしよう。まずは、周囲の捜索からだ。あまりにも生命の気配がないこの世界が、俺には不気味でたまらなかった。せめて、蝶の一羽が見えれば、小鳥のさえずりでも聞こえれば安心できるのだろうが、川の流れる音すら聞こえない。とにかく、およそ生命と呼べるものが、あたりに何一つ見当たらなかった。
――とにかく、まずは人を探すか。
俺は、遠くに見える建物群に向かって歩き始めた。




