1-19.恩師訪問
1-19.恩師訪問
「アエミリア伯母さん!」
屈託のない顔で目を輝かせて懐くラルス。アエミリア自身も血のつながる甥というだけでなく、我が子とは異なる愛情が持てる気がした。
そんなことを考えながら、アエミリアは伯爵家へ戻る馬車に揺られていた。
そして、一度帰宅して、子供を抱きしめたり、世話をしたりし終えると、翌日にはペラギア先生を訪ねてみることにしたのだった。
焼き菓子をぶら下げて、ペラギア先生を訪ねた。先生は、少し郊外に裏に小さな畑のある一軒家を構え、夫と二人暮らしをしていた。子供たちは独立してたまに帰ってくるだけのようだ。
アエミリアは敢えて我が子達は連れてこないで、単独でペラギア先生を訪ねたのだった。
「ごめん下さい。」
「あら?どちらさま?」
「すっかりおばさんになってしまいましたが、学院で教えを受けました、アエミリア・オーキッドです。今は、ラフードルに嫁いでおります。」
「あら?懐かしいわね?もう20年近くになるかしら?」
「はい。あ、こちら、クッキーです。」
「わざわざありがとうね。お茶を淹れるわ。上がって頂戴。」
ペラギア先生は女性としても背が低い。が、魔法使いらしい目立ったとんがり帽子で身長を稼いでいるのと、肩幅もあるとは言わないが大きな眼鏡がトレードマークである。笑うと左頬のほくろの下にえくぼが出来る。
「このお茶は、最近仕入れたんだが、とても香りが良いんだ。クッキーに合うと思うから。早速開けさせてもらうわね。」
「ええ。」
ペラギアはてきぱきと紅茶を淹れて、クッキーを皿に出した。
「ラフードルに来て何年になる?」
「もう10年以上経ちます。」
「そうかい。」
「8歳の男の子と5歳の女の子に恵まれました。」
「ほう?そりゃおめでたいね。」
「ありがとうございます。」
「家庭今日してもしてくれと言うのかい?この婆に。」
「まだ先生はそんなに老けておられませんよ。それがですね。」
アエミリアは少し言いよどんだ。
「ん?」
「妹がいたのを覚えていらっしゃいますか?」
「ああ。何でも魔法が使える子じゃったな。確か名前は…」
「ネリナです。」
「そうそう!ネリナ!ご令嬢でなければ、しごき倒してやったのに。」
「ありがとうございます。」
「いつの間にかいなくなったな。確か駆け落ちしたんじゃなかったか?」
「ええ。その通りです。やっぱり先生のお耳にも届いておりましたか。」
「生徒はいっぱいおるでな。噂には事欠かぬ。」
「はい。男爵家の次男坊と、田舎に逃げてしまいまして。」
「ほっほっほ。それほどいい男じゃったか。」
「ええ。爵位があれば、王族と一緒になっても良いほどには。」
「ほほう?」
「剣術大会で優勝した男でしたよ。」
「なるほど。騎士爵くらいはもらえたじゃろうに。伯爵令嬢じゃ釣り合わんかったか。」
「ええ。まあ。そういうことです。」
「で、ネリナがどうしたんじゃ?」
「5歳の男の子をもうけまして。」
「ふむ?」
「ラルスと申します。」
「そのラルスが何かあるのか?」
「はい。あの、先生…。ご内密にお願いしたいのですが。」
おずおずと、アエミリアは探った。ニコニコしていたペラギアの目がぎろりと光った。




