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その後、結局、イーリーは見つからず、エヴェリー達はエルフの里の魔力持ちのうち魔力量の多いエルフを2名処分して報復とした。
人間の魔術師が変身させられている可能性もあるので、魔力回路がちゃんとエルフのものなのかどうかをノークスに確認させてからの処分だった。
イーリーは何処に逃げたのか、なりを潜めている。
イーリーにご執心だったセントクレア公爵家のライオネル・アームストロングは、イーリーが居なくなった原因が私にあると思っているらしく…
私の身辺で不審な出来事が続いた。
当然ながら公爵家の、ただの魔力持ちのお坊ちゃんが大した攻撃をできる訳もないので…
「自動防御魔道具が当然起動して、突然背後から来た攻撃に対して障壁を展開する」
という事が何度か起きたという程度の被害だった。
実害はない。
せいぜい
「超加速が使われていない攻撃にはちゃんと反応するんだな」
と魔道具の性能が証明されて良かったな、という感じだが。
私自身よりも周りがそれを深刻に受け止めていた。
今や口付けによる暗示は学院の教師や生徒の大半に行き渡っている。
(新入生に対してはまだこれからだけど)
因みに国立総合診療所の職員にも隙あらば施している。
大勢の人達が私の味方だ。
(自然にそうなってるのではなく、姑息な努力の結果だが…)
お陰で、数人の目撃者がライオネルを
「婦女暴行未遂犯だ」
と告発できる状態が直ぐに出来上がってしまった。
勿論、セントクレア公爵家がライオネルの犯行を揉み消そうとする可能性があるので、告発者達・証言者達の身元は伏せられる。
そうした状況の中、学院側は証言者達の証言の信憑性を認めた。
結果
「ライオネル・アームストロングを退学にする」
という決定が下された。
同時期にライオネルは王太子殿下の側近候補からも外された。
それに関してはエルマー・グローバーの後押しがある。
エルマーからすれば、エルマーを襲撃した犯人と仲が良かったライオネルなど、どう見ても危険人物にしか見えない。
王太子殿下の側に近付けて良いような人間性ではないと断言できる。
イーリー・モスとレルフ・デールが人間に化けていたエルフだった事。
彼らが吸血鬼憎しで、ルビー・ヒルとウォーレス・モルガンを陥れるべく変身術で姿を変えて、エルマーを襲撃した事。
翌日には更にルビー・ヒル及びウォーレス・モルガンを仲間のエルフと共に襲撃した事。
それらを王太子殿下及び宰相へ説明した上で
「ライオネル・アームストロングはイーリー・モスが事件後に逃走した事を犯罪者の逃走とは受け止めておらず、イジメられ続けたがゆえの逃避だと歪曲。その責任を被害者側にあるかのように曲解し、被害者に対して更に害を加えようとした」
という事も説明。
「あのような者を殿下のお側へ置いておけば、今後どのような厄災を招くか分かりません」
と排除を勧めた。
王室側もエルマーの諫言が誣告である可能性も考慮し、ちゃんと調査した。
それゆえにライオネルには「一生涯、王城への立ち入り禁止」及び「東部から出てはならない」という謹慎刑が科せられたのだった。
(…ライオネルの逆恨みが更に拗れそうだ…)
ライオネルに対してだけは口付けによる暗示で懐柔しようとは到底思えず、何の暗示も施していない…。
ライオネルの見た目はそこそこ美形なのに、嫌悪感が拭い切れないのだ。
セントクレア公爵家自体が外国人の平民の血へとすり替わって久しい。
その事実を認めず、爵位・財産も全て国へ返却すべき所をそうはせず、自分達の血は高貴なのだと自分達で作り出した嘘を信じ続けた一族…。
ライオネルに対してはエルフ同様に
「このまま破滅するべきだ…」
と思った…。
ライオネル及びセントクレア公爵家がエルフとは一線を引いて、ちゃんと自国にアイデンティティを置いて居れば、血筋がどうとかにこだわる必要もないのだが…
セントクレア公爵家はエルフと近付き過ぎていた。
エルフの社会参加は、その昔はオークニー侯爵家の傘下にあるジャクソン商会が取り持っていた。
オークニー侯爵派はセントクレア公爵派と同じく東部勢力だが、昔から別派閥だった。
現在ではオークニー侯爵派のジャクソン商会及びコールリッジ子爵家・コールリッジ男爵家はエルフの里と関わりがない。
コールリッジ子爵家のジミー・ジャクソンも、コールリッジ男爵家のザック・ヒューストンもエルフの魔術師ではあるが、戦闘向きではなく、商売と女漁りに精を出している状態に満足している。
(中身年寄りのロリコン…。気持ち悪いが意外に無害だった…)
エルフの里のエルフ達は7、80年もの昔にオークニー侯爵派から切り捨てられていたのだ。
オークニー侯爵派から切り捨てられた後でセントクレア公爵派に取り入ったのだから、セントクレア公爵家とエルフの里のアイビー家との癒着は、ここ半世紀程で深められた事がわかる。
セントクレア公爵家自体、その昔に公爵自身が自分の正体を成りすましだと自白した事件以来、権威失墜している。
王太子の側近候補だったライオネルの存在はセントクレア公爵家にとって大事な切り札だったのだが…
切り札が切り札たり得るのに必要な人柄の点で落ち度が発覚したのだ。
今回の処罰は当たり前と言えば当たり前だった…。
そうしてライオネルが王都から姿を消してくれて
「全て一件落着だ」
と思ったのも束の間。
「それで、新たに問題が生じてしまっているのですが…」
と、エルマー・グローバーがジョエルの診療所まで気まずそうに伝えてきた。
「マーカス殿下が(王太子が)ルビーさんに興味を持ってしまっていて、一度是非登城して欲しいと仰っているのです…」
(何それ、面倒くさい…)
思わず目眩を覚えた。




