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伯爵邸の客間で独りになって、ふとダンカン・モルガンが言ってた言葉を思い出した。
「お前、一度ちゃんと、お前の両親がお前にどう生きて欲しいと思ってるのかを真剣に考えてみた方が良いぞ。
我が子を可愛いと思う普通の親は『リスクを抱えながら復讐して欲しい』なんて望まずに『ただ幸せになって欲しい』って望む筈なんだからな…」
というアレだ。
確かに両親が私の事を覚えていて、今の私の状況を知ったとしたら
「復讐なんて考えるな!逃げろ!新大陸へ来い!」
と思いそうだ…。
まぁ
「今すぐ船に乗り込んで迎えに行く!」
とも考えそうだが…。
(私は何故、こんなにもエルフが憎いんだろう…)
と、自分自身の内面を俯瞰してみる事にした。
(両親が蘇生できていなかったなら「愛情をもって育ててもらった恩に報いるんだ」と、人生を復讐に捧げる道に突き進んだだろう)
(だけど両親は蘇生できていた。それなら「復讐する必要はないんだ」と割り切るべきなのに…何故か割り切れない)
(…イーリー達を使い魔越しに監視したせいで…イーリーが仲間と接している場面を見てしまったからだ。きっと)
驚くべき事にーー
エルフ達は何の罪悪感も持たずに暮らしているのだ。
エルフ達はこの国の国民に成りすましながら、この国の子供達の人生を奪いながら、吸血鬼を一方的に襲撃して殺しながら、そうした殺戮行為を「狩り」だなどと呼びながらーー
全く何の罪悪感も持たずに
仲間同士で親しみ
人間を欺く優越感に浸り
清々しい顔をして
彼らは伸び伸び生きている。
エルフには他人から幸福を奪う権利などないし、他人から奪った幸福を享受する権利などないというのに…
「自分達は何も罪を犯しておらず、自分達は虐げられてきたのだ」
と本気で錯覚していて…
「自分達には幸福を享受する権利がある」
と本気で思い込んでいる。
乗っ取り侵略者のくせに
殺人鬼のくせに
贖わざる大罪人のくせに
本気で何の後ろ暗いところもない無辜の存在だと、本気で集団で自己美化していて、本気でお綺麗な虚像になりきって、笑い合いながら楽しく暮らしているのだ。
そんな生き物ーー
許されないーー。
だけど、エルフという
「存在自体が罪に塗れている汚れた生き物」
に対する怒りは…
「蘇生も叶わず、ただ殺された吸血鬼達」
「何も知らずに連れ去られて盗賊に仕立て上げられて殺された人達」
「木を切っただけで処刑された人達」
のような
「致命的に奪われた者達」
が持つべき感情だ。本来なら。
(何故、私にそんな感情が染み付いているんだろう…?)
激しい感情というのは共鳴で起こる…。
それこそ地中の鉱石などといった
「腐食しにくい物」
が偶然、天然の呪物となって
人々の怨念を吸収して自らの内に刻み込み
それを延々放射し続けているかのようだ…。
【地球世界】に居た頃の複数の転生では
「死者の弔いは土葬が一般的」
という文化の土地で暮らした人生も多かった。
その際に
「怨念を残して死んだ人の髪や爪は土に還りにくい」
「怨念を残した死んだ人の血や骨は土に還りにくい」
と感じた。
この【世界】はやはり土葬が一般的だ。
「怨念を残して死んだ人の髪や爪は土に還りにくい」
「怨念を残して死んだ人の血や骨は土に還りにくい」
という現象が此処でも起きてる可能性がある。
それが自然の呪物にでもなっていそうだ…。
(…私は「怨念」のようなものに取り憑かれている…)
と自分でも自覚してしまう…。
それこそ
「呪物による精神干渉」
が
「術者による人為」
で起こるのではなく
「土葬文化による自然発生」
で起こっているのかも知れない…。
不思議な事にーー
怨念に取り憑かれているのは私だけでなく
「エルフ達も怨念に取り憑かれているのだ」
という事が、何故か直感的に理解できてしまう…。
エルフは彼らが殺した者達の怨念に憑かれていて、尚且つ虚構史実をエルフ間で共有して、自分達の罪深さを認識していない。
だから彼らは加害者のくせに
「我々は被害者だ」
と激しく思い込んでいる。本気で。
「我々は被害者だ」
と思い込む事で
「自分達は復讐される対象ではない」
と信じたがっているのみならず…
「本当の被害者の霊までも騙したがっている」
かのようだ。
加害者のくせに被害者になりきって、偽物の怨念を心に鎧のように纏い、更に被害者を生み出すべく加害行為を続ける。
そんな大罪を種族ぐるみで行っている大罪人達…。
許されるべきじゃない…。
「あんな連中と同じレベルまで降りて張り合うのは嫌だ」
と思いそうになるが…
それこそあんな連中と
「同じレベルまで降りて張り合う」
ような
「競争者」
が居ない環境で、彼らが独善的になると…
この世はどうなってしまうのだろう…。
おそらく【管理者】はエルフ達の魂レベルでの欺瞞を罰したりなどしない。
【管理者】には人間のような善悪判断はない。
単に「多様な体験をしていただきます」という采配があるだけ。
(…一番良いのは、怨念に取り憑かれたエルフが他のエルフを憎悪対象に据えて、エルフ同士で内ゲバで滅んでくれる事だな…)
と思う。
存在自体が既に必要悪を逸脱した絶対悪に堕ちている、この国のエルフ達…。
(ただ殺したって無駄なんだろうな…。彼らが内ゲバに堕ちて自滅してくれるのでなければ、被害者達は永遠に報われない…)
そう思ったーー。
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祖母のエレインが作ったという目覚まし機能付きの懐中時計型魔道具。
早速、役に立った。
危うく寝過ごすところだったのだ。
(本当に精神的に疲れてたんだな…)
と自分でも分かった。
今日も国立総合診療所へ出勤。
(昨日は本当に精神的に疲れたなぁ)
と思いながら、透明化を解き、診察台の前に腰掛けていると…
「お前、よくもやってくれたな」
と急に声をかけられた。
(ほんの一瞬前まで人の気配なんて無かった…)
背筋を冷たいものが伝う感覚を感じながら
恐る恐る顔をあげると
ウォーレス・モルガンの顔があったのだが…
(昨日はウォーレスの偽物が出て、私の偽物とつるんでたって話だったな…)
と思い、魔眼で見てみると
案の定ーー
魔力回路はエルフの魔術師のそれだった…。
(…レルフ・デール)
と、名前を呼びそうになったがーー
瞬時に超加速を起動した。
そしてそれはレルフの方でも同様だったらしくて
「クソ!」
と悪態をつくレルフの声が
低音にもならずに
(高音にもならずに)
普通に聞こえた。
レルフの方でも丁度私と同じように
(10倍までしか超加速を扱えていないんだな)
という事が分かった瞬間だった。
「死ね!」
という声と共に、直撃したら首が吹っ飛びそうな鋭い蹴りが頭部に向かって飛んできたので、当然、避ける。
「お前がな!」
と叫んで、後ろへ飛びながら、内部空間拡張収納袋から懐剣を取り出した。
「糞エルフ!ぶっ殺してやるよ!」
本音が漏れたので、もうこれ以上は、我慢はしない。
生きたまま捕獲できるなら、その後で拷問でもしてもらうのが一番良さそうだが、私は戦闘面で自信がない。
おそらく殺すか殺されるかになる。
「なにが糞エルフだ!お前のほうこそ糞吸血鬼だったんだろうが!よくも3年間も騙してやがったな!」
レルフに武器を使われると、こちらの敗色が濃厚になる。
リーチの長い武器はパッと見では持って無い。
暗器を隠し持つような奴も冒険者の斥候の中には居て、レルフはそのタイプだ。
投げナイフのような物を懐に幾つも忍ばせている。
なので、それを出す隙を与えないつもりだ。
それこそ息つく暇も与えずに懐剣で喉や目を狙って攻撃し続けてやる。
「糞アマ!不意打ちせずに声をかけてやったのに!遠慮ってものもないんだな!人の血を啜る卑しい魔物はよぉ!」
「ふざけるな!活きるために吸血鬼を殺すエルフが、生きるために血を飲む吸血鬼を謗るな!活きる事は生きる事とは違うんだ!」
心底からレルフが憎くなった。
(コイツを殺せる力が欲しい!コイツの仲間も皆殺しにできる力が欲しい!)
こんなにも敵を殺す力を心から欲したのは生まれて初めてだし、おそらく幾度も転生した無数の前世の中でも、ここまで露骨に力を欲した事は一度も無かった…。




