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聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服後:織田信長

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第44話:土佐侵攻に対する他家の反応

───長宗我部家:当主元親



「どうなっておる!」


1ヶ月前、訳のわからぬ異形の船に乗った軍勢が攻めてきた。

それも、我らがほとんど警戒もしておらんかった南の海から。


「・・・誰か敵について知るものはおらんか?」


敵兵の"紋"は見た。

木瓜紋だ。


よくよく思い出すと出回っている石鹸に描かれている紋にも似ている。

だが、よもや石鹸屋が攻めてくるわけもない。たまたまだろう。


「あれは、織田木瓜ではありませぬか?織田家が攻めてきたのではないでしょうか?」


「織田・・・?どこの家だ。近くにそんな家はあったか?」


織田家なぞという聞いたことのない家が敵だと谷忠澄が言ってきた。


「いえ、殿もお聞きのはず。あの石鹸や塩の販売で財をなしておる家です。」



「何?それでは石鹸屋が攻めてきたと申すか?!」



石鹸屋に攻め落とされる武士などあってはならん。

だが、もしや石鹸などで財をなし、兵を溜め込んでおったのか?


いやいや、そもそも石鹸屋は近くにいるわけではあるまい。

忠澄の勘違いであろう。



「いや、しかしな織田など近隣では聞いたことがないぞ?どこの家だと言うのだ?」


「織田は尾張に本拠を持っております。尾張・北伊勢・三河と続く大大名ですな。」


「まさか、あのあの辺りで起きた大一揆を静めたとかいうあの家か?!」


「まさに、その通りです。というより、あれを仕掛けたのは織田家でありましょう」


「そんな馬鹿な!だが、あのあと一切動きがないだろう?・・・そうか、そういえばあの時にもこのような話を・・・。」


俺は、過去を振り返り、当時にも似たようなやり取りをしたことを思い出した。

当時は、織田家のそのやりようを恐れ、今にも周辺国を制してしまうかと思われたものだが・・。


実際には、周辺を荒らすばかりでほとんど動きがなく、10年と経つうちにその存在を頭から消してしまっていたようだった。



「すまん・・、忠澄。どうにも敗走で頭が回っておらぬようだ。」


事態を再認識し、織田家を敵とした現状を捉え直す。



「で、今の織田家の様子はどうなっておる。」


「は、それですが、どうにも今以上攻めてくる様子はないですな。

というより、既に守りに入っている様子です。」


「なんだと?」



この頃の織田家は、土佐の中央と東側を切り取った後

港湾と港湾都市の設営に移っていた。



「どうにも、よくわからぬ泥を使い、瞬く間に城や石の道を作っておるようで・・・。」


「泥だと・・?・・・その辺りにも織田の秘密がありそうだな。」


「はい。しかし、奪ってくることは困難でしょうな。数日前にもその泥を持ち出させたのですが・・、こちらに辿り着く頃には石になるようで・・。」


「ふむ・・。とすると、奪って使うのは難しいか。」


織田の知恵の一つでも奪えればと思うたが・・・。仕方ない。


「それ以外には何かないか?」


「いえ、それ以外となるとあの黒い具足や大筒となりますが、それは身につけておるか船に置いたままのようで。陸までは運び込まれておりませぬ。」


「ぬぅ・・。」


「それと、警戒も日々厳しくなっておるようです。これ以上は厳しいかと。」



長宗我部は、この後しばらく織田家から城を取り戻そうと数度画策するが、そうする間にも織田の侵略準備は進み続け、一年もする頃には長宗我部家は土佐から消失することになる。



「くそっ!なぜこんなことに!!」





───────────────────────────


───織田家:土佐



「ここが土佐か・・」



織田家の侵攻から2ヶ月が経ち、港湾の整備が最低限がら進んだ頃。

一人の男が来着した。



───織田信包


信秀の息子で信長の弟であるが、史実では信長のNo.2を務めていたほどの信頼できる実力者でもある。


「信包様。」


「ん?おう持ってきたか」



一人の男が信包へと近づき、白い石のようなものを彼に見せる。


「品質はかなり良いですな。量も豊富です。すぐにでも取り掛れそうです。」


「なるほどな・・。流石兄上、全てご存じで侵攻を決めたか。

よし、では取り掛れ。こちらは周辺の安全確保を行う。主らは、必要な場所だけを伝えよ」


「はっ!」




彼が見せていたのは、この四国で取れる良質な石灰石である。

織田家では、消石灰にしてセメントに使ったり、あるいは布幣造りの際の中和に使うなど、多くの分野で使用される戦略物資だ。



「あとは、北にあるという銅、だったか。別子だとか言っていたが・・」



織田家が狙うのは、石灰石だけではない。

導線として使用する銅も、近年の急発展で、あっという間に不足しているような状況だったのだ。



「早く採掘して、こちらでも風呂に入れるようにしたいものだがな・・・」



織田家では、発電設備があらゆる発展を担っている。

それ以外にも、"織田大明神の神水"、"聖人の水"などと呼ばれるような、信長の作る"聖水"も人口増加や農作物の量産に役立っていた。



「・・・しかし、やはりこれは貧乏くじではないか・・?

信広兄上や信勝兄上の方が良い生活をしているのでは・・・・?・・・いや、やめよう」



信包からすると、土佐で広大な領地を与えられるより、尾張で小城を与えられている方が相当いい生活に思えた。


どう考えても、織田家から見て未開としかいえないような土地は、いくら広大であっても恩賞とは思えなかったのだ。



「・・はぁ・・・。まあ、物資があるだけマシか。とりあえず、近隣は固めておくか。」




織田家は、土佐中東部を固めるのに半年ほどの期間を掛けた。

その間にも、本領からは次々に物資と土佐各地を攻めとるための人員は送られており、侵攻を始めると瞬く間に近隣の城を制圧していった。




───三好家


「織田が土佐に攻め込んだと聞いたが、どうなっておるのです」


十河存保は、三好の妖怪:三好康長に土佐の現状について聞く。



「それがどうも、文字通りの蹂躙だったそうだ。元親めは蹴散らされ、久礼の城に逃げ込んでおるそうだ。」


「は?織田が攻めたのは先々月あたりであろう?もうそこまで侵攻しているのか?!」


「それが、一月ほどで岡ノ上や須崎まで攻め落としたそうだ。」


「・・・ありえん」



十河存保は、織田家の侵攻速度の余りの速さに驚愕を隠せないようだった。

しかし、康長の方は、事態をそこまで危険視してはいないようだ。



「・・・叔父上、なぜそのように平然としておるのです?織田の侵攻は速すぎます。今すぐにでも手を打つべきでしょう!」



十河の言葉に大叔父の康長も理解は示す。だが、・・・



「実はな、織田からはすでにどこを攻めるのかは連絡が来ておるのだ。」


「なんですと?」


康長が慌てていなかった理由はそれである。


それと、安宅信康からの情報もあり、今は、慌てて手を打つより現状を固めるべきだと考えたのだった。



「それに、ただ黙っておるわけではない。河野にも一報入れてある。・・・無駄になるであろうがな。」



康長が織田家に関して得ていた情報は様々だ。


淡路水軍からは、織田家の"機帆船"とでも呼ぶべき新しい船のこと。


もう一つは、織田家がもつ得たいのしれない様々な武器のことである。



「まぁ、河野ですからな・・・」


この頃の河野家は統率力を失い、家中は完全に分裂していると言ってもよかった。

しかし、三好としては四国の、それも他家の家中に手を入れたいわけでもなく、とりあえず、と言う形で一報だけは入れたのだった。




「それに織田とは戦えん。そこは得体が知れなさすぎる。」



三好からみると、今の織田家というのは年々得体の知れなさが大きくなっていくような、そんな不安を抱かせる家だった。

商人からの話では、相当な発展をしているようだと聞くが、密偵を入れても誰一人帰ってこない有様だった。



そんな家からの手紙だ。

迂闊に信じるべきではなかったのだが、数年前の織田の美濃や越前への侵攻。


これが、康長の思いを決定づけた。



「音もなく火縄より遠く飛ぶ矢。安宅や関船を凌駕する船。北伊勢の城を燃やし尽くしたという火薬。このどれに対しても、今のわしらでは対抗策が見えん。」



「「・・・・・・・・」」



密偵を差し向けても現物を手に入れることすらできず、実態すら謎の各武装に対しての対抗策に、当たり前のこと以上ができないというのが三好の現状だった。



「まぁ、そもそも、織田にはこちらを攻める理由もあるまい。川之江城には多少の心残りはあるが、織田家が近づいてくれるということには利点も多かろう。」



織田家は、この当時既に富裕で、織田布幣に関してもこの時点で相当量が出回っていた。

銅銭に変わる貨幣として認識され始めた頃である。



「いざという時は協力してもらう。しかし、現状は防備に努めるように。いいな?」



「「はっ・・」」



三好家の面々は納得できない思いを抱えながらも、その場を後にする。

織田家の情報は、情勢に疎い他家と違い、既に上層部には浸透しているのだった。


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