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聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服後:織田信長

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第46話:四国整備と長宗我部の崩壊



元亀3年(1577年)夏


───土佐国、安芸郡。



織田家が来る前には、漁村と小さな集落が点々としているだけの地域だったここも、今となっては織田の色に染め上げられてしまった。


港や道路は混凝土で固められ、かつてあった家並はその全てが解体され、別の何かとして使われるだけになった。



「ここも、大分綺麗になったな。」



新しい織田家の領内の方が見慣れてしまった織田信包の目には、寂れた漁村などより、この白い街並みの方が余程か馴染み深い。


こうして綺麗に整った街並みは、実務の面でも効果的で効率的だ。

荷運びには、竹で作られた車輪を付けたカゴが行き交い、他領から高値で買い取られてきた馬たちが領内の物流を担っているのだ。


この土佐の地でも、馬車や荷車、猫車などが数多く

出回る様になっていた。



「街に関してはほぼ終わりだな。あとは鉱山のほうか・・・」



今も移動を続ける荷車の中には、石灰石を運ぶ車と銅を運ぶ車がある。


まだ採掘が始まったばかりで少量でしかないが、既に尾張への輸送が始まるそうだ。


「報告を。」


「ん、聞こう」


後ろから声を掛けてきたのは、織田領で教育を受けた上級工兵だ。


髷も結わず、総髪の彼は兄上の考えた作業着と呼ばれる服を着ている。


木綿と革でできたそれは、工兵として働く際にはなかなか便利だそうだ。

木綿製で涼しく、膝や肘などの部分は革で補強されている上、ズボン(※)は"仁欺ジーンズ"と呼ばれる革履きだ。


その上級工兵の男は,首に白い布を巻いてこちらへとやってきたようだ。



「はっ。石灰石の方は順調ですね。削り出しも運搬も問題なく進んでいます。

ただ、やはり別子の銅については、採掘はともかく、運搬にはもう少しなんとかしなければいけませんね」



「やはり、山はどうにもならんか・・」



別子鉱山は、土佐からでは、四国山地に阻まれて行き来は困難だった。

そのために西条街道と土佐街道を支配したのだが、それでも距離がある上ために、運搬には高コストだったのだ。



「元よりこのことは予想されておりましたので、方策そのものは考えられておるのです。

ですが・・・」



「ん?ですがなんだ?何か方策はあるのか?」


「えぇ、鉄道・・、といいましたか。殿がいうには、鉄で作った道を作り、その上を車輪で走らせるというものらしいのです。」


「ほぉ。ではそれをやれ、と言いたいが、言葉を濁すということは何か問題があるのか?」


「えぇ。まず鉄が足りません。」


「・・・根本的な問題だったか・・・」



もちろん、問題は鉄量だけではない。


これは、トロッコをレールに乗せて運ぶということを言っているのだが、トロッコを運ぶための動力も必要だということは伝わっていないのだ。



しかしのちに、鉄量に関しては釜石の鉄鉱石によって解決される。


動力についても、山頂部に蒸気機関や風車・水車を設置され、

その力で鉄鎖を巻き上げることで、急勾配斜面を荷車ごと引き上げる


""傾斜鉄道""


という方法で解決されることとなる。



───────────────────────────


「しかし、兄上も強引な方法をとるな・・」


織田家が今回土佐・伊予で行ったのは、侵略というより略奪接収に近い。


他家であれば、そこに住む住民も統治に組み込むだろう。

住民からしても、「領主が変わっても、俺たちは関係ない」というように嘯くことが普通だ。


だが、我らが織田家は違う。


兄上としてはどうにも織田家で生まれる大量の領民、それの消費先を探しているらしく、今回の四国統治では領地からの追放という方法が取られたのだった。



実際、見知らぬ領民を統治するより、こちらの方が遥かにやり易いし良いのだが、

それに伴う苦労というのも私だけでなく尾張から来た領民たちも経験することになるのだった。



「しかし、こちらの方がいいのかもしれんな。

父上や叔父上の言っていた様な苦労もしなさそうだ」



四国統治に連れてこられた領民たちは、織田家の配備した学校で、様々な教育を受けている。

知識や能力という面であれば、元いた住民たちを使うより圧倒的に使いやすく、そして何より裏切りの心配もほぼなかったのだ。



「だが、山が多すぎる・・。密偵を完全に防ぐことはできんか。」



尾張などと違い、山がどうしても障害となった。

その点は、信包の生涯の悩みとなった。





───────────────────────────



───長宗我部


「よし! 敵の矢が止んだ! 突っ込めぇ!!」


長宗我部元親が、久礼城攻めを開始する。



歴戦の猛者である元親は、敵の射撃間隔を見計らっていた。

「弓にせよ鉄砲にせよ、次弾を装填するには必ず「間」が空く、その隙こそが勝機だ」そう考えたためだ。



兵たちが一斉に竹束・木盾を掲げ、城壁へと殺到する。


距離は五十間(約90m)。

本来なら、こちらの矢も届き始める距離だ。



だが、織田家に対し、その様な常識は通用するものではなかった。



「なっ……!?」


矢が止まない



それどころか、まるで雨が降り続けるように絶え間なく矢が吐き出され続ける。



「ひぃっ、 盾が!?」

「貫通したぞ!竹束もやくに・・・ぐはっ!」


長宗我部の兵は蹂躙され、悲鳴しか上げられぬまま瞬く間に矢の雨が打ち込まれる。



織田家の射撃は直線的で、通常の弓のような山なりの曲射ではない。

文字通り、目に見えぬ速さで襲い来る直射の矢だ。



そのため、従来の竹束や木盾程度では、紙切れのように容易く貫通してしまう。

鋼鉄の盾でなければ防げない運動エネルギーが、生身の兵士たちを襲った。



「くっ! これでもダメだと!!アイツらは、一体何を作ったというのだ!!!」



長宗我部は、織田の侵略で岡豊城・須崎城を奪われ、

去年の街道制圧戦の際には、どさくさ紛れに久礼城すらも奪われた。


長宗我部家にとって今回は、起死回生の反撃策だったのだ。

地の利も天の時も長宗我部に傾いている、はずだった。



「そんな・・そんな馬鹿なことがあるかぁ!!」


前線の兵が次々と倒れ、死体の山が築かれていく。


元親たちはその死体の山を壁にし、進軍を続け、織田を射掛けられる位置まで来たのは僥倖だったのかどうか・・・



「矢は必ず途切れる!いつか、いつかは必ず!」


しかし、その時が来ることはない。



───ドスッ!!


長宗我部元親の胸を降り注ぐ矢が貫通する。


彼は、自身に突き立てられた矢を眺めながら、理解できないまま息絶えた。




───長宗我部元親:享年38歳



長宗我部家は、この日を境に完全に崩壊することとなった。




───────────────────────────



───一条家



「何?!元親めが死んだだと!」



一条兼定は、織田が攻めてくるまで長宗我部の猛攻にさらされていた。

兼定も相応の優秀さはあったが、それも当主としてというより個人としてである。


そのため、土居のような有能な家臣の専横に耐えられず、その隙を長宗我部に突かれていたのだった。


「よし!よしっ!これで土佐はわたしのものだ!!ははははは」



元親が死んだと聞き、長宗我部家の混乱に乗じて土佐を制圧してやろうと妄想する。


だが、その後の報告で、土佐はすでに織田家が制圧していて手が出せるものではないと知ると、長宗我部の残党狩りを始める。



兼定は、そのままの勢いで織田領も切り取ってやろうと攻撃命令を出すが・・・



「いけ!あの久礼城を攻め落とすのだ!」



一条家の軍数千が、久礼城めがけて進軍する。


しかし、長宗我部家と同じく、織田の矢に阻まれ、あっという間に一条の兵は半減してしまうこととなった。


「な、なんだ!なんなのだ、アレは!!」




織田の迅雷弩は、矢盾を貫通し飛距離も通常の弓の倍ほどある。

それを引き付けてから打ち込まれれば、技術的に遅れた他家にとっては対処のしようがなかったのだった。



「なぜだーー!!!」



この後、一条兼定は土佐征伐を諦め、西土佐に逼塞することとなる。

一条兼定の野望は、この日を境に終わったのだった。


ご読了ありがとうございます。評価いただけますと執筆の励みになります。

最新話の先行公開や活動報告は、Xにて「@SaitoRen999」で検索ください。

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