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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第四章 雪のプレゼント編
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第48話 お勉強の時間

 店内は、天井から穏やかなクラシックが流れており、コーヒーのいい匂いが広がっている。

 テーブルの上に広げられた参考書を見ながら問題を解いていると、飯塚さんのペンがピタッと止まった。顔を覗き込むと、眉間に皺を寄せて参考書と睨めっこをしていた。

 

 「わからないところでもあった?」

 「え?ああ………うん。過去の問題なんだけど…」


 飯塚さんが参考書を見やすい様にひっくり返して、一つの問題を指差す。机の真ん中にある問題を、前屈みになって2人で覗き込み、自然と頭が近付く。彼女は長い茶髪の髪を、さらりと右耳にかける。髪をかけた事で白くて柔らかそうな耳が露わになり、その姿に何故かどきっとしてしまう。

 2人の急接近を観察していた佐倉姉妹は少し離れた席で、悶々としながらショートケーキを食べていた。


 「ちょっと近すぎるっす!なんで真も嫌がらないんすか!」

 「お姉ちゃん…ちょっと落ち着いてよ…」

 「落ち着かないっす!あむ…ふぉんほひうはひはあいっふほへ?(本当に浮気じゃないっすよね?)」

 「先輩に限ってそんな事ないよ…ってか、食べながら話すのやめてくれない?リスみたいだよ?」

 

 しかし、確かに2人の距離は近い。同じクラスメイトとは言え、放課後に2人きりで勉強するなんて何かあるとしか思えない。飯塚さんは…本当に気があるのかもしれない。そんな考えが湧き、自分の考えに自分で苦しくなる。あれ?なんで私…苦しいんだろ…。

 頼んだカフェラテを口に含むとさっきよりも強い苦味が口内に広がった。

 二奈の予想とは裏腹に、本当にただ勉強していただけだった。1時間半程勉強した後、少し雑談してから2人はカフェを退店して行った。鉢合わせない様に少し時間を潰してからマンションへと帰宅する。


 ○ ○ ○


 11月14日。

 1限目が終わった後の休み時間。皆んなが次の授業の勉強をしたり、席を立ち歩いて友達と話している中、三和は真のクラスを訪れていた。

 朝、生徒会の仕事で真と四羽は皆んなとは別の時間に出て行った。その時に真は水筒を忘れて行った。

 きっと困っているはず……そこに私が水筒を渡しに行ってあげれば、真に感謝されるかもしれない…。

 想像で上がった口角を扉の前で必死に元に戻し、ガラガラと教室の扉を開けた。


 「…真、朝水筒忘れた………でしょ……」


 真の席を見ると、そこには机をくっつけて一緒に一つの教科書を覗きながら問題を教え合う2人の姿があった。

 最近は、私ですらあまり一緒に勉強してないのに………ぽっと出の彼女があんなに仲良さそうに…。飯塚さんは本当に勉強だけ?真に気があるんじゃ………。それに、真もなんかデレデレしてる…!私が押し倒した時はあんなに照れてなかった!

 教室の扉の方から殺気を感じ取ってその方向を見ると、三和が俺の水筒を持ってこちらを睨んでいる。三和から殺意と怒りがこもった視線が向けられ続け、すぐに勉強を中断して三和の元へと駆け寄る。


 「ど、どうしたんだよ三和。水筒届けに来てくれたのか?ありが」

 「…違うもん」

 「え?」


 怒った三和は、目の前で真の水筒を一気に飲み干す。ごくごくと飲み込む度に喉が唸る。あまりに急な出来事に、ただその姿を見守ることしか出来なかった。

 全部飲み切った三和はまだ怒っている。水筒を飲み終わり、ギロッと真を睨んで「…浮気しないって言ったじゃん………嘘つき」とだけ言い残し、そのまま去ってしまった。目の前でただ水筒を飲まれた真は、何が起こったのかわからず、ぽかんとしていた。


 昨日と同じ様に飯塚さんとの勉強会話終えて、6時過ぎにマンションに帰ってくる。扉を開けてリビングに入ると、三和が目の前に仁王立ちで待っていた。


 「うわっ!?びっくりした………どうしたんだよ…」

 「…飯塚さんとデート。楽しかった?」

 「別にデートじゃ…」

 「…だったら、明日は私達と勉強して」

 「随分と急だな…」

 「…駄目なんですか」

 「いえ、駄目じゃないです」


 三和の圧に負ける形で、家で勉強会をすることになった。

 確かに、飯塚さんに付き合いすぎていたかもしれない。また、久しぶりに勉強会をする事になった。


 ○ ○ ○


 11月15日。

 学校は勤労感謝の日でお休みだ。朝から6人でリビングに集まって勉強会をしていた。意外だったのは、勉強する事に消極的だった三和と五花がやる気を見せていた事だ。いつもなら苦しそうにやっているのに、今回は黙々と取り組んでいる。夏休み前とは違う2人の成長が感じられる。

 互いに教え合い、補い合う。5人の勉強する様子を眺めていると、7月の勉強会の事を思い出す。

 あの頃はまだ、関係はぎこちなくて「親が決めた許嫁だから」と言う感じが強かった。図書館で言い合いにもなったりした。それが、今はこうして一つ屋根の下で一緒に暮らしている。同じ部屋、同じ壁を越える為に皆んなで協力し合う。

 もう、俺も昔の事は忘れて良いのかもしれない…。

 12時になり、一旦休憩しようとした時。家のチャイムが鳴り響いた。


 「誰か来たんすか?」

 「俺が出るよ」


 こたつから立ち上がってインターホンを確認する。小さなモニターの中には叶が居た。しかし、いつもと様子が違う。画面越しだからよく見えないが、元気が無さそうな顔をしている。

 とりあえずオートロックを解除し、叶を家の中に上がらせる。玄関の扉を開けて入ってくるなり、俺の胸に飛び込んでくる。こんな事をするなんていつぶりだろう。いつもは、気が強く、しっかり者だ。俺のだらけた所を怒る様な子が、こんなに落ち着いているなんて珍しい。

 頭を優しく撫でながらゆっくりと叶を離して、目線に合わせるように腰を屈めて何があったのか聞く。


 「どうしたんだよ。そんな顔するなんてお前らしくないよ。何があったんだ?」

 「あのね………家出…して来た………お兄ちゃんお願い!ここに泊めて」

 「え?えぇっと………。とりあえず、こたつ入れよ。玄関じゃ寒いからな。ほら」


 こくっと小さく頷いた叶はブーツを脱いで暖かいリビングに入った。俺は玄関で叶が脱ぎ捨てたブーツを揃えながらある事を考える。嫌な考えが頭の中に浮かぶ。

 父だ。俺がいなくなった事で、叶により一層厳しくしたのかもしれない。叶は、幼い頃からいくつもの習い事をこなして、勉強も尋常じゃないくらいしている。それでも弱音も吐かず、嫌な顔ひとつしないで頑張っていた。

 でも、そんな叶があんな顔をして俺に助けを求めてくるなんて、母が亡くなった時以来だ。あんな顔を………………。

 父に対して無性に怒りが湧いてくる。今では他人だが、これは許せなかった。


 「マコトっち?何してるの?叶ちゃんが呼んでるよー?」

 「……ああ。今行くよ」


 叶の汚れた黒い革のブーツを少し眺めてからリビングへと向かった。


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