第47話 浮気、ダメ、ゼッタイ
おかしい。
いつもの帰り道。いつもと同じ態度。なのに、3人は俺から少し距離を置いている。それも俺も抜いてコソコソと話している。何度かちらっとこちらを見る度に冷や汗が流れる。
何かしてしまった?何か気づけていない?それとも…き、嫌われている?
嫌な想像が頭の中を駆け巡る。飯塚さんと別れて下駄箱に向かった所で3人とは合流した。その時には既に冷ややかな視線が向けられていた。わからない。結局、少し距離を置いたままマンションへと帰ることになった。
「た、ただいま…」
「あ、おかえりなさい。皆んなお疲れ様!」
「真!早くこたつに入るっす!」
2人は暖かく俺の事を迎えてくれた。良かった。2人はいつもと同じだ。そう思った瞬間に四羽が「2人とも集合!」と招集をかけて、部屋の隅で5人が固まる。5分間の集合が終わった後からは、一華と五花も冷たい態度になっていた。ますます訳がわからない。
「よ、四羽と二奈…夕食の準備、何か手伝おうか?」
「いいえ大丈夫ですよ」
「そうですよ先輩。大人しく座ってて下さい」
「………」
本当に何をしてしまったのだろうか。全く心当たりがない。いや、それが問題なのでは…?
「な、なぁ三和。俺、なんかし…」
「…何もしてないよ。大人しくしてて」
「………」
もうダメかもしれない。一華と五花に関しては話しかけるなオーラが凄すぎて話しかけれない。今話しかければ確実にやられているだろう。
出来る事が何もない。無力感と何もしていないのに、謎の罪悪感が湧き始め、部屋の隅で体育座りをして夕食を待つ。なんでこんな事に………。
その後の夕食もいつもとは違って静かだ。皆んなで、学校で起きた事、面白い猫の動画の話、今度の週末の過ごし方など、たわいも無い会話をしていた筈なのに…。共同生活って喧嘩したらこんなに面倒くさいんだな…。
「ご馳走様でした」
「ご、ごちそうさまでした…」
「じゃあ、やりますか」
「へ?」
俺以外は5人は小さく頷きながら俺の方を見つめる。
「…真が悪いんだからね」
「えっと…な、何かしました…?」
「先輩のせいですから」
「覚悟するっす」
そう言うと、座っていた俺の周りを急に5人が取り囲む。俺の頭、腕、足、体を押さえつけられ、四羽が見下す様な目で仁王立ちしている。俺を睨むその目には殺気すら感じられる。腕もどこも動かない。完全に彼女達に捕まっていた。
「マコトっち!観念しろー!」
「…真の事信じてたのに」
「え?何?何のこと!?」
「今日の放課後、私達と合流する前に告白されましたね?それも、その告白を了承した!違いますか!?」
「はぁ?本当に何の事だよ!」
「まだ言い逃れするっすか!」
「先輩…吐いちゃった方が楽ですよ?」
「いや、本当に!マジで何のことかわかんないから!」
必死に抵抗しているが5人は聞く耳を持たない。すると、ため息を漏らした四羽は徐にキッチンへと向かう。そして、熱々の淹れたてココアの入ったマグカップを持ってこっちにジリジリと詰め寄って来た。
「どうしても吐かないと言うのなら…飲ませるまで!残念です…」
「ちょっ!ちょっと待てよ!本当に何も知らない…ん?」
そこで自分の行動を振り返る。階段の踊り場で飯塚さんから勉強の誘いを受けてそれを了承した。その時の飯塚さんの声が大きくて………。確か、四羽達に会ったのはその後。その時にはもう…。
「そう言うことか……!なあ聞いてくれ!それは誤解…って熱っぅう!!」
「あ、ごめんなさい…」
もう少しで弁明出来たのに……。
5人はとりあえず落ち着き、こたつを皆んなで囲む様に座る。
俺は頬に保冷剤をくっつけてマグカップが当たった所を冷やす。謎が解けて、俺が急に動いた時に近づけていたマグカップに当たってしまったのだ。自爆である。
「つまり、真はその飯塚さんとの勉強の約束をしたと。それを了承した後に飯塚さんが『付き合ってくれるの』と大声で言ったことで私達が勘違いした…と言うことですか」
「…真ごめんね。…勝手に勘違いして、あんな態度取っちゃって…」
「私もすみません。てっきり先輩が浮気したのかと…」
「そんな訳ないだろ、一緒に暮らしておいて。それに、家を出て行くくらいの事をしているのに、浮気なんてしないよ」
「マコトっち…」
「真…ちょっ、ちょっとかっこよかったっす…///」
5人は俯いて頬を紅色に染める。それがこたつの熱なのか、照れから来る熱なのか。その両方なのか。5人の照れる姿を見て、真はぼりぼりと頭を掻く。
5人も居るんだから、浮気したらすぐにバレて何をされるかわからない。と言う理由は心の中にしまっておこう。本当に何をされるかわからない…。
○ ○ ○
11月13日。
辺りを夕陽が差し込み、校庭から部活動の生徒の掛け声が聞こえてくる。放課後になり、昇降口に向かうと、既に飯塚さんは壁に寄りかかりながら、俺の事を待っていた。昨日とは違ってスマホは見ていない。サッカー部や陸上部が活動している校庭を、ただぼんやりと眺めていた。
俺の事を見つけるや否や「やっと来たー!ほら、行こう?」と腕の裾をぐいっと引っ張って俺を強引に外に連れて行く。
外に出る2人の姿を、他学年の下駄箱の陰から二奈と一華がこっそりと観察していた。
「あ、行っちゃったよ!お姉ちゃん!」
「あんなに馴れ馴れしく…よし、尾行開始っすよ!二奈!」
飯塚さんと俺の後ろを、20m程離れた所から二奈と一華がこっそりとついて来ている。これは昨日、飯塚さんとの関係を見張る為に一華が言い出した事だ。やましい事がないか確認しているらしい。因みに、やましいと判断された時点で突撃してくるとか。怖いよ…。
「ねぇ、門川くんは勉強する場所はどこが良いとかある?」
「え?あぁ…カフェとかはどう?ゆったり出来るし、飲み物でも飲みながらさ」
「いいね!オススメのところでもあるの?」
そう言われ、皆んなとよく来るカフェにやって来た。四羽と出会ったカフェだ。チェーン店だが、いつも混んでいないし、誰もいないと言うわけではない。老夫婦やサラリーマンなどが休憩しに来ているだけで、落ち着いた雰囲気が気に入っている。特に他の所の店との違いは無いが、強いて言うならここに来るお客さんが好きなのかもしれない。
コーヒーと苺ラテを頼んで、店の奥にあるテーブル席に座る。机の上に持って来た参考書や教科書を広げ、勉強を始める。




