表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/73

呪印

 話は終わりとばかりに口を閉ざす葉月さんに、私はずいっと一歩近づいた。

「本当にそれだけですか? 」

「……と、いいますと? 」

「だって葉月さん、肝心な私の質問に答えてくれていませんよ! 何故葉月さんは倒れてしまったのか、ここまで来たら全て教えていただきます!! 」


 しかし、葉月さんは頑なに首を振った。

「結奈さん……これ以上はあなたが知る必要のないことです。あなたは、帰ることだけを考えていれば良い」

 その言葉に、喉が締め付けられた。

 一月以上も共に時を過ごしたのに、あまりにも他人行儀な言い方だ。


 暴れ回る感情に溺れそうで、私は一度目を伏せた。

 そして、絞り出すように呟く。

「そんなに……私は頼りないですか? 自分のことしか考えられないような、そんな小さな器に見えますか? 」

「え……? 結奈さん? 何を言って──」

「私は葉月さんに沢山助けてもらいました。両親を守ろうとしてくれたことにも感謝しています。今度は私が、葉月さんを助けたいんです! 」

 今まで、こんなに声を荒らげたことがあっただろうか。

 私は空間に響き渡るような声量で、目一杯主張した。


 葉月さんは僅かに目を見開いたあと、ふっと小さな笑みを浮かべた。

 諦めたような、困ったような、今まで見たことの無いほど幼い微笑み。

 まるで、貼り付けていた仮面が取り払われたような、そんな表情だった。


「結奈さんにはかないませんね。わかりました。教えましょう。呪印の、本当の力を」

 私はゴクリと喉を鳴らして頷いた。

「私にかけられた呪いは二つ。1つ目は、先程言った、神力の流出を制限するものです。しかし、それはとてももろい呪いでした。私が本気になれば、すぐにでも壊れるでしょう」

「え? それじゃあ、罰の意味が無いですよね」


 何故そんなものを? と眉を寄せる私に、葉月さんはコクリと頷いた。

「そうです。だから神様は、二つ目の呪いをかけたのです。一つ目の呪いが壊れた時、それは発動します」

「……その呪いは? 」

 心臓をそっと押さえながら、私は聞いた。

「神力を体から引き出す呪い。その体から神力が無くなるまで、永遠に止まらない呪いです。私は……既に発動させてしまった」


 静かに告げられたその言葉に、私は絶句した。

 神力が無くなるという意味が何を指しているのか、瞬時にわかったからだ。

 神力の消滅とは、つまり死を意味する。

 私は悔しさと怒りを覚えて、拳を握った。


「そんな……そんなの、全然厳罰じゃない。だって葉月さん、被害者じゃないですか! どうしてそんな目に──」

「結奈さん」

 私の声を遮って、葉月さんは柔らかく笑った。

「あなたがそうやって怒ってくださるだけで、私はもう十分ですよ。それに、私はそれ相応の過ちをしてしまいました。当然の報いです」

 私は何かを言おうとして、口を閉じた。

 今私が声を荒らげたって、状況は何も変わらない。

 ただ葉月さんを困らせるだけである。


 葉月さんが、肩を落とした私の手をとって、笑いかけた。

「そろそろ帰りましょう」

 私はその言葉に、小さく頷いた。




 葉月さんの記憶を見た日の夜。

 私はベッドの上で、何度目かのため息をついた。

 窓から見える月は、もうほとんど満ちている。

 明日には立派な満月が見られるだろう。

(もう明日なのに……。葉月さんが言いたくなかった理由、やっとわかったよ。こうして私が悩む事を危惧していたんだね。後腐れなく現世に帰って欲しいからって)


 記憶の中から戻ってきて、私は葉月さんと一度も会話することなく自室に戻った。

 心と頭がいっぱいいっぱいだったのだ。

 でも、落ち着いて考えてみれば、こうして葉月さんの思いも理解出来る。

 そして、自分がどうしたいのかもわかった。

(……よし! こうなったら、私も覚悟を決めよう! )

 私は一つ頷き、毛布を勢いよく引き寄せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=682575671&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ