第五回 本当にいけず!
管理人さんの姿は、まるで“冬を越す浪人生”のような姿だった。
ぶあっついでんちをきているころを見ると、結構寒がりなのかと推測される。けれどこの温かくなってくる時期に、この姿はどうなんだろう…
「あら、耕輔クンと美奈子さん、それに律佳ちゃん♪…それとー…えっと?」
管理人さんは、私の横に舌を出して座っているドク太に視線を移した。
「ワゥン!フーッ」
ドク太は必死に名前を言おうとして鳴いたが、やはり管理人さんに通じるはずもなく、
「あ、ドク太君ね♪」
ってそれで分かるんだ!?と言うか人語理解できるドク太って一体何犬!?
と、とりあえず目的である挨拶を済ませないと…
「あの!私 泉源みなk」
「立ち話もなんですし、みなさん中にお入りください♪」
「くふぅ…」
ありがた迷惑な管理人さんの言葉に挨拶はかき消され、私達三人と一匹は、管理人さん部屋にお邪魔することになりました。
管理人室に入って、私はその部屋の異常な普通さに驚いた。
「管理人室って割と普通なんですね〜…」
「ええ。どのようなものを想像していらしたんですか?」
「ええ、とですね、こう、日が良く入るテラスがあって、海に面していて、システムキッチンで、ハンモックとかあって」
「……」
あれ?みんなの目が冷たく感じるのは何故だろう?
「私も最初はそう思ってたんだけどさ、美奈子ちゃん」
言われて律佳ちゃんの方に顔を向けると、ってその哀れみの目はなんですかー(汗)
「それはどこかのお偉いさんの家なんだって」
律佳ちゃんに突っ込まれたー(泣)
って言うか律佳ちゃん、作中では初めて美奈子ちゃんって言ってくれたのにこんなんなの!?
「と、とりあえずみかんでもどうぞ」
空気を察したのか、管理人さんはみかんの沢山入ったカゴをよいしょとコタツ机の上に出した。
…あれ?今どこからそれ出したんですか?(汗)
ちなみに今、その机にコタツ布団はつけられていないので、ただの机となっている。
「ありがとうございます!頂きます〜」
私は喜んでみかんをもらった。昔からみかんは大好きなのです!
「ち、智香さん、やっぱり年中みかんですか?」
耕輔くん苦笑いしながら管理人さんに向かって言っている。私と言えばすでに皮を剥き終えて、薄皮ごとみかんを頬張っているところだ。
…なるほど、この管理人は智香さんて言うのか。何気なく隣の律佳ちゃんを見てみる。彼女もみかんを頬張って、
「もぐもぐ」
ってきゃーーーっ!?律佳ちゃん本当に「もぐもぐ」って食べてるー!!
くぅ、可愛い!(照)可愛すぎるーっ!商品化いけるんじゃないか!?
「それで耕輔クン、何か用でもあったのかしら?あ、もしかして」
智香さんはポンと手を打った。
「律佳ちゃんの行いによるマンション住民の苦情沈静ですか?」
え。何ですかソレ(汗)
しかも智香さんの口ぶり、かなり慣れてる感じが…。
「いや、今日はそうじゃないんです」
ん?今日は?(汗)今日はって言ったの?耕輔君?じゃあなに、前回があるってこと?いや、間違いなくあるよね…?(汗)
「まして今日は律佳関係のことではなくって。美奈子さんが、是非智香さん、つまり管理人さんにご挨拶したいと仰いまして」
智香さんは納得したように頷き、そして
「なるほど。みなさんで来られたのは、そうゆうことですか」
にっこり微笑んだ。
ってどうゆうことですか?(汗)本人(私)さえ分かってないですよ?(汗汗)おせーて?ねえおせーてよ?
まあでも、耕輔君が言ったことは事実だし、ここは素直に挨拶しておこう。
「えっと、このマンションに引っ越してきた泉源 美奈子です。これからご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします、智香さん」
「いえいえ、慣れてますから。こちらこそよろしくね、美奈子さん」
…ぐぅ、前方に一言多いよ、智香さん(泣)
しかしそれが結果的に、私と智香さんの間に温和な空気が流れる要因となり…思いきや、
「へーっ、美奈子ちゃんってイズミモトって言うんだ!」
知らなかったのかよ!
ドク太の両手を持って両足立ちさせている律佳ちゃんにその空気は見事に破砕され、一同苦笑いしました。
「あ、それよりちいちゃん、知ってた?この美奈子ちゃんはね、なんと!!かたりはね高のりじty」
「はい、しつこい」
律佳ちゃんの頭にお決まりの耕輔君手刀が入りました。
日が暮れる前、夕映えが空に照る時間に、私達は帰ることにしました。と言っても、ただエレベータに乗って上の階に行くだけだけど。
「今日はありがとうございました、楽しかったです」
智香さんが笑顔で玄関まで見送ってくれ、そう言った。相変わらずぶあっついでんちを着ているのでそれが目に付く(汗)
「いえ、こちらこそありがとうございました。それにお忙しい中長居してすいません」
管理人さんと言えば多忙が常だろう。それでも智香さんは全くそんなことを窺わせず、笑顔で振舞ってくれた。
「いえ、またいつでもきてください」
玄関扉を開けると、味気ないドアの向こうから夕映えが指し、智香さんを照らした。
「お邪魔しました」「ワウッ」
耕輔君と律佳ちゃんと私、ドク太とで軽く頭を下げ、私達は部屋を後にした。
「あ、ねえドク太、知ってた?なんと美奈子ち」
「通じるかって」
やはり最後も耕輔君手刀が決まりましたとさ♪