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BOY'S AUTOBIOGRAPHY  作者: 岳元らいと
13/25

13 紀井 智明②

・・・・・・・・・・




 い、家の前に着いちゃった……。


 結局この帰り道中、おれは考え事ばっかりしていてやすの話も半分くらいしか聞けてなかった。

 やすはそんなおれを見ながら「何か怪しい」って顔してた。

 絶対、何か気づいてるよなぁ……。


「じゃあ、あとでね」

「う、うん」


 ああ、どうしよ……。

 やす、もう家の中入っちゃうよぉ。

 えっと、えっと……


「ねえ、いい加減何隠してるのか言ってくれないかな」


 うっ……や、やすのほうから言ってきちゃった……。

 し、しょうがない……ちゃんと言わないと、男らしくないもんなっ。


「あっ、あのっ、明日、……一緒に、出かけようっ」

「……えっ? 明日?」


 うあっ、何か妙な顔された……。

 イヤだったのかな?

 明日は土曜だけど何の予定もないって言ってたから、大丈夫だと思ってたんだけど……。


「う、うん。そう」

「何しに行くの?」

「お、おれ、観たい映画があるんだ」


 い、言えたっ。


 おれ、明日は土曜だからやすと映画観に行こうって考えてたんだ。

 観たい映画、この前公開されたから、やすの都合のいい日を確認しといたんだけど……うっかりやす本人に訊くの忘れてたんだ。


 ……ごめんなさい。嘘です。

 ずっと訊こうって思ってたんだけど、その……何か、誘うのが照れ臭くって。

 前までなら、普通に誘えてたんだけど、最近ちょっとそういうお出かけとかに誘うのが何か恥ずかしくってさ。

 ただ公園で遊ぶとか、家に行くとかなら言えるのに、……恥ずかしいの、何でか分かんないよ。


 あー、やすの顔、きょとんとしてる……。

 やすの予定は知ってたんだけど、前日に訊くのはやっぱマズかったかな……?

 何か言わないと……。


「その……だから、えっと……」


 うぅ……上手く言えないよぉ……。

 えっと、えっと……。

 何て言えば……


「いいよ。行こうか」


 何て言えばいいか考えなきゃ……。

 かんが、え……


 えっ……?


 い、今、いいって言った?

 いいって言ったよね!?

 ははっ、やった!

 よかったっ!


 や、やばい、嬉しすぎて顔が緩んじゃった。


「あとでともの家に行った時に話そうか」

「……うん! じゃ、またあとで!」


 大きく手を振りながら、おれは自分ん家に入った。


 ……ふりをした。


 ん……やす、今日は普通の顔して家に入ってった。

 よかった。


 おれも家に入ったのは入ったんだけど、完全にドアを閉めたわけじゃない。

 ちょっとだけドアを開けて、正面の家の様子を窺う。

 正面の家ってのは、さっきも言ったけど、やすの住んでる丸内家のことだ。

 別に見張ってるとかそういうんじゃないんだけど、何ていうか、やすって……あ、これって言っていいことじゃないか。

 黙っててくれる?

 じゃ、話す。


 やすの家は、やすとやすの母親(おばさん)の二人暮らしなんだ。

 事故で亡くなっちゃったらしい父親(おじさん)のことは、やすもおれも少し覚えてるくらい。

 おばさんはね、やすのために毎日朝早くから夜遅くまで働いてるんだ。

 やすもそれが分かってるから、あんまりおばさんに迷惑や心配かけるようなことをしないようにしてるし、お小遣いも無駄遣いなんて絶対しないんだ。

 おれは……最近やすに言われてやっと貯金が貯まってきたくらいだけど。

 それはどうでもよくって!


 おれがやすの様子を窺ってたのは、……前にやすがおれの前で大泣きしたことがあったからなんだ。

 別に大泣きしたことはいいんだけど、その理由が問題なんだよ。

 えっと……この前の運動会のことだった。

 ちょっと細かい説明は省くけど、元々はおれの発言のせいでやすを怒らせちゃったんだ。

 で、謝るためにやすの話を聞こうとしたら、突然「ずっと一緒にいてくれる?」って言われた。

 おれはやすが何で悩んでるのかが分かって、自分の発言がマズかったのを思い知った。

 そしたら、その日からやすが家に入る時にちょっと寂しそうな顔をしてることに気づき始めた。

 おれ、今までそんなことにさえ気づけなかったんだって情けなくなった。

 だから、そんな顔をさせたくないって思ったんだ。

 って、まあ、おれがやすが家に入るまでを見張ってる理由がそういうことってだけの話なんだけど。


 さてっと。


「母ちゃん、ただいまぁっ」

「おかえりぃ」


 おれもはやくやすを迎える準備しないとな。


 おれん家は、父ちゃんは一日中働いてて、母ちゃんはおれが帰ってくるくらいの時間まで働いてるんだ。あ、たまに母ちゃんも遅くなる時はあるけどね。


「智明っ、あんたまた服汚してきたね」

「あっ、あはは……」


 今日の昼休みにやすと遊んでて転んだんだっけ。

 サッカーしてたんだけど、トラップミスしてボール踏んじゃってさぁ……派手に転んだ。

 思い出したっ!

 やすの奴、心配そうな顔してたくせにゲラゲラ笑いだしたんだよっ。

 ヒドいと思わないっ?


「あっ、そうだ。やすすぐ来るって」

「ああ。オッケー」


 やすが家に来るの、いつになっても楽しみなんだぁ。

 今日は何しようかなぁ。

 ゲームもしたいしぃ、色々話したいこともあるしなぁ。

 あっ、勉強教えてもらう約束、今日にしようかな。


「ほら、やすくん来る前に服着替えてきな」

「ええーっ、いいよーっ」

「着替えてきな」

「……はい」


 母ちゃんに逆らうと恐いのだ。




・・・・・・・・・・




 自分の部屋に荷物を置いて、母ちゃんに言われた通り服を着替え終わったタイミングでピンポンが鳴った。

 母ちゃんが対応したのが分かって数秒後、家の中に母ちゃんのでっかい声が響いた。


「ともあきぃーっ、やすくん来たよぉっ」

「はーいっ」


 やすが来たぁっ。


 急いで階段を下りて、玄関のほうに向かうと靴脱ぎ場にやすが立っていた。

 あ、くにあきも一緒だ。

 くにあきはね、やすん家で飼ってるおれたちで見つけた猫なんだ。


「いらっしゃい、やす!」

「お邪魔します」


 靴を脱いで入ってもらうと、やすは抱いていたくにあきを床に降ろした。

 くにあきは床に降ろされると母ちゃんがいる台所のほうに走っていった。

 餌もらおうとしてんのかな?


「ああ、くにあきも来たのかい。いらっしゃい。智明・やすくん、ご飯までもう少し時間あるから、しばらく待っててね」

「「はーいっ」」


 そう返事すると、やすが「あっ」と声を上げた。

 何かを思い出したみたい。

 左手に持ってるものに関係あるのかな?

 あっ、くにあきの餌かな。


「すみません。これ、くにあきのご飯です。あとであげてください」

「ああ、はい。ちゃんと受け取ったよ」


 当たってたみたい。



 しばらくおれの部屋でゲームをしたりじゃれてたりしたら、ご飯の時間がきた。

 今日はからあげだぁ。

 おれ、からあげ大好きなんだよねぇ。

 やすも好きだから、母ちゃんが気を利かせてくれたのかな。

 やすって意外と好き嫌い多いんだよ。

 にんじんとかピーマンとか食べたくないっていつも言ってるもん。

 給食の時なんかおれがちゃんと食べろって言わないと絶対食べないんだよ。

 やすも子どもっぽいとこあるよねぇ。


「とも、今何か言った?」

「言ってないよ」


 お互いの考えてることが分かっちゃうっていうのは厄介だね。


 しばらく喋りながらご飯を食べていたら、テンションが上がっちゃって。


「智明ッ、喋るのはいいけどもうちょっと静かに食べなッ」


 怒られちゃった。


「まったくもう。あ、やすくん、おかわりは?」

「あ、お願いします」


 やすがごはんのお茶碗を渡すと、母ちゃんは立ち上がって炊飯器の前に向かった。

 それを見てから、やすはおれのほうに顔を向けてきた。

 その顔はまるでいたずらでもするみたいににやにやしてて、ちょっとむっときた。

 何か言いたそうな顔だな。


「怒られてやんの」

「うっさいっ」


 小声ではあったけど、そんなこと言うためだけにこっち向いたのかよ。

 意地悪いなぁ。

 楽しそうにしてぇ。

 やすってこういうとこあるよなぁ。


「母ちゃんっ、おれもおかわりっ」

「はいはい」


 ヤケ食いしてやるっ。




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