第二十九話「獣人の剣士」
俺とリーシアとシルヴィア、それから新しく仲間になったルルは、彼女が宿泊している宿のからほど近い酒場に入った。
ルルはクエストが終わると、宿に戻る前に、この酒場に寄って簡単に夕飯を済ませる事が多いのだとか。
葡萄酒の種類が豊富で、値段も安く、お酒を沢山飲む人にはお勧めの酒場だとルルが教えてくれた。
酒場の中で空いている席を見つけると、俺は隣の椅子にシルヴィアを座らせ、向かいの席にリーシア、リーシアの隣にはルルが座った。
まずはシルヴィアにルルを紹介する事にした。
「シルヴィア、こちらは冒険者のルルだよ。俺と共に戦闘能力試験で戦ってくれたんだ」
「私はレオンの召喚獣のシルヴィアよ。よろしく」
「私は十五歳の魔法剣士、ルル・フランツ。よろしく……」
俺は店主を呼んで食べ物を頼む事にした。
果物の盛り合わせと適当な肉を頼んでおけば良いだろう。
シルヴィアとリーシアはとにかく沢山食べるからな。
精霊の契約をしたばかりのリーシアは、信じられない程の食料を一日の内に食べていたが、成長が落ち着いた今は、以前よりも食欲も少なくなった様だ。
少なくなったと言っても、俺よりは遥かに多くの食事を摂る。
「ご注文は? 今日はクラーケンのから揚げがお勧めだよ。冒険者ギルドのマスターベルネットが倒した魔物なんだ」
「え? マスターが?」
「ああ、マスターベルネットが倒した魔物を安く売って貰ったのさ。小さく切ったクラーケンの足を揚げた料理なんだが、エール酒によく合うんだ」
「それじゃクラーケンのから揚げと、ソーセージ、四人分のエールと、フルーツの盛り合わせを持ってきて下さい」
メニューを見ながら適当に頼むと、リーシアもシルヴィアも待ちきれないと言った表情で俺を見た。
「シルヴィア、リーシア。お酒を飲む前に伝えていくことがあるんだけど。ルルにはこれから俺達のパーティーに入って貰おうと思うんだ。ルルと一緒にゴーストと戦って分かったんだけど、ルルは本当に優秀な剣士なんだ。俺が魔法を作り上げている間も、俺の事を守りながら雷の魔法でゴーストを遠ざけてくれたし……」
「レオン。私はあなたの召喚獣なの。レオンが決めた事なら私も賛成よ。それに、私も魔法能力試験でのルルの魔法を見ているわ。ルルの戦闘力は知らないけど、あの攻撃は本当に凄かったわ」
「私も賛成だよ」
シルヴィアもリーシアもルルのパーティー加入に賛成してくれている。
これから同じ特待生として四年間一緒に過ごす仲間なんだ。
ルルの事も他の仲間と同じように大切にしよう。
ルルは自分が認められた事が嬉しかったのだろうか、目に涙を浮かべて俺達にお礼を言った。
「私、ザラスに来てから誰もパーティーを組んでくれなくて……本当に寂しくて、何度も故郷に戻ろうと思ったの。ずっと一人で魔物と戦ってきたの。皆のパーティーに入れるなら絶対に私が皆を守ってみせる……」
「ありがとう。ルルが居れば俺達はもっと安全にクエストを遂行出来ると思うんだ。近い内にクエストを受けに行こうよ」
「うん……」
こうしてルルはリーシアとシルヴィアに認められて俺達のパーティーに加わった。
彼女が入る事によって戦闘力が大幅に上がった事は間違いない。
頼れる仲間が一人増えて、本当に嬉しい日だな。
しばらくすると四人分のエールが運ばれてきた。
俺もリーシアもシルヴィアもお酒が好きで、夜寝る前に部屋で少しお酒を飲んでから寝る事が多い。
ゴブレットに入ったエールはキンキンに冷えている。
冷えたエールを口に含むと、苦みが少なく、口の中にはフルーティーな甘みが広がった。
「美味しいエールだね。俺達、本当に魔法学校に入学出来るんだよね。正直、魔法能力試験で二十五位だった時は相当焦ったんだよ」
「実は私も……レオンならもっと魔力が高いと思ったけど、レオンはやっぱり実戦形式の方が強いよね」
「そうなんだよね。単純に魔力を測るだけの試験は不利だったよ。俺、リーシアやシルヴィアみたいに魔力が高い訳じゃないからさ」
「でも、レオンは戦闘能力試験で一位だったじゃない。それに、一位で入学出来たんだから、本当に誇らしいわ。私は強い冒険者に召喚されて幸せよ」
「ありがとう、シルヴィア。俺はもっと強くなるよ。シルヴィアのためにも、仲間のためにも」
「レオン……」
シルヴィアは嬉しそうに俺に腕を絡ませてきた。
俺の腕にはシルヴィアの豊かな胸が当たる。
暖かくて信じられない程柔らかい。
「レオンは召喚魔法が得意なんだよね? 魔術師ギルドには登録してる?」
「召喚魔法は得意だけど、魔術師ギルドには登録していないよ。一応職業は冒険者ギルドの戦士だよ。最近は戦士じゃなくて魔法と剣術を両立した戦い方をしているけどね」
「そうなんだ。私もレオンみたいに剣術と魔法を使ってるんだ。ギルドでは魔法剣士として登録しているんだよ」
「魔法剣士か、俺も戦士じゃなくて魔法剣士にしようかな。確か登録出来る職業って、好きに決められるんだよね」
「そうだと思うよ」
これから魔法学校で魔法を専門的に習うのに、職業が戦士では少し違和感があるような気がする。
魔法剣士と名乗るのも良いかもしれないな。
ちなみにシルヴィアは魔法剣士として冒険者ギルドで登録している。
明日にでも冒険者ギルドに行って職業を変更しよう。
「レオン、入学までの一か月間はどうするつもり? クエストを受けるの?」
「そうだね、ザラスに滞在しながら討伐クエストをこなすつもりだけど、魔法の練習をする時間を増やしたいな」
俺達は四人で話し合って、午前中はザラスのダンジョン前で魔法の訓練と戦闘の訓練を行い、午後はクエストを受ける事にした。
入学までにゆっくり時間を掛けて魔法の練習をしよう。
アローシャワーにも慣れてきた事だし、新しい魔法を覚えるのも良いかもしれないな。
そして、魔法剣士を名乗るなら、ルルの様に剣から魔法を放つ練習をした方が良いだろう。
「ルル、サンダーブローってやっぱり難しいのかな、俺は火属性しか使えないけど、剣から火を飛ばすのってどうやったらいいのかな」
「あまり難しくないよ。剣に溜めた魔力を放出するだけ。今度私が教えてあげる!」
「ありがとう!」
「うんん。私はパーティーに入れて貰ったんだから、皆のためになるように頑張るの」
「俺もルルのために頑張るよ」
俺達はそれから二時間ほど、酒場でお酒を飲み、美味しい料理を堪能した。
クラーケンのから揚げが美味しすぎて、リーシアとシルヴィアは二皿も食べてしまった。
明日にでもベルネットさんにお礼を言っておこう。
会計を済ませて外に出ると、ルルにお別れを言ってから解散した。
解散したと言っても、明日の朝から一緒に行動する事になっている。
俺達はベルネットさんのお父さんが経営している宿に向かって歩き始めた……。
「レオン、ルルはいい子だね。もっと早くに出会いたかったな」
「そうだね。強いし可愛いし」
「可愛いの……? 私とルル、どっちが可愛い?」
シルヴィアは俺の手を握って少し怒ったように質問をした。
答えづらい質問だが、自分が召喚した仲間の方が可愛いに決まっている。
「俺のシルヴィアの方が可愛いよ! 当たり前じゃないか」
「本当……?」
「勿論さ。綺麗な髪の色も、緑色の目も可愛い」
「嬉しいな……レオン……」
お世辞ではなく、俺はシルヴィアがどんな女性よりも美しいと思っている。
色白ですらっとした体型。
豊かな胸に、緑色と銀色が混ざったような美しい髪の色。
どこを見ても美しい。
勿論リーシアも可愛いが、シルヴィアには大人の女性の雰囲気がある。
それに、自分が召喚した魔物だからより愛着が沸くのだろうか。
精霊王の力は偉大だな……。
ベヒモスやゲイザーの様な強い仲間を召喚する事も出来れば、ボリスの様に戦闘を行わない可愛らしい魔物も召喚できる。
更にこの力を活用して俺はAランクの冒険者になるんだ。
宿に着いた俺達は、主人のカール・ベルネットさんに魔法学校に合格した事を報告し、明日からのルルとの訓練のために早めに休む事にした……。