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第十六話「ダンジョンの悪魔」

 〈ザラス・ダンジョン前〉


 ダンジョンの前に着くと、スケルトン達とレイス達が退屈そうに俺達の帰りを待っていた。

 俺はしばらく待たせた事を謝罪してから、すぐに新しい仲間を紹介する事にした。


「皆、こちらは幻獣のウィンドデビル、名前はシルヴィアだよ。俺達はこれからダンジョンに潜って魔術師達を救出する! 今までダンジョンの周辺で狩りをしてきた俺達なら、きっとダンジョン内の魔物とも互角以上に戦えると思っている! 絶対にこのクエストを成功させるぞ!」


 俺が気合いを入れて宣言をすると、仲間は武器を空に掲げた。

 パーティーでの陣形は、前衛が俺とフーガ、シルヴィアは俺達のすぐ後ろで待機。

 シルヴィアの戦闘能力は未知数だが、ウィンドエッジを使って敵を切り裂く事は出来るだろう。

 俺達の背中は三体のスケルトンとリーシアに守ってもらう。

 リーシアは回復魔法と防御魔法、それから攻撃魔法を中心に使って貰う事にした。

 二体のレイスは遊撃だ。

 空中を自由に飛び回って、敵の死角からロングボウを使った攻撃を仕掛けて貰う。

 体の大きいボリスに関してはダンジョン付近の森の中で待機だ。


 俺達はダンジョンの扉の前に立つと、ダンジョン内に潜む魔物の魔力を体に受けた。

 やるしかない……。

 俺達が魔術師を救出しなければならないんだ。

 急ぎながらも慎重に進もう。

 俺達はすぐにダンジョンの中に入った……。



 〈ダンジョン・地下一階〉


 ジメジメとした石造りの階段を、ゆっくりと一歩ずつ降りると、そこは大広間になっていた。

 大広間には魔物の死骸が転がっている。

 魔物の死骸から流れる血の匂いが充満している。

 気持ち悪いな。


 大広間にはスケルトンとゴブリンの死骸がざっと二十体以上ある。

 俺は一瞬、素材から新しく魔物を作り出そうか考えたが、ダンジョンの下層で強力な魔物と出くわした場合、果たして生まれたばかりのスケルトンやゴブリンの様な、魔獣クラスの魔物の中でも低級な魔物が役に立つかどうか、疑問を抱いた。

 きっと何の役にも立たないだろう。

 そして、スケルトンなら既に訓練を積んだ心強い三体の相棒が居る。


 魔物の素材はスルーして、俺達は大広間の奥に進んだ。

 一体このダンジョンはどのようにして作られたのか、なぜザラスからほど近い場所にダンジョンが出来たのか、色々気になる事はある。

 だが今はそんな事を考えている場合ではない。

 このダンジョン内の何処かでは、今も魔術師達が結界を張って魔物の攻撃を防いでいる。

 生きていてくれよ……。


 地下一階の大広間の奥は細長い通路になっていた。

 俺は新しく買ったブロードソードを右手で構え、左手には炎の球を作り上げた。

 予め魔法を準備しておけば、敵がいつ襲って来てもすぐに反応出来る。

 これは俺の普段の戦い方だ。

 一秒でも敵の攻撃に早く反応する事が、戦闘での勝敗を決める。


 俺の背後ではシルヴィアが緊張した面持ちで武器を構えている。

 フーガはシルヴィアをサポートするかのように、彼女の隣をピッタリとくっ付いて歩いている。

 まったく頼もしい奴だ。

 細くて暗い通路を進むと、突き当りには小さな部屋があった。

 俺達が部屋に入った瞬間、薄暗い部屋の奥からは一体の魔物が姿を現した……。


 無数の触手を体から生やし、巨大な目を体の中央に持つ魔物。

 触手の先端にはナイフのような鋭い爪が付いている。

 切り裂かれればひとたまりもないだろう。

 見た事もない魔物だが、どう考えも魔獣クラスの魔物ではない。

 きっと幻獣に違いないだろう。

 まずいな……。


「レオン、あれはゲイザーだと思う。闇属性の幻獣だよ」

「やっぱり幻獣か……」


 俺達が部屋に入るや否や、ゲイザーは触手を伸ばして鋭い攻撃を放ってきた。

 俺はブロードソードでゲイザーの触手を切り落とすと、ゲイザーの触手はすぐに再生した。

 ありえない……。

 すると、パーティーの最前線に立っている俺の背後から、鋭い風の魔力を感じた。


『ウィンドエッジ!』


 攻撃を放ったのはシルヴィアだった。

 シルヴィアはでたらめに剣を振り下ろすと、剣の先からは風の刃が放たれた。

 シルヴィアが放った風の刃は、ゲイザーの触手を切り落としてから消滅した。

 しかし、切り落とされた触手はすぐに再生した。

 絶望だな……。

 どうやって勝てば良いんだ?

 無限に再生するのか?

 もし無限に再生するなら、弱点など存在するのだろうか。


 無数の触手が俺達パーティーに攻撃を仕掛け続けている。

 俺はかろうじて触手の攻撃をブロードソードで切り落としている。

 後退しようと退路を確認した瞬間、部屋の扉が閉まっている事に気が付いた。

 罠か……。

 倒すしか生き残る道はない。


 ゲイザーは無数の触手を鞭のように使い、俺達パーティーに容赦ない攻撃を続けている。

 まともに触手の攻撃を防げているのは、俺と三体のスケルトンだけだ。

 他のメンバーはゲイザーの攻撃に反応が追いついていない。


 リーシアは俺達の背後から、魔力で作り上げたマナシールドを貼っている。

 シルヴィアはウィンドエッジを次々と放ち、フーガは何とかゲイザーに近付こうと、触手を掻い潜って前進するも、あと一歩のところで触手に吹き飛ばされた。

 二体のレイスは、ゲイザーの触手が届かない場所から矢を浴びせている。

 ダメージは少しずつ通っている様だが、決め手にはならない。

 どうしたら良いんだ……。

 このまま敵の攻撃を防ぎ続けていてもゲイザーには勝てない。

 弱点はないのか?


「レオン! 目を狙って!」

「目!?」

「そう! きっと目が弱点!」


 俺はリーシアからアドバイスを受けると、ゲイザーの巨大な目に左手を向けた。

 ありったけの魔力を込めて炎の矢を飛ばしてやる。


『ファイアボルト!』


 魔法を叫ぶと、炎の矢は物凄い勢いでゲイザーの目を捉えた。

 巨大な目に攻撃を喰らったゲイザーは、怒り狂って口を大きく開いた。

 瞬間、ゲイザーの口からは強い炎が放たれた。

 え? 火属性の攻撃まで使えるのか。

 俺は咄嗟に敵の攻撃に対して水平切りを放った。


『スラッシュ!』


 火の魔力を込めた水平切りを放つと、ゲイザーの火炎を切り裂く事は出来たが、攻撃をする事によって隙が生まれた瞬間、ゲイザーは刃物の様に鋭い触手で俺の腕を切り裂いた。

 俺の右腕には激痛が走った。

 やばい……。

 死ぬ……。

 俺の腕からは大量の血が滴り落ちている。

 意識もだんだんと遠のいていくような気がする。


 三体のスケルトンは、俺を庇うためにゲイザーの前に立ちはだかったが、スケルトンだけではゲイザーの攻撃を防ぎきれず、一体、また一体とゲイザーの攻撃によってスケルトン達は殺された。

 ふざけるなよ……。

 俺の仲間を……。


『リジェネレーション!』


 激痛で動かす事すら出来ない右腕に、リーシアはすぐに回復の魔法を掛けてくれた。

 リーシアの魔法によって腕の痛みは軽減されたが、腕には全く力が入らない。

 指を動かす事も出来ない……。

 まずいな……。


 そうだ、ベルネットさんから貰ったポーションを使おう。

 俺は左手を懐に突っ込んでポーションを取り出し、一気に飲み干した。

 ポーションを胃に入れた瞬間、俺の右腕は以前よりも遥かに逞しい状態で再生された。

 ゲイザーめ……。

 よくも俺のスケルトンを殺しやがって……。

 俺は何も考えずにゲイザーに突っ込んでいった。


 襲い掛かる触手をブロードソードで切り落とし、炎の矢をゲイザーの目に撃ち続ける。

 俺と三体のスケルトンがパーティーの前衛から居なくなった事によって、リーシアとシルヴィアの防御が手薄になった。

 レイス達は地面に降りてきて、リーシアとシルヴィアを守るために防御の姿勢をとった。

 シルヴィアとリーシアは魔法を撃ち続けているが、ゲイザーの目には攻撃が届かない。

 攻撃が届く前にゲイザーの触手によって叩き落とされてしまう。


 今自由に動けるのは俺とフーガだけだ。

 他に仲間が居れば……。


 俺はふと地面を見ると、ゲイザーの触手が無数に落ちている事に気が付いた。

 そうか! この素材で新しいゲイザーを召喚すれば良いんだ!

 どうして今まで気が付かなかったんだ?

 俺は自分の体の近くに触手を集めて一気に魔力を吹き込んだ。


『ゲイザー・召喚!』


 魔法を唱えると、地面に落ちていたゲイザーの触手は、強い光を辺りに放ち、光の中からは小さなゲイザーがわらわらと現れた。

 俺達の勝ちだ。

 俺は勝利を確信した。


「ゲイザー達! あのデカブツを殺せ!」


 俺が命令を下すと、無数のゲイザーは巨大なゲイザーに向かって一斉に攻撃を仕掛けた。

 しかし、生まれたばかりの力の弱いゲイザーでは、巨体のゲイザーの触手を切り落とす事も出来ず、半数以上のゲイザーは次々と脳天を砕かれて死んだ。

 うん……?

 ゲイザーって脳天を砕けば死ぬのか?

 俺達は今まで目を狙って攻撃をしていたが、頭に攻撃を仕掛ければ倒せるのかもしれない。

 事実、生まれたばかりのゲイザーは、巨体のゲイザーに脳天を叩き潰されて死んだ。


「フーガ! 力を貸してくれ!」


 俺はフーガを自分の元に呼び寄せて、作戦を伝える事にした。


「いいか!? 俺が合図したタイミングで炎を吐いてくれ! 俺はゲイザーがひるんだ瞬間、奴の脳天まで駆け上って頭を潰す!」

「バウッ!」


 フーガは俺の命令を理解したのか、俺の足元で待機しながら口を大きく開いて炎を作り出した。

 やってやる……。

 よくも俺のスケルトンを殺しやがって。

 ゲイザーだかなんだか知らないが、俺の一撃で殺してやる。

 ブロードソードに魔力を込めると、俺はフーガに合図をした。


「今だ!」


 俺の合図と共に、フーガの口からは勢い良く炎が吐かれた。

 巨体のゲイザーは、生まれたばかりのチビのゲイザーに気を取られていたせいで、フーガが放った火炎をもろに喰らった。

 火炎はゲイザーに触れるや否や、体に纏わりつくように燃え始めた。

 ゲイザーが不意の攻撃に驚いて、攻撃の手を止めた瞬間、俺は一気にゲイザーの体を駆け上がった。

 ゲイザーの頭の天辺に立つと、両手でブロードソードを持ち、ゲイザーの脳天に突き立てた。

 俺の全力の攻撃を脳天に受けたゲイザーは、辺りに気味の悪い体液を撒き散らしながら命を落とした。


「勝った……」


 ダンジョンの地下一階にこれ程までに強力な魔物が居るとは。

 とても信じられないな。


「レオン、レイス達が……」


 リーシアは目に涙を浮かべてレイスの亡骸を抱えていた。

 レイス達も殺されたとは……。

 生き延びたメンバーは、俺、フーガ、リーシア、シルヴィア。

 それからチビのゲイザーが一体。

 三体のスケルトンと二体のレイス、それからチビのゲイザー達は命を落とした……。


 悲しんでいる場合ではないな。

 一刻も早く魔術師達を助けに行かなければ。

 巨体のゲイザーが居た大広間の奥に、地下二階に続く階段があった。

 大事な仲間を失った俺達は、更に慎重に、ゆっくりと地下へ続く階段を下りた……。

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