第十七話「ダンジョン地下二階」
〈ダンジョン・地下二階〉
ダンジョンの地下二階は、地下一階に比べて魔物の魔力が弱い。
きっと地下一階より魔物の数も少ないのだろう。
この階にも、ゲイザーの様な凶悪な幻獣が潜んで居なければ良いのだが。
地下二階は小さな部屋がいくつもある迷路のような階だ。
どこで魔術師ギルドの魔術師達が魔物と交戦しているか分からない訳だから、一つ一つの部屋を確認して進まなければならない。
面倒だが、俺達は片っ端から部屋の扉を開けて中を確認する事にした。
まずは丈夫な鉄の扉の部屋だ。
俺の身長よりもだいぶ大きな鉄の扉がある。
扉の取っ手を握ると、部屋の中からは小さな物音が聞こえた。
もしかして罠でも作動したか?
慎重に扉を開けると、薄暗い部屋の奥には、土台に固定された弓が設置されてあった。
弓は俺の姿を確認するや否や、矢を放ってきた。
まずい!
とっさに両手を体の前でクロスさせた瞬間、背後からゲイザーの触手が伸びてきた。
ゲイザーは器用に矢を叩き落とすと、弓に対して火を放ち、一瞬で仕掛けを破壊した。
チビのゲイザーは自慢げに俺を見上げている。
「ありがとう、ゲイザー。頼りにしているよ」
「……」
俺は小さなゲイザーの体を持ち上げて抱きしめた。
すると、ゲイザーは嬉しそうに目を瞑って、無数の触手を俺の体に絡ませてきた。
ゲイザーの攻撃に対する反応速度は明らかに俺より早かった。
もしかすると彼は俺のパーティーで重要な戦力になるかもしれない。
敵だった時はひたすら厄介だったゲイザーが、召喚魔法の力によって、今は俺の仲間として生きている。
精霊王の加護は偉大だ……。
部屋の中を探索すると、小さな金属製のチェストを見つけた。
宝か……?
ダンジョンといえば冒険者をおびき寄せるための宝が眠っている。
ダンジョンの難易度によって、ダンジョン内の宝の質が変わる。
ダンジョン内に潜む魔物が、殺した冒険者の装備を宝箱に入れている事もあるらしい。
チェストを開くと、中には小さな袋が入っていた。
いったい袋の中には何が入っているのだろう。
ワクワクしながら袋を開くと、銀貨が五枚出てきた。
中身は10シルバー銀貨が五枚だ。
ふざけているのか……。
部屋の中にはそれ以外に目ぼしい物はなかった。
なんの使い道もないような布切れ。
冒険者が落としたであろう剣が一振り。
鞘から剣を抜いてみたが、ボロボロで使い道もなさそうだから捨てておいた。
「レオン、すぐに次の部屋を調べようよ」
「そうだね、リーシア。急いで全部の部屋を調べようか」
それから俺達は、地下二階の迷路のように入り組んだ通路を進みながら、一つ一つの部屋を開けて中に潜む魔物を殺し、トラップを解除した。
金属製の扉の部屋には、矢を自動で発射するトラップ。
それから、部屋に入ると天井から石が落ちてくるトラップ。
部屋の床がランダムで抜け落ちるタイプのトラップの三種類だった。
どの部屋にも必ず宝箱があり、中には全てお金が入っていた。
木製の扉の部屋には魔物が潜んで居る事が判った。
扉の無い部屋には魔物もトラップも存在しない。
法則性を見つけてからは、全ての部屋を簡単に調べる事が出来た。
俺達は地下二階の一番奥の部屋、地下三階に続く階段があると思われる部屋の前に到着した。
まだ調べていない部屋はここだけだ。
この部屋の扉は金属で作られている。
普通に考えれば中にはトラップがあるだろう。
俺は矢のトラップ対策として、ゲイザーを自分の足元に待機させた状態で扉を開いた……。
扉を開くと、そこには大きな神殿が建っていた。
地下なのにこれ程までに立派な神殿があるとは。
神殿の内部をくまなく探索すると、小さな祭壇を見つけた。
祭壇の上には一冊の本が置かれてある。
何の本だろう。
古ぼけた革表紙の本で、表紙には見た事もない文字が書かれている。
「レオン、その本には触れない方が良いと思う」
「え?」
「本の中から邪悪な魔物の気配がするの。上手く説明できないけど……」
「分かったよ。気をつけるようにする」
リーシアが俺に忠告してくれた。
この本がトラップの可能性はある。
本に触れた瞬間、魔物が本の中から飛び出す仕掛けだろうか。
兎に角、この本には触れない方が良い。
魔術師ギルドの魔術師達がこの本に触れていなければ良いが……。
まずは先を急ごう。
神殿の最深部には地下三階に進む階段があった。
「皆、ここからは特に慎重に進むように。きっと魔術師達はこの先に居るはずだ」
「レオンこそ気をつけてね、危なくなったら私が前に出るわ」
「ありがとう、シルヴィア」
しかし、召喚したばかりのシルヴィアに前衛を任せる事は出来ない。
彼女の魔法攻撃力は非常に高いが、戦闘の経験が少ない。
シルヴィアはゲイザーの様に、複数の攻撃を一度に仕掛けられる戦闘力の高さを持っている訳ではない。
ここからは俺とフーガ、すぐ後ろにはゲイザーに付いてもらう。
ゲイザーがスケルトン達のポジションだ。
きっとヤツならスケルトン達以上に、上手くリーシアとシルヴィアを守れるだろう。
「フーガは俺と最前線で戦ってくれ。ゲイザーはリーシアとシルヴィアを守ってくれ。リーシアは回復魔法と防御魔法を、シルヴィアはウィンドエッジを使って後方から攻撃をするように!」
仲間に指示をすると、さっきまでゲイザーと激しい戦いをしていたにも関わらず、皆やる気で満ち溢れている。
俺は本当に強い仲間に恵まれたな。
「レオン、早く行こうよ!」
「そうだね、リーシア。それじゃ地下三階に降りるとしよう」
地下三階に続く薄暗い階段の奥からは、地下一階で遭遇したゲイザーをも超える強い魔力を感じる。
ダンジョンの主がこの先に居るのでは?
俺はそう直感した。
今まで出会ったどんな魔物よりも悪質、かつ禍々しい魔力を感じる。
この先に潜んで居る魔物に、果たして俺達パーティーは勝てるのだろうか。
だが、進むしかない。
冒険者ギルドのマスターから直々に依頼を受けているし、きっとこの先では魔術師達が魔物の攻撃をギリギリのところで防いでいるはずだ。
まだ生きていてくれ……。
俺はブロードソードを構えたまま、地下三階に続く階段を降り始めた。
階段を一歩降りるごとに、魔物が放つ強力な魔力が俺の体を刺激するようだ。
怖いな……。
もし戦いに負ければ死ぬだろう。
リーシアやシルヴィアを絶対に死なせる訳にはいかないし、俺は何としても生き延びる。
魔術師達の命も俺が救わなければならない。
俺がやらなければ未来はない……。
階段を下りると、背の高い扉があった。
扉の向こうからは感じた事もない魔物の魔力が扉越しに伝わってくる。
やばいな……。
絶対にこの先に魔物が潜んでいる。
「皆、入るよ」
「うん……」
リーシアはシルヴィアの服の袖を掴んで、恐る恐る扉を見つめている。
フーガもこの先に居る魔物の魔力を感じているのか、俺の足元で小刻みに震えている。
どうしてかゲイザーとシルヴィアだけが余裕の表情を浮かべている。
「行くぞ!」
俺は自分自身の恐怖心を吹き飛ばすかのごとく、気合いを入れて扉を押し開けた……。




