第1話 桃太郎じゃないよ!
朝日が出ると同時にドラクとカリンは目を覚ました。
二人は目を合わすと大急ぎで着替え、大きな盥を持って村を出て川に走っていった。
村人たちは二人の様子を訝しみながらどうしたんだろうねぇ、なんて言いながら眺めていたのだった。
二人が慌てるなんてことは、ここ何年もなかったことなので、何か良くないことでもなければいいが、武器も持たずに村から出たので、何てこともないのだろうとも思っていた。
ドラクとカリンは共に70過ぎだが若々しく50歳にも見えないくらいだ。
若い時は2人共冒険者をしていて何人かとパーティーを組んでいたが、子供ができたことで冒険者を引退して村に落ち着いたのだ。二人ともSランクの冒険者だったので引退するときは一悶着があったようだが、全て力技で解決してきた。それでもあまり恨みを買わなかったのは、女神レティシアの使徒でもあったからである。
二人は今日夢で女神からの神託を受け取っていた。
《今日朝に流れてくる大きな桃を持って帰り中にいる子を大事に育てなさい》
神託の通り大きな桃が、どんぶらこ〜どんぶらこ〜と流れてきた。
川の流れが早いので、お爺さんは(ドラク)は川へ、「とぉ」と飛び込み川を泳ぎ桃にたどり着くと、桃を持ち上げてお婆さん(カリン)に向かって、「そりゃ」と放り投げた。
お婆さんは盥を持ち上げ桃が下に落ちない様にそっと桶で受け取ったのでした。
お爺さんは川から上がり、お婆さんの風魔法で身体を乾かしてもらい、二人で盥に入った桃を持って家に帰っていった。
家に帰り桃を丁寧にテーブルに乗せ、お婆さんは大きな包丁を持ち「爺さん、いくよー」と桃を真っ二つに割った。すると中から玉のような可愛い女の子が、チョット焦ったような顔で出てきた。
「桃から生まれた桃太郎じゃにゃいんだかりゃ、危ないでしゅよー。また真っ二つになるにょかとおもったでしゅー」
チョット舌足らずなセリフで現れた女の子は、女神レティシアが桃に仕込んだ、桃子だった。
「はじめまして、さくりゃのみやももこでしゅ。さんさいでしゅ。よりょしくおねがいしましゅ」
ドラクとカリンは目尻を下げながら、自己紹介をしてきた。
「はじめまして桃子、儂はドラクじゃ、ドラク爺ちゃんと呼んでくれい」
言いながら桃子の頭を乱暴にワシャワシャと撫でる。
「あらあら、髪が乱れてしまうよドラク、女の子なんだからもっと繊細に触らないと」
髪をきれいに整えてくれながら「はじめまして桃子、私はカリン、カリン婆ちゃんと呼んでちょうだいね」
「お爺ちゃんとお婆ちゃん、そんな年に見えないでしゅ」
「あらあら、嬉しいことを言ってくれること。でもねぇ、もう孫が20歳過ぎになってるんだよ〜。息子も孫も男ばっかりだったから、女の子を育てられるなんて嬉しいわ!」
「わしも嬉しいぞ!!」とドラクも張り合うように言ってきた。
「私も嬉しいでしゅ!これから、よろしくお願いしますでしゅ」
「「よろしく!!」」と挨拶する二人は本当に嬉しそうだった。
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