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私を殺した世界へ  作者: ちゅんた


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最終章 私を殺した世界へ


馬車は石畳の道を走り続けた


少女は窓の外を眺めていた


見たことのない街並み


美しい建物


色鮮やかな服を着た人々


広場で歌う楽団


笑い声


活気


全てが新鮮だった


村しか知らなかった彼女には、まるで別の世界に思えた


いや、実際に別の世界だったのかもしれない



やがて馬車は大きな建物の前で止まった


煌びやかな灯り


大勢の貴族たち


華やかな音楽


舞踏会だった


少女は呆然と立ち尽くす


老人が微笑む


「皆様、お待ちかねです」


扉が開く


少女は一歩を踏み出した


その瞬間


会場中の視線が集まった


だが、不思議と怖くなかった


昔なら震えていただろう


嫌われないように


失敗しないように


そんなことばかり考えていた


しかし今は違う


誰にどう思われても構わない


それが妙に心地良かった


貴族の女性が近付いてくる


豪華なドレスを手にしていた


「こちらをお召しになられては?」


真紅のドレスだった


美しい


だが、少女は首を傾げる


そして、人生で初めて


自然に言った


「嫌」


女性が固まる


周囲も静まり返る


少女は少し笑った


「私はこっちが好き」


そう言って黒いドレスを指差した


誰の顔色も見ない


誰の許可も求めない


ただ、自分が好きだから


それだけ


胸が高鳴った


こんな簡単なことだったのか


人生は


自由は


会場の音楽が鳴り響く


少女は笑う


心から


本当に心から


笑った


――――――――


季節が流れる


少女は旅をした


美しい街を見た


海を見た


山を見た


芸術を見た


文化を見た


人間を見た


そして知った


世界は広い


人生は広い


誰かの期待だけで終わらせるには、あまりにも広すぎる


夜


屋敷のバルコニー


満月が浮かんでいる


少女は一人で夜空を見上げていた


少女は小さく呟く


「自由って、こんなに楽しいんだ」


風が吹く


その言葉を運ぶように


静かな夜だった


そして、不意に世界が揺らいだ。


月が歪む


空が歪む


景色が崩れる


まるで絵画が燃えるように


少女は目を見開いた


バルコニー


屋敷


街並み


人々


全てが炎に飲まれていく


黒く


赤く


激しく


少女は理解した


ああ、そうか


「これは夢なんだ」


火刑台の上で見ていた夢


最後の願い


最後の希望


最後の妄想


全部


全部


夢だったんだ


少女は目を閉じる


不思議と悲しくなかった


ほんの少しだけ


残念だった


もっと世界を見たかった


もっと生きたかった


もっと自由でいたかった


でも、最後に良い夢を見られた


それだけで十分だと思えた


少女は微笑む


そして、暗闇へ沈んでいった


――――――――


広場


火刑台


夜


誰もいない


祭りは終わっていた


歓声も


罵声も


祈りも


何も残っていない


ただ、燃え続ける炭の匂いだけが漂っていた


静寂


完全な静寂


その中で


小さな音が響く


「ぱきり」


焼けた木が崩れる音


違う


もう一つ


かすかな音


指先だった


黒く焼け焦げたはずの手


その指が僅かに動いた


風が吹く


灰が舞う


静寂の中


ゆっくりと


本当にゆっくりと


少女の瞼が開く


そこにあった瞳は


人間のものではなかった


深紅


燃える炎よりも赤い瞳


少女は身体を起こす


焼けた縄が音を立てて崩れ落ちる


傷一つない肌


月明かりに照らされる白い身体


彼女は周囲を見渡した


誰もいない


村も眠っている


世界も眠っている


だが、彼女だけが目覚めていた


胸の奥で何かが鼓動する


血ではない


もっと古い何か


もっと深い何か


そしてら暗闇の奥から、あの声が聞こえた


「ようこそ」


少女は夜空を見上げる


満月


無数の星


そして


まだ見ぬ世界


まだ見ぬ時代


まだ見ぬ人生


口元に笑みが浮かぶ


あの夢の中と同じ笑みだった


いや、違う


今度は本物だ


少女はゆっくりと呟く


「さて――」


風が吹く


黒髪が揺れる


紅い瞳が月を映す


そして彼女は歩き出す


誰のためでもなく


自分のために


夜の闇の中へ


新しい人生の始まりへ


― 第一幕 完 ―

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


『私を殺した世界へ』は、自分を失った少女が、もう一度「自分の人生」を取り戻す物語です。


誰かの期待や常識に縛られても、人は何度でも自分らしく生きる道を選ぶことができる。


傷ついた過去は消えなくても、未来まで奪うことはできない。


この物語が、あなた自身の人生を見つめ直す小さなきっかけになれば幸いです。


そして――


彼女の長い旅は、まだ終わっていません。


時代が変わり、世界が変わっても、彼女はきっと歩き続ける。


新たな出会い、新たな選択、新たな物語へ。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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