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私を殺した世界へ  作者: ちゅんた


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第一章 良い娘

初投稿作品です。


「自分のために生きる」をテーマにした短編ダークファンタジーです。


よろしくお願いします。

朝霧が村を包んでいた。


夜明けを告げる鐘の音が、静かな空気を震わせる。


少女は井戸の前に立っていた。


冷たい水を桶に汲み上げ、両手で抱える。


まだ太陽は顔を出したばかりだというのに、彼女の一日はもう始まっていた。


桶の水は重い。


肩に食い込む縄も痛い。


それでも少女は慣れた足取りで歩く。


これが毎日のことだった。


村の外れにある小さな家へ向かう途中、後ろから声が飛んできた。


「おーい。」


振り返ると、腰の曲がった老婆が杖をつきながら手を振っている。


少女は足を止めた。


「おはようございます。」


老婆は申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「悪いねぇ。また薪を運んでくれないかい。」


少女は一瞬だけ視線を落とした。


昨日も運んだ。


一昨日も運んだ。


その前も頼まれていた。


本当は家の手伝いも残っている。


少し休みたいとも思っていた。


けれど。


「分かりました。」


自然と笑顔が浮かぶ。


断るという選択肢は最初から頭になかった。


老婆は嬉しそうに笑った。


「本当に優しい子だねぇ。」


その言葉を聞くと、少女の胸は少しだけ温かくなる。


だからまた頑張ろうと思ってしまう。


それが良いことだと信じていた。


薪を運び終えた頃には、朝日がすっかり昇っていた。


額には汗が滲んでいる。


腕も少し痛い。


だが休む間もなく、今度は子供たちが駆け寄ってきた。


「姉ちゃん!」


「鬼ごっこしよう!」


「捕まえられるかなー!」


少女は思わず苦笑した。


本当は座って休みたい。


けれど期待に満ちた瞳を見ると断れない。


「少しだけね。」


子供たちは歓声を上げた。


その姿を見ていると、自分も嬉しくなる。


不思議なものだった。


誰かが喜んでくれる。


それだけで、自分の疲れが報われる気がした。


夕方。


ようやく家へ帰る。


木製の扉を開けると、母親が振り返った。


「あら、帰ったの。」


少女は頷く。


すると母親は当然のように言った。


「隣の家の洗濯物が溜まってるらしいの。手伝ってきてくれる?」


少女は立ち尽くした。


疲れていた。


今日は朝から働き通しだった。


少しくらい休みたい。


そんな考えが頭をよぎる。


しかし次の瞬間には口が動いていた。


「分かった。」


母親は満足そうに微笑む。


「本当に良い子ね。」


その言葉を聞くたびに、少女は複雑な気持ちになる。


嬉しい。


けれど苦しい。


まるで見えない鎖で縛られているようだった。


夜。


全ての用事を終えた少女は、自分の部屋へ戻った。


小さな窓から月明かりが差し込んでいる。


彼女は椅子に腰を下ろした。


足が重い。


手は荒れている。


肩も痛い。


誰もいない部屋の中で、初めて笑顔が消える。


静かな吐息が漏れた。


「疲れたな……」


誰にも聞こえない声。


誰にも見せない顔。


昼間の彼女を知る人間が見れば驚くだろう。


村で一番優しい娘。


いつも笑顔の娘。


誰よりも頼りになる娘。


皆がそう言う。


だが本当の彼女は違った。


窓の外には満月が浮かんでいる。


少女はそれを見上げた。


遠く。


もっと遠く。


村の外。


まだ見たことのない世界。


そこへ行ってみたい。


そんな思いが胸の奥から湧き上がる。


「どこか遠くへ行きたいな。」


小さな呟きは夜の闇へ溶けていった。


その時の彼女は知らない。


この願いが。


この小さな本音が。


数百年続く旅の始まりになることを。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


この作品は「他人の期待に応え続けた少女が、自分の人生を取り戻す」というテーマで書きました。


感想や評価をいただけると今後の励みになります。

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