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第10話 冬支度市の公開計量

十日後、シュネーハーフェンの冬支度市で公開計量を行った。


 市場の真ん中へ大きな秤を据え、北辺備蓄蔵から出す袋を一つずつ量る。領民の前でやるのは、倉の数字が本当だと示すためだ。


 最初は人が少なかった。王都から来た女監査官が帳簿をいじっているだけだと思われていたのだろう。


 だが、五袋目でざわめきが広がる。


 本来五十斤あるはずの流通袋が、四十七斤しかなかったからだ。


「見ての通りです」


 私は秤の針を指さした。


「北辺の穀物が足りないのではありません。途中で抜かれています」


 広場の端で、港商人たちが顔をしかめる。私はその視線を無視し、続けた。


「今日から北辺侯爵領では、港経由の袋をすべて再計量します。軽量不足が見つかった商会は、次回以降の納入資格を停止します」


 グレタがにやりと笑った。


「聞いたかい、抜き癖のある連中」


 群衆から笑いが起こる。


 笑いは侮りを削る。私はそれを逃さず、再計量した正規袋をその場で販売と備蓄へ振り分けた。値段も帳簿も、全部公開する。


 終わる頃には、広場に並ぶ人の目つきが変わっていた。


「ちゃんと量ってくれるなら助かる」

「今年は配給札が本当に回るんだな」


 そういう声が、風の中で少しずつ増えていく。


 作業が終わった後、私は帳面を閉じて大きく息を吐いた。


「疲れたか」


 隣に立ったカイルが、水筒を差し出してくる。


「少し。でも、ようやく数字が人の前に出ました」


「皆、見ればわかる」


「王都の人たちは、見ようとしませんでした」


「ここでは見せ続ければいい」


 広場の先では、ロルフが新しい集計板を立てていた。今日の再計量結果と、備蓄に戻した袋数。誰でも見える場所に置くための板だ。


「これなら、誰かがあとで数字を書き換えてもすぐわかる」


 私が言うと、カイルは少しだけ口元を緩めた。


「君は鍵だけじゃなく、目まで増やすんだな」


「倉番頭も港長も、全員監査の目にしてしまえば楽ですから」


 冗談半分で言ったつもりだったのに、彼は真面目に頷いた。


「いいやり方だ」


 私は少し照れた。


 その時、広場のパン屋が焼きたてを運んできて、カイルへ深く頭を下げた。


「侯爵様、今日は焼き上がりが良いです」


「そうか」


 彼はその籠から一つ取って、何でもない顔で私へ渡す。


「今日の分だ」


 公開計量が終わった広場で受け取るパンは、なぜかいつもよりずっと温かかった。



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