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『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


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第24話 群れの拡張と名を刻む者


 戦いが終わった直後の空気は、妙に静かだった。

 さっきまで殺し合っていたとは思えないほど、世界は何事もなかったように朝を迎えている。

 だが、地面には血。

 倒れたまま動かない者たち。

 呻き声。

 現実だけが、そこにあった。

「……頼む……殺さないでくれ……」

 敵のリーダーが、地面に額を擦りつけたまま言った。

 さっきまで指揮を執っていた男とは思えないほど、弱々しい声だった。

 俺は少しだけ考えてから、口を開く。

「お前らの村、あと何人いる」

 男は顔を上げた。

「……女子供が……百人ほど……」

「戦える奴は?」

「……ほとんど、ここにいる」

 なるほどな。

 つまり今、向こうの村は“守る力がほぼない状態”。

 ここで潰すのは簡単だ。

 でも――

「なら」

 俺は一歩近づいた。

「この村の隣に、もう一つ村を作れ」

「……え?」

 理解できていない顔。

「お前らの村だ。ここで生きろ」

 ざわっ、と周囲が揺れた。

 村民たちも、捕虜たちも、みんな息を呑んでいる。

「真面目に働くなら、食料は保証する」

 はっきり言い切る。

 男の目が見開かれた。

「ほ……ほんとうか……?」

「ああ」

 俺は頷いた。

「ただし」

 少しだけ声を低くする。

「裏切ったら、次はない」

 沈黙。

 男は震えながら、何度も頷いた。

「わ、わかった……」

「お前が行け」

「……え?」

「一人で村に戻って、説得しろ」

 周囲がざわつく。

「他の奴らは預かる」

 つまり――人質だ。

 分からないはずがない。

 男は一瞬だけ迷った顔をしたが、すぐに覚悟を決めた。

「……わかった」

 ゆっくりと立ち上がる。

 足は震えているが、目はもう逃げていなかった。

 そして、そのまま――走った。

 雪解けの地面を蹴って、遠ざかっていく。

 それを見送りながら。

「……逃げたらどうするんだ?」

 横から声。

 アグニだった。

 腕を組んで、じっと遠くを見ている。

「逃げたら逃げたでいい」

 俺はあっさり言った。

「それより」

 周囲を見る。

 捕虜たち。

 立っている者、座り込んでいる者、傷を押さえている者。

「働き手が、七十人増えたぞ」

 アグニが、少しだけ笑った。

「……そっちか」

「そっちだ」

 生きてる人間は、資源だ。

 使う。

 それだけだ。

「ユナ!」

「はい!」

 すぐに返事が飛ぶ。

 走ってきたユナは、まだ少し息が上がっている。

「ここにいる七十人、全員の名前を記録しろ」

「名前……?」

「木簡に書け」

 ユナの目が見開かれる。

「それと、今いる村民も全員だ」

「……全員?」

「ああ」

 俺は頷いた。

「名前と年齢。あと特技があればそれも書け」

 しばらく固まっていたユナが、はっと我に返る。

「は、はい! わかりました!」

 走っていく。

 周囲の連中がざわざわしている。

「名前を記録……?」

「なんでそんなことを……」

 当然だ。

 この時代に、人口管理なんて概念はない。

 でも。

「数を把握しないと、飯も配ライナいだろ」

 ぽつりと呟く。

 誰も反論しない。

 理解はしてなくても、納得はした顔だ。

「それと」

 今度は女性たちを見る。

「怪我人の手当をしろ」

 すぐに数人が動き出す。

 血を洗い、布を当てる。

 簡単な処置でも、やらないよりはいい。

 俺は、戦場を見渡した。

「……数えるぞ」

 アグニと一緒に確認していく。

 結果はすぐ出た。

「敵、死者二十七」

 動かない身体を見ながら言う。

「重傷五。軽傷三十八」

「……無傷は?」

「戦意喪失だな」

 座り込んで、ただ震えている連中。

 戦う気はもうない。

「よし」

 俺は頷いた。

 そして、大きく声を張る。

「無傷で動ける奴!」

 びくっと、何人かが顔を上げる。

「飯をやる」

 ざわっと空気が動く。

「いいか!」

 さらに声を強める。

「ここで食っていきたいなら――働け!」

 沈黙。

 全員がこちらを見ている。

「まずは、お前らの村を作れ!」

 地面を指す。

「場所はここだ! さっきまで戦ってた場所!」

 誰も動かない。

 だから、もう一度言う。

「石を積め! 壁を作れ! 住む場所を作れ!」

 少し間。

 やがて。

 一人が立ち上がった。

 次に、もう一人。

 さらに数人。

 恐る恐る、石を拾う。

 そして――運び始めた。

「……いいぞ」

 俺は小さく呟く。

 流れができた。

 あとは、広がるだけだ。

 やがて、七十人全員が動き出す。

 石を運び。

 土を運び。

 崩れた場所を整え始める。

 さっきまで敵だった連中が。

 今は、同じ場所で働いている。

 アグニが、ぽつりと言った。

「……変な光景だな」

「ああ」

 俺も頷く。

「でも、これが一番効率いい」

 敵を殺すより。

 使った方がいい。

 その方が、生き残れる。

 俺は、ゆっくりと空を見上げた。

 朝日は、もう高い。

 光が、地面を照らしている。

 血も、石も、人も。

 全部まとめて、同じように。

「……街になるな」

 もう一度、呟いた。

 村じゃない。

 ただの群れでもない。

 ここは――

 人が集まり、働き、生きる場所になる。

 その中心に、俺がいる。

 それが、どういう意味か。

 まだ、ちゃんとは分からない。

 でも。

「やるしかねえか」

 苦笑して、前を見る。

 石を積む音が、響いていた。



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