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『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


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第22話 牙と影


 海蛇の解体から、一日が過ぎた。

 浜辺には、干し肉がずらりと並んでいる。

 風に揺ライナがら、少しずつ水分を失っていく肉。

「これでしばらく食い物には困らねえな」

 タカシは腕を組んで頷いた。

 その隣で、村民たちが妙に盛り上がっている。

「見てくれよこれ!」

「すげえぞこれ!」

 何事かと近づくと――

「……なんだそれ」

 男の一人が、細長い何かを掲げていた。

 黒く、光沢がある。

「海蛇の鱗だよ! これ、研いだらこうなった!」

 タカシはそれを受け取る。

 指で軽く触る。

「……っ」

 鋭い。

 石より、明らかに鋭い。

「これ……切れるな」

 試しに、近くの草を払う。

 スッ、と音もなく切れた。

「うおおお!」

「やべえ!」

 村民たちが歓声を上げる。

「カッターみてえだ……」

「かかったー?」

「細かい作業にいいぞこれ!」

 野草を採る者、皮を削る者。

 みんなが夢中になっている。

 “切る”という行為が、一段階進化した。

 これまでの石とは、比べ物にならない。

「……武器にもなるな」

 タカシは呟く。

 斬る武器。

 それが、この世界に加わった。


 その頃。

 村の外周。

 石を積み上げた防壁は、すでに人の腰を超えていた。

「……1メートルは超えたな」

「今は1.3くらいです!」

 作業していた男が誇らしげに答える。

「いいな」

 確実に、“守る場所”になってきている。

 さらに、その一角。

 木を組み上げた簡易の見張り塔も完成していた。

 上に登れば、遠くまで見える。

「これで少しは安心――」

 そう言いかけた、その時。

 ――カン!カン!カン!カン!!

 激しい音が響いた。

 見張り塔の上から、木を叩く音。

 異常を知らせる合図。

「どうした!?」

 タカシが叫ぶ。

 上から声が返る。

「別部族だ!!」

 空気が、一瞬で張り詰めた。

「何人だ!?」

「三人! こっち見てた!」

「どこ行った!?」

「……いなくなった!」

 ざわり、と村が揺れる。

 タカシは歯を食いしばった。

「……見られたか」

 この場所。

 この資源。

 この人数。

 全部。

 知られた。

「……面倒なことになるな」


 その日のうちに、決まった。

「見張りは交代制だ」

 タカシが言う。

「24時間、誰かが上にいるようにする」

「に、24時間……」

「寝てる間にやられたら終わりだ」

 誰も反論しない。

 現実だからだ。

 すぐに簡単なシフトが組まれた。

 昼と夜。

 交代で見張る。

 文明が進んでも――

 守らなければ、奪われる。


 夜。

 火を囲み、全員が集まった。

 タカシは、ゆっくりと口を開く。

「聞きたい」

 静かな声。

「別部族と関わりはあるのか?」

 村長が首を振る。

「ない。ほとんどない」

「じゃあ、どうなる」

 少しの沈黙。

 そして――

「……やるか、やられるかだ」

 誰かが言った。

 重い言葉だった。

 だが、誰も否定しない。

 それが、この世界の現実。

「今日、三人見たって話だ」

 ざわつく。

「偵察だろうな」

「……来るかもしれねえ」

 恐怖が広がる。

 だが。

 逃げ場はない。

「男衆は、戦いになったら全員参加だ」

 タカシが言う。

「女子供は支援。火、運搬、負傷者の手当て」

 頷きが広がる。

「夜襲の可能性もある」

 空気がさらに重くなる。

「寝てても、すぐ起きて武器持って集合しろ」

 その時。

 アグニが手を挙げた。

「でも……夜襲はないと思いますよ」

「なぜだ?」

「暗いからです」

 少し、ざわめく。

 確かに、この時代。

 火を扱える者は限られている。

「……理屈は分かる」

 タカシは頷いた。

 だが、目は鋭いまま。

「でもな」

 一歩前に出る。

「“来ない理由”を信じて死ぬやつ、山ほど見てきた※ドラマとか映画とかで」

 全員が、息を呑む。

「油断だけはするな」

 アグニは、ゆっくり頷いた。

「……へい」


 その夜。

 村は静かだった。

 風の音。

 波の音。

 火の揺れる音。

 だが――

 見張り塔の上。

 一人の男が、じっと闇を見ていた。

 その、さらに遠く。

 暗闇の中。

 小さな光が、三つ。

 揺れていた。

 まるで――

 こちらを、見ているように。



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