第21話 海の恵みと赤き核
海蛇の巨体は、浜辺に横たわっていた。
黒い鱗に覆われた長い身体。
波に濡れながら、ぬらりと光る。
「……でけえな」
タカシは思わず呟いた。
熊とはまた違う、“異質な大きさ”。
だが――
もう怖くはない。
「よし」
振り返る。
「解体するぞ!」
村民たちが顔を見合わせる。
「これ……食えるのか?」
「たぶんな」
タカシは苦笑した。
「ダメそうなとこは避ける。いいとこだけ使う」
『食べるのか……』
シロが若干引いている。
『お前、ほんと何でも食うな』
「生きるってそういうことだ」
石ナイフを握る。
まずは腹を裂く。
ぬるり、と刃が入る。
思ったより柔らかい。
「……いけるな」
中から現れた肉は、白く分厚い。
魚に近いが、もっと繊維がしっかりしている。
「これは……うまそうだな」
村民たちの目が輝いた。
その日、浜辺は宴になった。
肉を切り分け、火で焼く。
じゅうう、と脂が落ちる。
香ばしい匂いが広がる。
「食ってみろ」
ユナが一口。
「……っ!!」
目を見開いた。
「おいしい……!」
「マジかよ!」
他の村民も次々と口にする。
「すごい……!」
「こんな味、初めてだ……!」
弾力があるのに柔らかい。
噛むほどに旨味が出る。
まるで海の恵みそのものだ。
「ステーキだな、これ」
「すてーき?」
「いいから食え」
笑いながら、タカシもかぶりつく。
「……うまっ」
思わず声が出た。
気づけば――
食べ放題状態だった。
「こんなに食っていいのか……」
「食いきれねえぞこれ!」
笑い声が広がる。
飢えとは無縁の時間。
それだけで、価値がある。
だがタカシは、すぐに切り替えた。
「保存だ」
「保存?」
「干す。腐らせないようにする」
肉を細長く切る。
棒にかける。
風に当てる。
「これで干し肉になる」
「……初めて見る」
村民たちが息を呑む。
ただ食うだけじゃない。
未来のために残す。
それもまた、文明だ。
さらに。
「この鱗、使えるな」
海蛇の鱗は硬い。
熊の毛皮とは違う、“防具”になる素材。
タカシは試しに一枚拾い、叩く。
カンッ。
「……いい音だ」
並べる。
重ねる。
蔓で固定する。
「……よし」
即席の盾。
「盾だ」
「たて?」
「攻撃を防ぐ道具」
試しに、村民が石を投げる。
ガンッ!
弾いた。
「おおおお!!」
歓声が上がる。
「すげえ!」
「防げる!」
これまで“避ける”しかなかった。
だが――
“受ける”という概念が生まれた。
戦いが変わる。
「鎧も作れるな……」
鱗を繋ぎ合わせる。
胴を守る防具。
まだ粗いが、確実に強い。
さらにもう一つ。
「これ……油か?」
内臓から、ねっとりとした液体。
匂いは強い。
だが、燃えそうだ。
「使えるな」
問題は、入れ物。
「……樽、作るか」
「樽?」
「液体を入れる容器だ」
タカシはすぐに動いた。
細い木を割る。
板状にする。
円になるように組む。
隙間に樹脂を塗る。
蔓で、ぐるぐると締め上げる。
ぎし、ぎし、と音を立てながら形が整う。
そして――
「……完成だ」
木の樽。
村で初めての“容器”。
「すげえ……」
「水も入れられる……?」
「入れられる」
世界がまた広がった。
油を流し込む。
これで、保存できる。
「灯りにも使えるかもしれねえな……」
火と組み合わせれば、夜も変わる。
そして最後。
タカシは、胸元を探った。
あった。
赤い石。
拳より小さい。
だが、確かに脈打っている。
どくん。
どくん。
「……やっぱり出たな」
熊のは。
鹿。
そして、海蛇。
2つ目の石。
『それ、嫌い』
シロが距離を取る。
『近づきたくない』
「分かる」
タカシも同じ感覚だ。
だが、目を逸らさない。
「でも、これ……絶対、何かある」
ただの病じゃない。
力の源。
あるいは――
もっと大きな何か。
タカシは、2の石を並べた。
微かに、共鳴するように光る。
「……何に使えるんだ?」
答えは、まだない。
だが。
確実に、世界の核心に近づいている。
そんな予感だけが、あった。




