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罪人はヒーローを名乗る

異能力バトル系ストーリ-ではしばしば、主人公が異能力を獲得し、それを駆使して人生を好転させますよね。

でもそれは、極めて治安の悪い絶望的な世界観だからこそ成り立ちます。

そこで、割と治安の良い世界観で主人公に異能力を与え、主人公を困らせることを妄想しました。


世界観:

・異能力の規模感が小さく、刃物や銃にほとんど勝てない

・治安が良いため勉強や蓄財などが意味を成しやすい

・例えどんなに強い異能力を持っていても、世間や国家を敵にしたらまともに生きていけない


主人公が獲得する異能力:

・ずば抜けて強く、刃物や銃に簡単に勝てる

人生は、なんというか、ドミノ倒しのようだ。

人生を通して、私はコツコツとドミノを並べる。

そして何か不幸や失敗があると、ドミノは倒れてしまう。

時には、手が触れた狭い箇所だけが。

時には、思いもよらないような広い範囲を巻き込んで。

しかしいずれにせよ、私はまたドミノを並べ始める。

いつか人生の終わりに、それらすべてがきれいに倒れることを夢見て。


穏やかな金曜日の夕方、終業まであと1時間。

市役所の窓口で、終業後のことを思い、私はそわそわしていた。


そこへ老人が訪ねてきた。

老人のもとに住民税の督促状が届いたそうだ。

「”督促状”だなんて、失礼じゃないか。単に手続きを忘れただけだというのに」

この窓口の案件ではないので、私は別の窓口を案内した。

すると老人は、首をかしげながら、案内した方へ歩いて行った。


次に若い男女が訪ねてきた。

男女は婚姻届を提出しに来たそうだが、喧嘩をしている。

「ねえどうして!一生に一度なんだよ!」

「だから高すぎるんだって!なんで式をネズミーランドでしなくちゃいけないんだ!」

やはりこの窓口の案件ではないので、私は別の窓口を案内した。

すると男女は、喧嘩を続けたまま、案内した方へ歩いて行った。


今度はサイの怪人が訪ねてきた。

サイの頭が、がっしりとした肩幅の上に乗っている。

かすかに動物らしい匂いがする。

声の高さは案外、人間と変わらない。

サイの怪人は、戦争を逃れ、難民認定をしてもらいに来たそうだ。

「メイワク、スミマセン。ドウカ、タスケクダサイ」

そもそも市役所の案件ではないので、私は別の行政機関を案内した。

怪人は、何度も深々とお辞儀しながら帰っていった。


税金の払い方が難しくて、老人は怒る。

式をどこで挙げるかで、新婚の男女は喧嘩する。

戦争から逃れ、サイの怪人は住処を探す。

やはり穏やかな人生というものは、なかなか得難いものだ。


だからこそ私は、自分の人生の基盤をコツコツと築き上げてきた。


私たち人間のおよそ9割が、12歳頃までに超能力を授かる。

小学生のころ、私の周囲の子供たちも、続々と超能力を獲得していった。

しかしその時が訪れないまま、私は中学生になった。

そんな中学生の私に、父は助言をくれた。

「超能力なんて、あってもなくてもそんなに変わんないよ。超能力より学力」

父は私に、勉強していい高校に行くよう勧めた。

いい高校に行けばいい大学に受かりやすくなり、いい大学に行けばいい就職先に受かりやすくなる、とのこと。

父の助言に従い、私は勉強や就活に励んだ。


今でも超能力はうらやましい。

シャーペンを浮かせて、床から拾ってみたい。

脚力を強化して、ダンクを決めてみたい。

一方で、中学生の私が抱えていた将来への不安は、キレイさっぱり消え去った。

仕事は時に大変だが、公務員という安定した職を得ることができ、私は満足だ。

(…結婚できなくても、最悪、生きていける)


しかし一見盤石に見えるこの生活も、気を付けないと崩れてしまう。


例えば今朝は、仕事に遅刻してしまった。

何か声が聞こえて目覚めると、アラームを設定した時刻はとうに過ぎており、寝坊だった。

私はすぐさま着替えて、何とか始業に間に合わせようと出発した。

しかし道中、運の悪いことに怪人に絡まれてしまい、バスを逃した。


信号待ちをしていると、後ろから声が聞こえた。

「…え、ちょっと!オバサン、聞こえないの?」

元気でハリのあるかわいい声だ。

(オバサン…?)

振り向くと、手のひらぐらいの大きさのクマのぬいぐるみが宙に浮いていた。

短い手足をじたばたして、こちらの気を引こうとしている。


「僕はテディ、妖精の怪人さ。世界を救うため、同志を求めてこの街にやってきたんだ」

怪人は今朝、就寝中の私に超能力をくれたそうだ。

そして私を”同志”に引き入れたいらしい。

何か怪しい勧誘だと思った私は、それを断ってその場を去ろうとした。

「あの、大丈夫です。急いでますので」

しかし、怪人は私の手首を掴んで呼び止めた。

「ねえ、待って、話を聞いてよ!」

思いのほか力が強い。

私は恐怖を感じて、声を荒げた。

「やめてください!人違いだと思います!」

手首を何とか振りほどき、私は近くの交番に駆けこんだ。

すると怪人はついてきておらず、辺りを探してもいなくなっていた。


こうして怪人に絡まれ、バスを逃し、私は仕事に遅刻してしまった。

遅刻の連絡をしてみると、上司は理解を示し、許してくれた。

しかし、日が浅いうちに同じような失敗をすれば、上司は私への疑いを持つようになるだろう。

しばらくは失敗したくない。


時刻は戻って夕方、市役所にて窓口からサイの怪人を見送ったところ。

またしても妖精の怪人が現れた。

「やあ。今朝は驚かせてごめんね」

怪人はすかさず窓口の裏に入ってきた。

私の口に手を当て、「しーっ」という。

(怖い。動けない)

怪人はまたしても超能力について話し始めた。

「…つまりね、プレゼントしたのは、特別な君にふさわしい特別な能力なんだ。ぜひ使って…」


妖精の怪人の長話は、怒声によって打ち切られた。

騒ぎは庁舎の入口の方で起きたらしい。

銃声と悲鳴、次いでまた怒声が庁舎に響く。

「逃げるな!手を上げろ!逃げるな!」

入り口の方から黒ずくめの集団が迫ってくる。

集団は庁舎にいた市民に銃を突きつけ、制圧していく。

そして、銃は私の窓口にも突きつけられた。


襲撃犯達は皆、怪人ばかりだった。

襲撃犯達は目出し帽をかぶって人相を隠そうとしているが、

シルエットがまちまちで、個性を消しきれていない。

例えば私に銃を突きつけているのは、おそらくワニの怪人だ。


私たち職員は、襲撃犯の指示に従って、職員スペースから出てロビーに向かった。

ロビーには、来庁者が後ろ手に縛って座らされており、私たちもそこに加わった。

私が後ろ手を差し出すと、襲撃犯はそれを乱暴に縛る。

私は隣に座る後輩と顔を見合わせる。

(痛い。怖い。死にたくない)


こうして怪人武装勢力は市役所を占拠し、

庁舎に居る市民を集めてロビーに座らせた。

そして集まった市民に対し、彼らが人質になったことを告げた。


襲撃犯のうち一人が、大声を出す。

「我々の名は”怪人解放戦線”。怪人本来の自由と信仰を取り戻すため、我々は立ち上がった。」

”怪人解放戦線”は、怪人にとって生きやすい国を造りたいらしい。

「しかし現在、我々の同胞が、悪しき政府によって不当に囚われている。

こんなことは許されない!

貴様らは人質だ!

逃げる者、従わない者は撃ち殺す!

我々は貴様らを使って、政府と交渉し、同胞を奪回する!」

演説の終わり、襲撃犯は私たち人質に、そのまま静かに待機するように指示した。

ロビーは静まり返った。

聞こえるのは、襲撃犯が歩き回り、ひそひそ会話する音だけだった。


きっかけはそれから1時間くらい経った頃、人質になった子供が泣き出したことだった。

母親のあやす声がするが、子供は泣き止まない。

そこへ、襲撃犯の一人、”ワニ”が向かった。

「静かにしろ。さもないとどうなるか、教えてやろうか」

子供の泣き声が大きくなった。

(かわいそう。小さいのに、こんなことに巻き込まれて)

ところで、ふと、私の腕を縛る縄が緩んだ。

「大丈夫かい」

縄をほどいてくれたのは妖精の怪人、テディだった。

私はテディに相談してみた。

「どうにかあの子を助けられない?」

「残念だけど…」

テディ曰く、あの子供やその他人質の皆を守れる力を、彼は持っていないそうだ。

(そうだよね。どんな人間も、どんな怪人も、銃で武装した集団に対抗できる訳がない)

そうこうするうちに事態は悪化していく。

泣きじゃくる子供は壁際に立たされ、母親は子供の名前を叫び、襲撃犯”ワニ”は子供に銃を突きつけて怒鳴る。

「静かにしろ!いいか、見せてやる。言うことを聞かなければこうだ!」

思わず、私は立ち上がってしまった。


私にかまわず、子供は泣き続ける。

一方、襲撃犯”ワニ”は、子供に銃を突きつけたままこちらを見やった。

「おいお前、その腕はどうした」

後ろ手に縛られたはずの腕を、私は身体の両側にぶら下げて、衆目に晒してしまった。

私は答えようとしたが、恐怖で上手く話せない。

「あっ、えっと、あの、妖精が…」

「”その腕はどうした”ってきいてんだ!」

襲撃犯”ワニ”は私に銃を突き付けた。

子供は解放され、今度は私が壁際に立たされた。

私は懇願した。

「お願いします…どうか許してください…どうか…」

しかし襲撃犯”ワニ”は取り合ってくれない。

「いいか貴様ら、言うことをきけ!さもないと…」

私は目をつむって叫ぶ。

「いやあああああ!」


すると、手のひらを伝って、何かが出ていくのを感じた。

バーン、という轟音が鳴り響く。

束の間の静寂。

目を開けてみると、襲撃犯”ワニ”は忽然と姿を消していた。

一方、他の襲撃犯達はこちらに銃を向けている。

襲撃犯達が何かをわめいているが、上手く聞き取れない。

頭と手のひらがジンジンする。

(もしかして”ワニ”が姿を消したのは、私のせいなのだろうか。

私は本当に、テディから超能力をもらったのだろうか)

ためしにもう1回、手のひらを襲撃犯にかざし、ひとまず”どっか行け”と念じてみた。

するとまたしても銃声のような轟音が鳴り響き、襲撃犯2,3人の塊が目の前で姿を消した。

残る襲撃犯達も発砲してきたが、弾ははずれ、

私が2,3回、同じことを繰り返すと、彼等はほとんどいなくなった。


こうして私は、超能力を使って襲撃犯達を消し飛ばした。

残りの襲撃犯達も、怯えて逃げ去っていった。


私は運良く命の危機を免れた。

しかし私はうろたえ、嘔吐した。

(私は人を殺してしまったのだろうか?)

吐き気が落ち着くと、状況を把握するために、私は周囲を見渡した。

後輩が怯えて縮こまっている。

テディは見当たらない。

(テディに超能力のことをききたい)

テディがどこへ行ったのかききたくて、私は後輩に手で挨拶した。

すると後輩は「キャア」と悲鳴をあげ、腰を抜かして後ずさった。


平穏な金曜日の夕方、市役所は突如として怪人武装勢力に占拠された。

彼等は庁舎にいる市民を恐怖に陥れ、見せしめとして私を殺そうとした。

しかし私は逆に、テディのくれた破壊的な超能力を使って、怪人武装勢力を撃退した。

そして今度は私が、市民の恐怖の対象になってしまった。


今後のことについて、私は思案した。

(これまで通り、一般の市民でいられるのだろうか?

これまで通り、仕事を続けられるのだろうか?

そして、穏やかな老後を迎えることができるのだろうか?)

(私が破壊的な超能力を持っていると、世間に知れ渡ったらまずい)

ドミノの崩れる音がする。

どうにか切り抜けたい、しかしどうしようもない。

パニックになった私は思わず叫んだ。

「あの、私がやったんじゃないんです!」

後半の方、文章を上手くまとめられず、読みづらかったかと思います。

すみません。


話の続きとしては、この事件をきっかけにして主人公の人生設計が崩れていく、というのをイメージしています。

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