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『うっかり邪神(ヤクザ)を舎弟にした箱入り姫の極道スローライフ〜絶品ご飯で神様たちを餌付けして城下町の事務所で暮らします〜』  作者: 月神世一


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EP 5

地獄のマグローザ漁船(慰安旅行)

「お店のみんなで、『慰安旅行』に行きましょうか! ブタジマさん、お魚釣り(マグローザ漁)の船の手配、お願いできますか?」

リアナの明るい提案に、ヤクザ事務所の空気が再び凍りついた。

「ハァ? なんで取り立てに来た俺が、お前らの旅行の手配なんかしなきゃならねェんだヨ」

丸メガネを光らせ、ブタジマが苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

「こっちは遊びでやってんじゃねェんだよ。臓器がダメなら、地下の強制労働施設に放り込んで、一生魔力バッテリーのペダル漕がせるだけだ。さぁ、連れてけ」

ブタジマが後ろに控える魔族たちに顎でしゃくると、魔族たちがフェンリルとリーザを捕まえようと一歩前に出た。

その時。

「…………ブタジマさん」

リアナの声が、先ほどの「天然の無邪気さ」から、一切の感情を排した絶対零度のトーンへと変わった。

同時に、彼女の頭上に燦然と輝く【服従の輪】が顕現し、圧倒的な覇気が店内を制圧した。

「お店の仲間を、地下の暗い所に連れて行くのは……メッ、ですよ? みんなで楽しく、お日様の下で『お魚釣り』をするんです」

「な……ッ!?」

ブタジマの全身に、逆らうことの許されない絶対的な重圧がのしかかった。

彼の分厚い脂肪の奥底にある本能が、「この少女に逆らえば、魂ごと消滅する」と警鐘を鳴らし続ける。

「わ、わかり……ました……ッ。手配、しますゥゥ……ッ!」

「ふふっ、ありがとうございます! お願いしますね♡」

数秒後、何事もなかったかのように天使の笑顔に戻るリアナ。

ブタジマは脂汗をダラダラと流しながら、手下の魔族に震える声で指示を出した。

「お、おい……ルナミス港の『エスポワール水産』に連絡しろ……。最速で出港するマグローザ漁船を押さえるんだ……!」

***

数時間後。ルナミス帝国が誇る巨大な港町の一角。

一般の客船や商船が停泊する華やかなエリアから遠く離れた、澱んだ海水の臭いが立ち込める隔離ドックに、一行の姿はあった。

「はーい皆様、はぐれないように気をつけてくださいねー!」

遠足の引率の先生のように、ウキウキと先頭を歩くリアナ。その後ろには、気絶したままの過労女神フレアをズルズルと引きずるフェンリルとリーザ。

「お嬢、アレに乗るのか……?」

デュアダロスが、インテリメガネの奥の目を細めて前方を指差した。

そこにあったのは、巨大な木造と魔導機械が継ぎ接ぎに組み合わされた、ひどく歪で禍々しい船だった。

船体には長年の航海で染み付いた魔獣の血と潮の悪臭がこびりつき、船首には『希望の光号』という、状況に対する最悪の皮肉としか思えない文字が薄れかけている。

「うぅ……くさいですぅ……。パンの耳が腐った時の臭いがしますぅ……」

リーザが鼻をつまんで涙目になる。

「これが慰安旅行……? どう見ても地獄への片道切符だろ……」

フェンリルも絶望の表情で船を見上げる。

「さぁさぁ、皆さん早く乗りましょう! ……あ、ブタジマさんも一緒に来てくれるんですか? 案内、ありがとうございます!」

「ハァ!? 違う! 俺はここまで手配しただけで、なんで俺までこんなドス黒い船に乗らなきゃならねェんスか!」

ブタジマが慌てて否定するが、リアナはポンッと手を叩いた。

「えー? でも、ブタジマさんが一緒じゃないと、誰に借金を返していいか分からないじゃないですか。それに、みんなで釣りをした方が絶対楽しいですよ!」

「イヤ、そういう問題じゃ——」

「乗りますよね?」

チカッ、とリアナの頭上の【服従の輪】が光る。

「……ハイッ! 喜んで乗船させていただきますゥゥッ!!」

本職の闇金業者が、涙目になりながら直立不動で敬礼した。

こうして、借金まみれのクズ二匹、気絶した過労女神、巻き込まれた闇金業者、呆れ顔の極道邪神、そして一人だけ「慰安旅行」だと信じて疑わない天然サイコパス姫を乗せ、『希望の光号』はドラの音と共に重苦しい魔導エンジンの音を響かせ、外海へと出港した。

借金返済という名の、過酷な労働とギャンブルの狂宴が、今幕を開けるのだった。

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