1話 人魚姫の“姉”
「妹の恋を絶対阻止する、その為なら王子を殺す!!」
最愛の妹の為に私は一歩を踏み出した――
「ミネルヴァよ、お前からの提案とはいえ…本当に行くのか人間の国に」
「はいお父様、私も今年16歳です」
「この国では15歳で大人ですよ、国の為にも人との架け橋になってみせます」
私達は人間ではない。下半身が魚の――人魚と言うやつだ。
目の前の髭を蓄えた男性は、この人魚の国アクアリアの国王。
そして私はその娘だ。
「それに“今年”成人する妹の為にも立派な姉の姿を見せたいのです」
表向きは外交留学に赴くが、私の本当の目的は違う。
私の目的は、これから巻き起こる妹の悲劇を防ぐ事だ。
妹が成人する前に何としてでも王子との出会いを阻止する!!
何故なら、ここが…あの有名な悲劇の童話“人魚姫”の世界だからだ。
ハッピーエンドとは程遠い…、王子様とお姫様が結ばれる王道を裏切る物語。
「アリエッタか、お前がしばらく国に居ない事を寂しがっていた…まぁあの娘にもそれが良いことだろう」
「それはどういう事ですか?」
髭を触りながら考え込む父に疑問を覚える。
そんな私の様子に少し呆れたような顔を浮かべた父は、はぁとため息をつく。
「お前が溺愛して甘やかすからだ、あの子の自立のためにもよいだろう」
グサッとその言葉が刺さる。
そんな事を言われても!!あの物語の結末を知っていたら誰だって大切にしますよお父様っ!!
「おっお父様が考えるのならそうなんでしょう…」
そう苦い顔をミネルヴァは浮かべる。
「うむ、まぁ気に病むな仲が良いと言うことだ」
「家族の団欒はここまでにして国王としてお前に言葉を贈ろう」
そう父が言葉を言い終えるとピシッと背筋が良くなる。
その言葉には王たる威厳と威圧があった。
「第五王女ミネルヴァ・アクアリア、そなたの道に海流の導きがあらん事を」
手に持つ三叉の槍をこんっと地面を叩くとその音にミネルヴァは緑の目を伏せ、お辞儀をした。
「海流の導きがあらん事を」
そう海の祈りの言葉を紡いだ。
私は人魚姫の悲劇を認めない、だって人魚になる前…人間だった私が転生する前の人生からずっとあの物語を許せなかったのだから。
王の間から出ると、私はふぅと息をつく。
自室に向かい海を出る支度をしなければならない。
保湿の道具とか居るのかしら…お話を聞く限り城は中心街にあるそうだから少し海から遠いのよね。
お肌が乾いたら辛そうだし持っていきましょう。
いくら前世があるといってもこの世界に慣れてしまったし、この世界の陸を知らない。
どんな暮らしになるか今の私には想像が難しかった。
まぁほかの姉妹たちよりマシでしょうけど…
考え事をしているとギュッと後ろから誰かに抱きつかれる。
びっくりしてしまい、ブワッと気泡が海の中で舞い上がった。
金の長い髪が視界の端に映る。
「アリエッタ、びっくりするじゃない」
「だって!!行っちゃうんでしょ、何で教えてくれなかったのお姉様」
ぷくっと頬を膨らませるのは、彼女の青い瞳はどこか水のなかでも潤んで見えた。
その顔に罪悪感を覚える。
「だってあなたついて来たがるでしょ…いつも外にいきたいって言うんだもの」
「でもでも!本当にあとちょっとで私成人よ!一緒でも…」
「だめ!!」
そうとっさに勢いよく叫んでしまう、驚いたのか妹はビクッと体を震わせる。
ハッとしたミネルヴァはなだめるように妹の肩に触れる。
「危険なの…それに法に触れるわ」
「成人してからじゃないと海を出てはならないそうでしょう?」
アリエッタは俯き落ち込むとキュッと口を閉じる。
「ごめんなさいでも…離れたくなくって」
私の手をギュッと握り、寂しさを表した。
泣きそうになったのか桃色に紅潮した顔は不覚にもときめいてしまう。
(つらすぎる!!何が嫌で妹をこんな目に合わせないといけないの!!)
でも仕方がない妹のためだ。
「最後にわがまま言いたかったの!だから笑顔で見送るねっお姉様!!」
彼女はそうにぱっといつものように笑顔を浮かべる。
金の髪。
空を映した海のように鮮やかな青い瞳。
こんな美しい彼女が、泡になって消えるなんて認められない。
私はギュッと彼女を抱きしめる私よりも一回り小さい体がより愛しさを感じさせた。
この笑顔を守るそのためなら――王子だって殺す。
初投稿になります、読んで頂いた方ありがとうございます!!
1章完結まで毎日投稿します〜




