第168話 反撃の狼煙は良い匂い
シエラ王女様へ孵化の感応の儀式を前に色々準備してもらっている間。
あれから第一王子派の竜騎士隊から、何度か畑の襲撃に遭いました。
それも俺の畑だけを狙うという、局地的事故である。どう考えても故意ですね。
アラバマ殿下の畑に手を出さないのは褒めてあげたいところだが、結局のところ権力もなく力も弱そうな俺なら反撃されないと思っているのだろう。
まるでいじめっ子の典型的な行動である。
「ゆるすまじ……」
害獣対策については俺も様々な方法を知っているのだが、流石に電気柵を設置するのは費用もかかるし何より魔道具の電気柵を作ることから始めなければならないので断念した。
他に方法はないものかと考え、手持ちの如意麺棒を改造して害獣が上空に現れたら迎撃するようにしてみたところ。
「射出した後、自動で戻ってくるのか。なるほど。便利な武器だな」
「まるで伝説の武器みたいっすね……ヤベェっす」
「まどうぐだよ?」
害獣対策用のトラップ魔道具のつもりで作ったんだけど。
これをもう少し改良して、畑の周りに設置しようと思っていたのだけれど。
「リオンがキレたらヤベェのは判っちゃいたが、流石にここまでするこたぁねんじゃねぇか……?」
「ねぇねぇ、アレってただの伸縮自在な麺棒だったよね!?」
「伸縮自在ってところが既におかしいのよ! なんで槍が飛び出すのよ!?」
「試し撃ちで岩山が吹き飛んだではないか! 今すぐその物騒な武器を仕舞え!」
「え~……」
ということでみんなに止められた。
飛竜に乗っている竜騎士まで粉砕する破壊力だったからね。仕方がないね。
予定では脅かすために、ちょっと突つく程度の筈だったのにな~?
「追尾システム? なるほど。貫くまで追いかける機能か。それは良いな」
ディエゴだけは機能の追加に賛同してくれたのに。みんなからは物騒すぎると却下された。なんでだ。
『マスターの魔道具作りの才能には驚かされますが、最早それは魔道具ではなく伝説級の武器のように変化しています。電撃こそ放ちませんが、グングニルの槍のようになっておりますよ?』
Siryiの鑑定によれば、俺の怒りの魔力がそのまま『如意麺棒・魔改造Ⅱ・変形如意日本号(天下三名槍から名前を借りた)に伝搬してしまうのだそうだ。それにより威力が変化するとのこと。
怒りの度合いでは雷も放つ可能性があるらしい。なにそれ物騒。
結局この害獣対策魔道具(?)はお蔵入りとなったのだが、何かに使えそうなのでそのままにしておく。
普段はただの麺棒だしね。(ただし俺の意思で槍が射出される)
仕方がないので次なる策を考案することにした。
「まぁ、これならよかろう」
「レジェンド級の武器に比べればな……。アレはヤバかった」
「リオリオ本人はあくまでも魔道具と言い放ってるっすけど……」
「これなら引っかかっても死にはしないしな」
「でもこれに引っ掛かりたくはないわね」
「うわぁ~べたべたしてる~!」
新たに考えた害獣落下対策は、カーバンクルに頼んで畑を丈夫なハウス型に囲って貰い、トリモチを仕掛けるという方法である。
モチノキに似た常緑樹はサヘールでも自生していて、樹液でゴムを作るために栽培されていた。それをトリモチに改良したという訳だ。
サボテンを揚げようとして溶けた失敗油とモチノキの樹液を混ぜたら、なんかイイ感じに粘着性だけが強化されたトリモチになったのである。油が勿体ないからと捨てずに取っておいてよかった。
失敗は成功の母だね。配合を工夫したら接着剤として使えそうだ。
「これはこれで商品化できそうだな。でかしたぞ」
「これを小さくして、害虫などの捕虫用の罠を作ると良いそうです」
その際にトリモチは中に仕掛けてね。
「民家の備蓄倉庫の被害を減らすのに一役買いそうだな」
「アルケミストとは、発想の天才ですね」
「かなりヤバイ物も作り出すがな……」
「怒らせると危険であると、深く理解致しました」
「こ奴の作る魔道具は危険すぎて、いくつかの試作品は商品化できぬのが問題でもあるのだ……」
「ご本人にしか作れない物が多すぎますからね」
アラバマ殿下とムスタファからもお褒めの言葉(?)を頂いたので、早速仕掛けておくか。
ハウス型だけどゴキホイと違って中に入る前に捕らえることができる。寧ろ上から落っこちてくるから外側にトリモチを塗りたくっておいた。
そうしたら見事に引っ掛かったんだぜ。
しかも傷は負わせてないからセーフセーフ。
トリモチハウスに勝手に落っこちてきた不届き者らが悪いのだ。
引っ掛かった仲間を助けるために、沢山の飛竜と竜騎士が二次災害に遭ってたけど自業自得である。
ノワルに運んでもらって上から確認してみると、そこには沢山の服と髪の毛がトリモチによって剥がされた残骸があった。
もしかしたら裸んぼのツルッパゲになったのかもね。面白いのでこれはこのまま記念に残しておいてやろう。
それにこのトリモチは水に弱く、濡らすと簡単に剥がれ落ちるので涙や唾液や汗で濡れると剥がれるから窒息の心配はないよ! 雨の少ないサヘールだからこその罠ってことだね。
体毛は抜けるけど、命に別状はないので安心して欲しい。無駄毛のパージも同時に行える画期的なトリモチである。とはいえかなり痛いけれども。
後日第一王子側からアラバマ殿下に文句を言ってきたのだが、畑の被害の損害賠償請求をしてやったら見事に逃げた。
卑怯者めらが。いつか天罰が下るだろうから、首を洗って待っているがいい!
命令を聞いているだけの飛竜が可哀想なのもあってこの程度で済ませてやってるんだからな!
その後は飛竜が俺の畑のある方の飛行を拒否したらしく、意図的な墜落事故は無くなったので良かった良かった。
◆
とまぁ、そんなこんながありまして。
やってきましたシエラ王女様率いる竜騎士隊の宿舎です。
本日は儀式の準備の進捗具合の確認と、視察がてら訪問することにした。
建物自体は至って普通なのかな?
石造りでとても頑丈そうだ。質実剛健って感じ。
敷地は訓練場も兼ねているのでとても広く、鍛錬中の竜騎士の方々がちらほらいるのが見えた。
向こう側に見えるとてもゴージャスな建物だけど、あちらはきっと第一王子側の竜騎士の宿舎なのだろう。欠陥工事が見つかって、どこか崩れたらいいのに。
なんて不穏なことを考えていると、宿舎の扉がけたたましくドバンと開いた。
こういう人がいるから頑丈に作ってあるんだろうな。
「お~、我が救世主リオン、よくぞ来てくれた! 歓迎するぞよ!」
「そいやっ!」
またもや俺にハグってこようとしたので、シエラ王女様を軽くひねって地面に転がしてあげた。
挨拶代わりのスキンシップキャンセルによって、捻り転がされた本人はケロリとしたものだ。
相変わらず楽しそうにケラケラ笑っていらっしゃる。
がしかし、見慣れていない候補生の多くは唖然としていた。
「おいシエラ。嬉しいのは判るが、準備は抜かりなく行っておるのであろうな?」
「おお、そうであった! 言われた通りに準備をしておるぞ!」
ぞろりと居並ぶ候補生を従えて、シエラ王女様は誇らしげに紹介してくれた。
ほうほう。みんな血色も良く、鍛えられた体躯は男女共に見事だね。
「以前に比べて見違えるように小綺麗になっておるな」
「飛竜にも好評のようでな。これなら孵化した仔竜も見惚れるに違いない!」
面白魔道具として、シエラ王女様にはにゃんリンガルの一時貸し出しをした。
アラバマ殿下は召喚士にランクアップしたことで自分の従魔と既に念波で会話ができるようになっているし、相手を疑って本音を知る必要もないぐらいの余裕が生まれたからね。依存する前に手放せてよかったよ。
「しかしこの魔道具は素晴らしいのう。今までは何となくでしか伝わらなかった従魔の言葉が、この魔道具によって会話として成立するとは……。わらわに譲ってくれんかのう?」
「それはダメ」
本音を知ることは必要だけど、察する能力と見極める力が損なわれるからね。
因みにこのにゃんリンガルは、対人には使えないよう機能を封印してあるので、あくまでも従魔の本音しか判らないようにしてあった。
本音といっても従魔は人間と違って裏表があんまりないから、普通に会話しているようなものである。なので特に害はないだろうということで貸し出しているのだ。
『マスターの魔道具の魔改造能力は日に日に進化してますね』
俺もサヘールに来て、魔道具の改造が出来るようになって驚いてるよ。
無意識にしていたことが、どんどん意識することで実現可能になってて逆に怖いんだけどね。もう少し自重した方が良いとは思うけれど、思い付いたらついやっちゃうんだよな~。
発想自体は既存のネタに走ってるし、便利なジョークグッズみたいなもんだから心配ないとは思うけどね。
『そう思っているのはマスターだけですけどね……』
ん? なんかSiryiが溜息を吐いたような気がするけど、気のせいかな?
「シエラも頑張って、そのうち召喚士にジョブチェンジすればよかろう」
「それが出来れば苦労しないのじゃ! 何故アラバマ兄上は召喚士にジョブチェンジできたのじゃ!?」
「才能であろうな?」
「わらわもカーバンクルと契約したいのじゃ!!」
「無理であろうな。カーバンクルは土属性であるからな」
ふふふんと、得意気に胸を張るアラバマ殿下である。
飛竜をテイムできないことで見下されていたのを、少し根に持っているのかな?
とはいえ、新たに幻獣であるカーバンクルがテイムできると証明したアラバマ殿下の株はグングンと右肩上がりとなっていた。
なんと今まで風属性より下に見られがちであった土属性持ちが、カーバンクルと契約できると判明したことで、急激に見直されているのだとか。
隠しておきたいカーバンクルとの契約だけど、アラバマ殿下だけだと今後のカーバンクルの行く末が心配なので、冒険者ギルドを介して正式に公表したのである。
問題だった鉱山やダンジョンに現れていたカーバンクルは、実はカーバンクルではない魔物でそれは退治されたことにした。
実際にもう出現しないからいいよねってことで。ブランカのようなカーバンクルは居ないから、存在しない魔物なのは本当だ。
それに新たな名産品であるサヘール産の岩塩作り(バスソルト)もあるし、人手を増やしたい意図もあった。
主人待ちのカーバンクルが研究所でのんびり過ごしながら契約者を待っているのもあり、見込み有のテイマーと里親譲渡会のようなことをしている。
カーバンクルも心得たものなのか、臆病で警戒心が強いからか、欲深い心根の卑しい者は拒否されるけどね。
現在は数名の土属性持ちのテイマーが、研究所に通いながら畑仕事を手伝いつつ、カーバンクルと交流している。中には普通のフェネックと感応して微笑ましいことになっているけれども。
「アラバマ殿下! この子を私に下さい!」とかどこかで聞いたセリフを言い放つ、フェネックカフェの常連が後を絶たない。
ブランカみたいな規格外はディエゴレベルでないと従魔に出来ないし、ムスタファのような賢さを持ったカーバンクルはアラバマ殿下でないと制御できないんだよね。
幻獣として知られるカーバンクルといっても、全てが優秀ではないのだ。現状優れた能力持ちのカーバンクルはほぼアラバマ殿下と契約しちゃってるしね。
それ以外のフェネックに擬態しているカーバンクルは、ちょっとしたゴーレムを作れるとか、土中から塩の成分を抜き出せるとかぐらいで、微々たる能力しかないのが殆どである。後なんか金属探知機的な能力もあるけどね。精々クズ魔晶石を探すぐらいのレベルだ。
だから冒険者ギルドに申告しても大丈夫だろうってことになった。
今後はバホメールだけでなく、カーバンクルという可愛らしい従魔もテイムできるようになるよ! 良かったね!
就職先はアラバマ殿下の運営する農業等の一次産業になるので、食いっぱぐれないことは間違いなしである。
手厚い福利厚生もあるので、今後は人気の職業になるであろう。
「やはりナベリウスを従魔にしなければ、召喚士にはなれぬのかのう……?」
「その前に命を落とすことになるから止めておけ。数ヶ月前に死にかけたことをもう忘れたのか?」
「忘れてはおらぬが、悔しいではないか」
「それよりもまずは、孵化の儀式を心配しろ。欲張るとろくなことにならぬぞ」
「そうであったな。うむ。カシム側に飛竜を奪われぬようせねばならぬな」
「ろくな仕事もせぬのに、飛竜を消耗品のように扱っておるからな……」
貴重な戦力である飛竜なのに、第一王子側は丁寧に世話をしていないような話をしている。
どういうことかとよくよく話を聞いてみれば、毎年生まれる飛竜の仔だけれど、その大半が未熟な竜騎士によって命を落としているそうだ。これは忌々しき問題だな。
「生涯のパートナーであるのに、まるで替えの利く道具のように扱っておるのじゃ」
「であるから法を改正せねばならん。従魔を失った竜騎士が、そう何度も孵化場での感応の儀式に参加させるのは禁止にせねばな」
「不慮の事故ではなく、過失であればテイマーとしての資格も剥奪したいところじゃからの」
「シエラの飛竜もその点で言えば、お主の過失での怪我を負ったのではないか?」
自分自身も大怪我を負ったとはいえ、シエラ王女様の飛竜も怪我をしたらしい。
「ぐぬっ……。そこは、反省すべき点ではある。わらわを置いて逃げろと命令したのに、助け出したことで美しい鱗が剥がれてしまった……」
「その程度で済んで良かったな」
「その程度とは何じゃ! 生え変わるのに時間がかかるのじゃぞ!」
鱗が剥がれる程度の怪我で済んだってことかな?
そういえば、トリモチハウスにはキラキラした硬いナニカが何枚かくっついてたような……。血は出てなかったようなので、薄皮が剥けたみたいなもんだろう。
主人である竜騎士とお揃いで禿げが出来たのかもしれないね。
「そんなことはどうでも良い。大切なのは、今後だからな」
「そ、そうじゃな。わらわも軽率な真似をするのは控えようと反省したのじゃ」
「高い勉強をしたもんだ」
なんてことを話しながら辿り着いたのは飛竜たちの餌場である。
ここは候補生たちの仕事の一つでもある、飛竜の食事を用意する調理場だった。
「ど、どうじゃ? 生肉ではなく、加熱するよう指示してみたのじゃが……」
飛竜は肉食というより、雑食に近いので野菜も果物も食べる。でも一番好きなのはお肉ということで、それらを混ぜ合わせて見た目にも拘らせた。
「食べる宝石のようじゃと喜んでおったぞ?」
「うん。いいんじゃないかな?」
美味しいご飯は活力の源だ。
生でも良いけど、焼くと匂いが漂うから興味も惹かれるよね。
これらのお肉は候補生が砂漠に生息している魔物を狩って用意している。野菜や果物はアラバマ農場から仕入れていて、栄養価は保証済みだ。サボテンの魔物も教えたとおりに調理していて、こちらは竜騎士たちにも好評らしい。
調理場の窓からは、美味しそうな匂いにつられて飛竜が顔を覗かせていた。
「時折カシム側の飛竜も混じっておるのじゃが、効果は抜群ではないか?」
開け放たれた窓から見える飛竜の顔ぶれの中に、敵側の飛竜がいるという。
フッフッフ。
匂いに誘われているようだね。良い傾向である。
あちらは適当に使用人から世話をされているだけの可哀想な飛竜たちだ。
生涯のパートナーに選んだ主人が、甲斐性なしと知ればこちらに寝返ることもあるだろうて。
こうなったら孵化の儀式だけでなく、三下り半を叩きつけて離婚させてやる勢いで第一王子側の飛竜をゲットしてやろうではないか!
とはいえ、あちらも対策を練るだろうから一度しか使えない手段だけどね。
とりあえず反撃の狼煙は美味しい食べ物の匂いから始めよう作戦である。
「ところでアマンダとチェリッシュは来ていないようだな? 他にもギガンとテオとやらもおらぬようだが」
「ああ。あの四人は夫々王子宮と王女宮へ、アンケートを取りに行っています」
「アンケート?」
ディエゴの説明に、シエラ王女様は首を傾げた。
俺も一緒に小首を傾げる。
そう言えば俺とアラバマ殿下の雇った料理人さんとで作った試作品のお菓子や料理を大量に受け取って持って行ってたな。
他にも色々と持って行きたいというので渡した。
ちゃんと売るから心配するなって言ってたけど、行商でも始めるのだろうか?
「ターゲットは主にこの国の重臣どもの家族であろう?」
「そうですね。リオンが物騒なことを仕出かさないよう、出来るだけ味方を増やす方法をアラバマ殿下が提案されましたので。平和的解決に向けて動いております」
「親が腐っていても、その子供まで腐っておらんことを願おう」
「そうですね」
「?」
「??」
俺としては限りなく平和的解決に向けて考動しているつもりなんだけど?
「シュテルという商人も伴っておるそうだから、取引が上手くいくと良いな」
「そうですね」
んんんん?
シュテルさんまで巻き込んで何をしているんだ?
どうやら俺の知らないところで、水面下で動いているようだ。
でもとりあえずは目先のことに意識を切り替えよう。
「食事の方はこれで良いとして、わらわの飛竜も見てもらいたいのじゃが?」
「そうだねー」
ということで、次の現場へ移動することにした。
シエラ王女様の飛竜ってどんなかな? 飛竜の中での女王様らしいので、ちょっとだけ楽しみである。




