第165話 出来ることから一歩一歩
目に見える敵や目に見えない内なる敵、外敵に環境による自然災害等々。
国を運営(?)するのって大変なんだなぁというのを、アラバマ殿下たちの話を流し聞きながら小学生並みの感想しか出ない俺である。
なんていうか、意見の食い違いがあるのに、妥協点を見つけるのも大変だよね。
もっとシンプルに考えられないのだろうかと思うけど、人によって考えや意見が合う合わないがあるから仕方がないのだろう。
シエラ王女様はナベリウスを従魔にして強兵を作り出そうとしているし、アマル様は交渉や同盟国との協定で外交の安定化を図ろうとしている。
確かにその両方は必要不可欠なのだろうけれど、アラバマ殿下はまずは国内生産の安定から始めようとしていた。
他国に頼って、もしはしごを外されたらどうするのか問題もある。
外交による協定は必ずしも自分たちに有利になる訳ではないし、討伐対象であるナベリウスを従魔にするのは現状難しいからね。
一方の第一王子派なんて、頭がいかれてんのかってぐらいに古い考えの持ち主で固まっていて、放っておくと独裁政治になりかねないし、武力で他国に攻め入ろうと企んでいた。
とまぁ、そんな第一王子派は一先ず置いておくとして。
「魔晶石の売買で他国から輸入品を仕入れるのは構わん。だが、それらの物品の輸入がストップしたらどうする? 自立することなく必要な物を外に頼ってばかりでは、何れ足元をすくわれるぞ」
援助を求めて断られたら大変なことになるよね。
俺の世界でもよくある問題だけど、途上国が他国の援助でインフラを無料で作ってくれるって喜んでいたら、その後の保証は何もなくて荒れ果てた道路だけが残されてもっと悲惨な状況になったって話しもあるし。欠陥だらけのインフラだけが残って、今度は有料で修理をして貰わなくてはならないことになるのだ。
何事も対価のない施しはない。
中途半端に便利さだけを求めて安易に他者に頼り、自立できないままだと結果的に自分たちの首を絞めるという例である。
日本だと現地民に現地にある材料でどうにかする技術や方法を考案して支援するけど、他の国だとそういった技術の支援はしないからなー。
列車や線路、インフラや建物など作るだけ作って後は放ったらかしなんて当たり前なのだ。なんせ実績だけあればいいもんな。だから後々のことまで考えない。労働者も現地民を雇わず経済も回さないから、いつまで経っても貧しいままだ。
だからという訳ではないのだろうが、先見の明のあるアラバマ殿下は、自国にあるモノで自分たちの力だけで様々な物を作り出そうとしていた。
なので技術者をすごく大切にしている。(ここが日本との違いだな)
「シエラもいい加減ナベリウスを従魔にするのは諦めよ。今回は命拾いをしたようだが、次もそうなるとは限らぬ。お主の命は一つしかなく、大勢の者の命も背負っているのだと心得よ」
たまたまディエゴが賢者の塔にアースドラゴンの骨の成分分析の依頼を出していて、たまたま再生治療薬になると判明したから助かったのだ。
そうでなければ五体満足に復活できなかったに違いない。
一歩間違えれば再生治療薬でも助けられなくなっていたかもしれないのだ。
「だが、第一王子派の連中は、ナベリウスの卵を手に入れたと言っておるのじゃぞ!」
「うむ。そのことなのだが、それは嘘だ」
「は?」
「ど、どういうことなのですか、アラバマ兄上!」
どうやら嘘発見器でもそこまで見抜けなかったようだね。
というか、一々第一王子派をとっ捕まえて嘘発見器にかける訳にもいかなかったのだろう。にゃんリンガルと違って、装置に手を置かせて質問に答えさせなきゃいけないもんな。
まぁ、それ以前に嘘かどうかの質問をしていなかったのかもしれないけど。
「それはシエラを罠にかける為であろうが。そんなことも見抜けぬとは呆れてものも言えぬわ。俺様であればそんな虚言に騙されぬぞ」
アラバマ殿下は疑いすぎるのが難だけどね。慎重と言えばそうなのだろうが、周りに信頼のおける臣下が居なかったから仕方がないんだろうけれど。
搔い摘んで説明すると、シエラ王女様がナベリウスを従魔にしようと巣に忍び込むことになった原因が、第一王子派の「ナベリウスの卵を手に入れた」という嘘の情報が発端らしい。
普段であれば討伐するだけだったのに、更に危険を冒してまで怪我を負ったのも、焦った王女様がナベリウスの卵を手に入れようとしたからだ。
なんでそうなったかというと、サヘールには二つの竜騎士隊がある。
第一王子も竜騎士隊を率いていて、そちらはチャライ系ボンボン部隊なんだって。
対する王女様の率いる竜騎士隊は話に聞く限り、第一狂ってる団のような化け物――――ではなく精鋭部隊である。
実力的には王女様の方の竜騎士隊が上だけど、有力者や貴族の子息の集まった第一王子派の竜騎士隊の方が格上なのだそうだ。というか、権力を笠に着て威張り散らしているって感じかな?
そんな両極端な竜騎士隊同士なので、常に小競り合いが勃発しているらしい。
「……それは、本当ですか?」
「確かな筋での情報じゃろうな……?」
「シエラに出来ぬのに、何故あやつらにそれが出来ると思うのだ。怪しんで当然のことであろうが。故に裏を取ってみた」
確かな筋どころか、隠密カーバンクル部隊からの情報だもん。あちこちに潜ませて様々な情報を仕入れているから間違いないだろう。
背後に控えるムスタファに視線を向け、アラバマ殿下はニヤリとほくそ笑んだ。
ここ最近ディエゴと一緒になって悪巧みしていると思ったんだけど、かなり有益な情報を仕入れていたみたいだ。
何せ隠密カーバンクル部隊を作るよう提言したのもディエゴだからなー。そしてそれに乗っかるアラバマ殿下も大概だが、遺憾なくカーバンクルの能力を発揮させ、存分に使いこなしているのが恐ろしい。(残念ながらブランカはそこまで賢くない)
「ここからは身内の恥ゆえ、聞かれたくない内容もある。よって他の者はリオンに出入り可能な場所を案内してもらってくれぬか?」
「りょーかい!」
親族のみで込み入った話がしたいんだね。オーケー。俺もそろそろ飽きてきたし、みんなを案内してあげよう。
社食やカフェなんて目じゃないんだよ。アラバマ殿下の福利厚生はとても手厚く、仮眠室にプールやサウナに筋トレルームも完備されたこの施設にみんな驚くが良い。
快適すぎて家に帰らない職員もいるが、それは些細なことである。その内独身寮でも併設するだろうしね。
その後、齎される情報の数々に、アマル様とシエラ王女様がどんな反応をしたのか俺は知らないけれど。
屋上の展望台でサヘールの砂漠と緑地化しかけている景色を眺めていると、憑き物が落ちたようなさっぱりした表情の殿下たちが現れた。
きっとにゃんリンガルを使って本音を確認したのだろうけど、そのお陰で言いたいこともはっきり言い合えたようだ。
お互いの立場上、面と向かって話し合うことは少なかっただろうけれど、伝えなければ何も始まらないもんな。
これで少しはアラバマ殿下の考えに理解を示してくれるようになればいいね。
直ぐに問題は解決しないだろうけど、出来ることから一歩一歩進んで行けばいい。
厄介な第一王子派もいるにはいるけど、せめて三人の兄(姉)弟同士、力を合わせて行ければ良いなと俺は願った。
余談だが。
隙をついて三度俺をハグろうとしたシエラ王女様を脊髄反射で投げ飛ばした際に、うっかり屋上から落下させてしまうという恐ろしい事態になった。
蒼褪める俺とヤバさに慌てるみんな。しかしアマル様とアラバマ殿下だけは妙に冷静で。それもそのはず。屋上から飛んで行ったシエラ王女様は、ワハハハハと実に楽しそうに笑いながら地上へ着地していた。
「この程度の高さなど、どうということもないわ。飛竜の背から落ちても平然と着地できなければ、正式にわらわの竜騎士隊へは入隊できぬからのう!」
なんてほざいてやがりましたよ。
完全復活したことを証明するべく、わざと屋上から落下したんじゃないかと疑いたくなる。
やっぱ狂ってる団の隊長だね。
この高さから無傷で着地できるなんて人間技じゃない。
どう考えても化け物である。
だから第一王子派は自ら手を下さず、シエラ王女様をナベリウスに討伐させようとしたのかと、妙に納得してしまう一件であった。
~閑話・シエラ殿下復活までのカウントダウン~
「ふんっ!」
ムキッと盛り上がる上腕二頭筋。
「ぬんっ!」
グッと引き締まり筋肉が浮かび上がる広背筋。
「どうであろう? 以前よりもわらわの肉体美が輝いているようではないか?」
「ええ。以前がどうだったか存じませんが、見事な肉体美だと思いますわ」
「であろう!」
「色んな意味で、凄いです……」
これが一月前までは腕や脚を欠損し、顔の半分がただれた状態だったとは信じられないと誰もが思うだろう。やせ細っていた姿が今や遠い昔のようだ。
「あの姿がどうしてこうなっちゃうんだろう……?」
大怪我を負って病床に伏していた姿はアマルにとてもよく似ていた。
背は高かったけれど、欠損部位もあり筋肉も落ちていたので、再生治療薬で元の姿に戻るまではこうなるとは予想もしていなかったのだ。
確かにアマンダやチェリッシュたちが最初に見たシエラの姿は、今よりはまだ女性的であったはずなのに。
日に日に回復する姿に喜んでいたのも束の間。ここ最近はあまりの変貌ぶりに別の意味で畏れ多くなっていた。
「リオンの考えた病人食が悪かったのかしら……?」
「悪かったっていうより、効果があり過ぎたのかなぁ?」
まさかこんなに男前になるだなんて想定外だ。リオンが以前口にしていたホルモンのバランスとやらが、治療薬と食事のせいでおかしくなったのかもしれない。何てことを二人は思った。
「私たちがお世話しているせいにされるかも……」
「でもでも食事は料理人さんが作ってたよ!」
「だったら治療薬の副作用のせいにするしかないわね」
「他の侍女さんやメイドさんはあんまり気にしてなかったけど、流石にここまで姿が変わるとおかしいよね?」
「ほら、他の人は王族だからって口にできなかったのよ」
「不敬に当たるってやつ?」
「そうよ。だから誰もが口に出せなかったに違いないわ」
姿見を前にポージングを取り己の肉体美に見惚れているシエラの後ろで、アマンダとチェリッシュはひそひそと話し合っていた。
後ろから見れば完全に男性と間違えそうな体型で、前から見れば―――雄っぱいの大きな男性に見えなくもないから紛らわしかった。
「リオっちの美容品は、アタシたちも使ってるから変なものは入ってないのは証明できるよね?」
「そうねぇ。水分を失って荒れてかさついてたシエラ殿下の肌も、見違えるように艶々ぷるぷるになってるし、それは問題にならないわ。王宮で働いている殆どの女性にも配ったし、みんな艶々になったって喜んでたしね」
そうして王女宮で働く女性の殆どをコロポックル印の美容品で魅了することで、シエラ側の味方に引き入れて協力者を増やして行ったのだ。
その誰もが男性的にはなっていない。やはり治療薬の副作用ではないだろうか?
「ああ、早く飛竜に乗って空を駆け回りたいのじゃが? いい加減病人のふりをするのも飽きてしもうたわ!」
声だけは可愛らしく女性的なだけに、見た目とのギャップに困惑する。
だがこれこそが本来のシエラの姿であり、怪我によって筋肉が落ちてやせ細っていたのが仮の姿であることを、二人ともまだ知らずにいた。
周りがシエラに配慮しているのではなく、正しく元の姿へと戻りつつあることを喜んでいたのを知るのはもう少し先になる。
それまで薬の副作用であると信じ込んで、アマンダとチェリッシュがびくびくしながら世話をしていたのは言うまでもない。
「それと、わらわの恩人であるリオンとやらにも会いたいのう! このように身体が以前よりも美しく、そして逞しくなるよう、食事に配慮してくれたことに感謝せねばならぬからの。同じく大怪我をしたわらわの部下は、食事治療をしておらぬせいか治りが遅いそうなのでな。特にこの希少なローヤルゼリーとやらが効果があったのであろうか?」
「え、ええ。そうですわね。滅多に手に入らない栄養食品ですから」
「あーそうですねぇ……。リオっちしか手に入れられないですし」
「シエラ殿下には特別にということで、処方させて頂きました」
「なるほど。そうであったか。ならばより感謝の気持ちを伝えなければならんな!」
「それは、出来れば控え目でお願い致しますわ」
「リオっちが潰れちゃう……」
シエラの完全復活まであと少し。
それまでに何とかしてシエラが女性らしく見えるよう体裁を整えるべく、アマンダとチェリッシュは無駄な努力をすることになるのであった。




