第164話 秘密基地へようこそ
弾丸のように飛んできた白い物体――――ブランカを難なく受け止めて、ディエゴは微笑んだ。
「ウキャ、キュキュ~ッ!」
訳すと「ダーリン、会いたかったわ~!」というところだろう。
本日はお留守番訓練として、ブランカには秘密基地で待機させていたのだ。
これも従魔としての訓練の一環なので、我儘でやりたい放題のブランカには必要なことだった。
「ブランカ。留守の間、大人しくできたか?」
「キャキャ!」
自信満々に返事をし、ディエゴに頬ずりをするブランカ。
そんなブランカを見たアマンダ姉さんは瞳を輝かせた。
「やだっ! これが噂のブランカちゃんね!」
「小っちゃくて可愛いっ!」
早速とばかりに、可愛いモノ好きの女性二人が食い付いた。
「ああ。まだ子供だから躾が行き届いてないんだ。同じ女性として、アマンダに教育を任せてもいいか?」
ディエゴに張り付いていたのをバリっと剥がされ、感動の再会をしていたブランカはポンとアマンダ姉さんに渡された。
子供だと言うが、サヘールで長年カーバンクルの風評被害を拡大し続けていたので、ブランカは実際にはかなりの年齢であろう。(見た目が子供の俺と同じ扱い)
「そう言えば、手紙に『やんちゃ』って書いてあったよね?」
「もぉ~、しょうがないわねぇ~。まぁいいわ。ブランカちゃん。立派なレディになりましょうね~?」
「キュ?」
「良かったなブランカ。立派なレディになるんだぞ」
「ウキュッ??」
困惑して「え?」「ええ??」みたいな表情になるブランカ。
さらばブランカ。お前の天下は本日この時点で終了である。今まで好き勝手にやっていただろうが、今日からアマンダ姉さんに確りと躾けてもらうが良い。
叱られて『緊箍児』が頭を締め付けないよう、確りとマナーを身に付けてくれ。
そしてブランカに食いつく女性二人とは別で、他の人たちは研究所内の設備に興味津々だ。
「すげぇ……なんだここ」
「洞窟の中だよな? なんで窓があるんだ?」
「どういう仕掛けになってんだ?」
外側は幻術によってただの岩壁にしか見えないが、室内の壁には大きな窓があって光が入るようになっていた。
閉塞感を無くすためだけど、マジックミラーみたいな感じかな?
「しかも外と違ってやけに涼しいな」
「どっから冷たい空気がきてんだ?」
室内がやけに涼しいのは、エアコンのお陰である。アラバマ殿下の乳製品工場に設置されていた空調魔道具を室内用に小型化したのだ。(現在商業ギルドにて特許の申請中である)
壁に埋め込んであるから魔道具自体は目立って見えないけどね。
「もしかして、ここはリオリオ専用のキッチンカウンターっすか?」
「触るなテオ! どんなヤベェ仕掛けがあるかわかんねぇぞ!」
「いつものリオリオのマグカップが並んでるっすよ?」
「だから油断すんじゃねぇっ! 例のパワーストーンも並んでるだろうが!」
テオよ、そこはただのカフェカウンターだぞ。なんかギガンがやけに慎重になっているけど、危ない仕掛けは何もないので心配しなくてもいいよ。
それとその棚は俺のコレクション置き場だから。見せびらかしたいので並べているのだ。じっくり見て行ってくれたまえ。
「この壁にある段々は何じゃ? この柱がある物置棚も妙じゃぞ!? 何故穴の開いた小さな箱やハンモックが付いておるのじゃ?」
「姉上! やたらと触るのはお止めください! 壊すとアラバマ兄上に叱られますよ!」
壁のあちこちにある段々はフェネックの足場だよ。キャットウォークのフェネック版だね。そしてキャットタワーならぬ、魔道具職人さんと一緒に作ったフェネックタワーも置いてあった。
他にも見えないフェネック用の出入り口がそこかしこにある。幻術を使って姿を見えなくすることはできても、カーバンクルは壁を通り抜けることはできないからね。
何せここは増え過ぎたカーバンクルの住処でもあるのだ。しかも従魔契約をしていないカーバンクルも住み着いているけど気にしない。(数えるのも面倒)
多分見たことのない人間がいるので、姿を消しているだけでそこかしこに居るのだろう。普段は猫カフェみたいに寛いでいるフェネックが見れるし、疲れた体と心を癒すべく、フェネックでアニマルセラピーも出来るのだ。
それにその内他の地属性のテイマーと契約するかもしれないということもあって、砂や埃をきちんと落として出入りするのであれば良いと言うことにして好きに住まわせている。
現在アラバマ殿下のフェネック部隊はムスタファによって厳選されているので、それ以外の野良(主無し)カーバンクルは、ここで波長の合うご主人様を待っている状態って感じかな?
ここに居れば外敵に襲われることもないし、三食昼寝付きのお仕事として出入りする人間の監視役も任せていた。
先程現れたフェネックもそんな野良カーバンクルの一匹だ。
幻獣なのに意外と多いぞカーバンクル。いったい今までどこに隠れ住んでいたんだろうか?(たまに本物のフェネックも紛れている気がする)
しかしただのエントランスホールにみんな大はしゃぎだね。
デザイン的には洞窟内部であっても、ホテルや企業にあるエントランスホールのような広々とした解放感を追求してみたからかもしれない。この世界ではこういう造りの部屋ってないみたいなんだよね。(意味不明に広い玄関はあるけど)
しかも共有スペースなので、それなりに快適な造りにしている。
インテリアにも拘って、バホメールの羊毛で作られた絨毯や壁掛けにクッションを配置し、自然光を取り込むだけでなく、景色を眺めるために大きく作られた窓際には応接用のソファやテーブルがいくつかあり、カフェカウンターで好きに飲み物を作って寛ぐことができる。
もちろん研究員食堂もあるがそこはカフェカウンターの裏側にあって、ここは休憩場所と応接の役割のような感じで作ってあった。
ということで、みんながあちこち見ている間に、俺は接客用の飲み物やお菓子の準備でもしよう。お兄ちゃん手伝って~。
「ええい、貴様らうろちょろするな! こちらに来て腰を落ち着けろ!」
「のうアラバマ、わらわは他の部屋も見たいぞっ! しかし入り口以外の他の扉が見当たらぬの?」
「図々しいわっ! 研究所に入れてやっただけでもありがたいと思えっ!」
ここには魔道具職人のドワーフさんや、乳製品工場の従業員さんの開発室もある。
サボテン関連の肥料や治療薬に美容品も作られているので、関係者以外立ち入り禁止区域が多いんだよね。
なので、他の部屋の出入り口は一見して判らない。侵入者対策として、忍者屋敷の回転扉風にしているから初見さんにはただの壁や棚にしか見えなかった。
他にもどんでん返しで地下室(ただの倉庫)に入れたり、秘密の小部屋(主にフェネックのねぐら)に入るための隠し通路や隠し階段もあって面白い。ただ妙な仕掛けを作り過ぎて、みんな自分の目的の部屋にしか行かなくなっちゃってるけどね。
うっかりすると、侵入者用のトラップに引っ掛かるからだけど。(落とし穴等)
そんな訳で、アラバマ研究所という名の秘密基地の全体の構造を把握しているのはアラバマ殿下ぐらいである。
俺もディエゴも把握していないのは、殿下が王族だからか、抜け道や秘密の通路をムスタファと一緒に嬉々として作っていたせいだ。そしてその妙な秘密の通路や部屋は現在進行形で増えているらしい。
俺が面白がって忍者屋敷の仕掛けを教えた所為かな~?
「そもそもお前たち竜騎士の宿舎や訓練場に、関係者以外は入れるのか?」
「いや。それは無理じゃな」
「であろうが。ここもそのような場所だ」
「……そう言われると、確かにそうじゃな」
納得したのか、シエラ王女様は促されたソファへ腰を落ち着けた。
脳筋っぽくはしゃいでたけど、案外聞き分けや理解力は良い方なのかな? 高圧的にごり押しするタイプではなさそうだ。
他のみんなもつられて応接用のソファーへと集まって来たので、ウェルカムドリンクを提供することにした。
「のみものどうぞー」
試作品であるバホメールのミルクとレモンで作ったラッシー(ハチミツ入り)や、青茶で作ったカラフルなレインボーカクテル(ノンアル)、アイスココアやホットチョコレート等々、気になった物を各自選んで飲んで下さい。
お茶請けはチョコを使ったデザート各種である。乳製品工場の料理上手な職員さんが開発した物なので味は保障するよ!
面倒だけど商業ギルドと協力して、アラバマカフェ一号店を出店する予定なので、ただいま飲み物やデザート類の開発中なのだ。
シュテルさん主導で協力体制を築いてくれていて有難いのだが、あちらはあちらで秘密裏に動いているのでまだ誰も知らないことだった。
だがこれもアラバマ殿下の努力を目に見える形でお披露目するためなので、研究職員さんみんなで頑張っている。
「取りあえずみな、これらを試飲と試食するが良い。どうせ俺様が何をしているのか気になっておったのだろう? 話はこれを食しながらしてやる」
「お、おう。何やら面妖な飲み物……であるな?」
「毒など入っておらんから安心しろ」
「いくつか見たことのあるような物もありますね」
「こやつ、いや、リオンが考案して作った物であるからな」
「ああ、なるほど」
俺を見て納得するアマル様。
魔動船でチョコレートの試食はしてたからね。当然ココアも飲んでいる。
シエラ王女様もそれを聞いて安心したのか、何が良いか選び始めた。
「坊主の奴、しばらく見ない間に色々やってたんだな」
「てっきり王宮が面倒だから、逃げてんじゃねぇかと思ってたぜ」
「そこは間違いじゃねぇ気がするんだが?」
確かに居心地が良くないから逃げていたようなものだ。
豪華絢爛だけど、住むには不自由な場所だったんだよね。そして気付けば魔道具工房に入り浸り、最終的には秘密基地まで作ってしまったのである。
誰かに監視され続ける生活って疲れるんだよ。かと言って監視する側になるのも嫌なんだけどね。
「おいリオン。まさかずっとここに住むつもりじゃないよな?」
「ん~?」
「これが、リオンの望む快適な住居なの?」
「まさかー」
「だって畑まで作ってたし……ねぇ?」
「今までよりレベルアップしてるっすよ?」
「そう?」
だとしてもここは秘密基地であり、アラバマ殿下の研究所だよ? 仮の住まいとして快適にはしてあるけど、ずっと住むわけないじゃんねー?
それをディエゴに伝えて貰うと、何故かみんなほっとしたように胸を撫で下ろした。
屋上部分には俺専用の小部屋があるけどね。入り口も狭い(茶室仕様のにじり口)から、フェネックぐらいしか入れないのだ。
そこで何をしているかって? それは秘密~。




