第157話 選ばれし者
拝啓、アマンダ姉さんお元気ですか?
ギガンやテオ、そしてチェリッシュも元気だと嬉しいです。
俺の方は当然元気だし、ディエゴも相変わらずです。
今は魔晶石の採石場にある屑石置き場で、石拾いをしています。
廃棄される屑石は好きに拾っていいと言われたので、沢山手に入れました。
みんなが働いている間に、こちらで武器に出来そうな素材探しをしているので安心して下さい。
俺は俺で出来ることをやっているので、心配しないでね。
そうそう、先日ディエゴが新しい従魔と契約しました。
白い子ザルです。
アマンダ姉さんも見たら気に入ると思うぐらい可愛い女の子なんだけど、ちょっとやんちゃな子なので立派なレディに教育して欲しいと思っています。
会える日を楽しみにしててね。
それでは忙しいと思うので、取り急ぎ近況報告まで。
リオン
「こんなかんじ?」
「いいんじゃないか?」
手紙なんてものをほとんど書かなくなってしまった現代人の俺だが、内容をディエゴに確認してもらい、ノワルに頼んで届けてもらうことにした。
うっかり連絡を忘れていたことは不問にされないだろうけど、なるべく穏便に怒られるように、みんなの武器を強化する素材を手に入れなければならない。
ディエゴは工房で合金作りに、俺は採石場でパワーストーン拾いに精を出す。
工房の職人さんとアイデアを出し合いながら、便利な魔道具作成にも余念がない俺たちである。
如意棒の派生として、『芭蕉扇』みたいな武器が作れないだろうか? という発想から、如意合金で鉄扇のようなものを作ってみた。
普段はただの扇子だけど、大きさが魔力量によって変化するから、威力も当然持ち主の力量によって変わるんだけどね。
空を飛ぶナベリウス討伐に役に立ったらいいなと思って作ってみただけで、巨大なサーキュレーターみたいなものである。
他にも西遊記に出てくる宝具みたいな面白い―――ではなく、浪漫武器のような魔道具が作れないかチャレンジしている。
作ってみて判ったことだけど、魔道具作りって意外と楽しいね。
だがその浪漫武器をモデルにした魔道具作成に待ったをかけられることとなる。
「貴様のは既に魔道具の域を越えておるぞ!」
「にょいごうきんだからねー」
「他の合金はともかくとして、そのニョイ合金とやらは門外不出にするからな!」
「なんで?」
「表向きの理由は、費用対効果に見合わんからだ」
まぁ確かに、アラバマ殿下の言う通り、今のところディエゴ以外でこの合金の作成に成功した者は居ない。
物凄く繊細な魔力操作が必要なのと(全属性でなければ難しいようだ)、ドワーフの魔道具職人さんでも棒状にするのが精一杯だった。
大量に仕入れたとはいえ、ヒヒイロカネもミスリルも、ブランカのマッチポンプがなければここまで手に入れることはできないだろう。
確かに殿下の言う通り、費用対効果が見合わないかもね。
「だが本当の理由は、他にある! ヒヒイロカネとミスリルの合金加工方法が何故失われた技術なのかよく判ったし、貴様らのようなふざけた連中のせいで失伝したのだろうことも想像に難くないわっ!」
如意合金で作成された浪漫武器を前に、アラバマ殿下がこめかみを押さえながら唸った。
「これらは考えようによっては―――いや、考えなくとも危険な武器や魔道具でしかない。よって封印を命ずる!」
「えー!」
「えー! ではない! 取り上げられないだけ有難いと思えっ!」
『賢明な判断ですね。アラバマ殿下に感謝しましょう』
Siryiまでアラバマ殿下に賛同してしまった。
なのでこれら浪漫武器と言う名の魔道具は、試作段階で殿下によって研究を中断されてしまったのであった。
せっかく農業用魔道具も作ったのにな~。
『その魔道具が一番の問題なのでは?』
八戒の武器である釘鈀をモデルに作った農耕器具のこと?
見た目は単なる鍬なんだけど、土属性の人がこの鍬で地面を掘ると、岩をも砕く威力を発揮する。耕す際に地中に埋まっている邪魔な岩や石が粉砕できればいいなと思ったからこそ作ってみた農耕器具なのだが。
他にも西遊記シリーズとして、沙悟浄の武器からヒントを得た月牙鏟も見た目はただのスコップだ。土を均すのに使用するけど、整地するにはこれまた魔力量に準ずるので、使用者によってはかなりの広範囲になるだろう。
どちらもサヘール緑地化計画の一端を担う魔道具なのだ。
『マスターの作られた魔道具は、農耕器具として正しく使えばよろしいのですが、それ以外の使用方法もございますので』
農業用の魔道具をそれ以外の使い方をするってどうやって?
『包丁も料理をする道具ではありますが、人を刺すこともできる凶器になります』
「…………」
『浪漫武器をモデルにするのはお止めになった方がよろしいかと』
「……うん」
アラバマ殿下からは、魔法使いとアルケミスト、そして魔道具職人が集まるとろくなことがないとお叱りを受けてしまった。
でもせっかく作ったし、勿体ないので全部アラバマ殿下専用にして献上しよう。
魔力を籠めないと扇子(芭蕉扇)とスプーン(月牙鏟)とフォーク(釘鈀)サイズだから、持ち運びにも便利だよ。
「貴様らの作り出すアーティファクトを貰っても使いどころに困るわっ!!」
「しょくじにつかえるよ」
スプーンやフォークは食事の際に使えるし、芭蕉扇は暑さ凌ぎに風を送ればいいだけなので、サイズさえ変えなければ魔道具とは判らない。ただの日用品だ。
しかもアラバマ殿下以外には使えないので、奪われても何ら問題はないし何れ戻ってくる仕様である。
「呪われたアイテムのような機能を付けるな!」
「流石殿下。呪いのアイテムに詳しいようですね」
「そうだね」
「……まさかこれらは呪われておるのか?」
「祝福を与えているようなものなので、呪われてはいない……よな?」
「うん」
飾りに使っているパワーストーンのラピスラズリも、 『成功・真実・健康・幸運』と言う意味を持つので、アラバマ殿下にとっても良いんじゃないかな?
「だそうです。安心して下さい」
「安心できんわっ!」
そんなこんなで俺たちは楽しく魔道具作りに精を出していた。
時折アラバマ殿下にツッコミ(厳しい監視)を入れられつつ、チョコレートを作る魔道具も順調に仕上がっている。
よく考えなくても俺たちってアラバマ殿下の護衛依頼を受けていたんだよな……。
すっかり忘れてたけど。
まぁ、殿下の手掛けている仕事のお手伝いのつもりなので、新しい金属の開発や魔道具作りもそれに含まれると思われ。なので間違ったことはしていないよね?
殿下の護衛役を引き受けなくても良くなった気がする現在。(元々やってない)
アマンダ姉さんたちに時折(一方的に)報告の手紙を送りながら、俺たちは石拾いをしたり、新たな金属の活用法を考えることに専念できるようになっていた。
そんな中。
「ふえてるね」
「誰のせいだ」
砂色の小動物を見かけるようになっていた。
「でんかのせい」
「貴様らの所為でもあろうがっ!」
「えー」
ちょっと目を離した隙に、フェネックがアラバマ殿下の周りに頻繁に現れるようになっていた。
どうやらムスタファが仲間を呼んだらしい。
砂色のフェネックが、アラバマ殿下の足元でうろちょろしているのが可愛いね。
幻獣だからか、姿が消えたり現れたりしているけど。
そしてムスタファっていうのはアラバマ殿下と契約したカーバンクルで、今は殿下の従者のように静かに付き従っていた。
表現がおかしいと思われるだろうけれど、本当に従者みたいになってるんだよね。
額の勇者のようなサークレットがソレを物語っていた。
サークレットと言うより、頭部を覆う布を留める装飾品みたいに見えるけど。
これなら普通に従者として見えるので違和感がない。
カーバンクルは幻獣で擬態能力を持っている。
だから人の形になるのも可能だし、主の望む姿を取ることもあるらしい。
ブランカは子ザルとキングなコングにしかなれないけど、ムスタファは人の姿に変化していた。
そしてかなりのイケゴリである。精悍な顔つきってこういうのを言うのだろう。
砂色のフェネックなので、人型になっていてもサヘール人特有の肌の色なので違和感がない。髪もよくある金色混じりの砂色だしね。
殿下ってこういうタイプが理想だったのかな? 変な意味ではなく、頼もしい護衛兼従者という意味だよ。
「どうしてこうなった……」
それは殿下がそう望んだからだと思うんだけどね~。
だってブランカは子ザルのままだし、キングなコングにしか変化できない。
切っ掛けは俺の想像だけど、ディエゴがそのままでいいと思ったのもある為、姿が変えられなくなったのだ。
ブランカが人の姿へ変化しているムスタファの姿を見て嫉妬したようだけど、ディエゴが「そのままの方が可愛らしいぞ」という言葉一つで納得した。
子ザル姿ですら持て余しているのに、人型になられたら大変だってディエゴですら気付いているのだ。そうはさせないぞ。
「確かに優秀な従者が欲しいと願いはしたが……」
お仕事大変だもんね。殿下の周りにいる人材として、職人さんや従業員さんがいくら優秀でも、その中から引き抜くにしては能力的なものが違う訳で。
だが流石ムスタファ。『選ばれし者』と言う名に相応しく、どことなく気品に満ちた従者としての立ち振る舞いが身に付いていた。
ブランカにお叱りを受けて怯えていた姿は既にない。アラバマ殿下の従魔になったことでかなりの自信が付いたようだ。
そして右に倣えと他のカーバンクルが追従したのだろう。
だがこれってかなり良いことじゃないかな?
新たに人材を確保するには時間がかかるだろうし、面倒だからカーバンクル部隊を作っちゃえば良いのではなかろうか?
こんなにも沢山のカーバンクルが、アラバマ殿下に従魔にして欲しいと姿を現したのだ。群れのリーダーであるムスタファのように、勇気あるカーバンクルたちではないか。そして俺の提案にディエゴも賛同した。
「ニョイ合金はまだあるから大丈夫そうだな」
「そうだね」
「足りなくても、また作ればいいだろう」
「あ、いしはひろってこなくちゃ」
「採掘場の宝の山へ行くか」
「いこういこう」
素材集めに向かわねばと、俺たちは魔晶石の採掘場へ向かうことにした。
「ちょ、ちょっと待てっ! 貴様ら何をするつもりだ!?」
「サークレットが必要なのでは?」
「ざいりょーあつめ」
カーバンクルを従魔にするには、額の紅い宝石を誤魔化すサークレットが必要である。それに気付いたアラバマ殿下は慌てた。
「俺様はまだ従魔にするとは言ってないっ!」
「その内そうなります」
「なります」
周りをうろちょろするフェネックを邪険にしてないんだから、他のカーバンクルを従魔にすることは最早時間の問題である。
それに俺たちは、アラバマ殿下の背後に立っているムスタファが、ひっそりと口角を上げたのも見逃さなかった。
まるで計画通りと言わんばかりの笑みで、優雅にお辞儀までしたのだった。




