第154話 楽しいモノ作り
「あぶなかった……」
「どうやら夢中になり過ぎたようだ……」
合金作成のせいで、危うく全てのヒヒイロカネとミスリルを使い切ってしまうところだった。
しかも本来の目的である魔道具の作成や、ブランカの『緊箍児』を作るということを忘れて、面白道具の如意棒作りに没頭してしまったのである。
こういうのってよくあることだよね。
「しかし、やり遂げましたぞ~」
「これがニョイボーですか……」
朝日が眩しい。楽しい時間は過ぎるのが早いというけれど、時の経つのも忘れてみんなで貫徹してしまったようだ。
「伸び縮みするだけなのに、面白いですな~」
「子供心が擽られますな」
「おもちゃかな?」
工房長が手にした如意棒に魔力を流すとニョキっと伸びた。
思いついた時は武器になるかもと考えていたけれど、どう見てもただの伸縮自在な面白玩具である。
こんなに苦労して作り上げておいてなんだけど。ただ伸び縮みするだけなら釣り竿を作る方が楽なのでは? と、思わずにはいられなかった。
好奇心からやってみた実験だから仕方がないね。
そのお陰で合金加工が難しいのは何度かやって身に染みた。(特にディエゴが)
ちょっとでも配合を間違えると、魔法金属は屑鉄以下の素材に成り下がるということが判明したのだ。
素材そのものを使って加工する方が簡単だから、合金を作ることを止めてその技術が失われていったのも理解できた。
所詮は伸び縮みするだけの合金だからかな?
他の魔法金属同士で合金を作れば、もっと色々な武器が作れそうだけど。それは今やるべきことではないので置いておくとしよう。(やらないとは言ってない)
「合金で作った魔道具は初めてですな~」
「ヒヒイロカネは、ここまで伸縮自在でありましたかね?」
「ミスリルとの合金だからでしょうか?」
「パワーストーンと言う鉱石が決め手では?」
如意棒の『如意』とは、願いが叶うという意味である。
なので伸びろと願えば伸びるし、縮めと願えば小さくもなるのだ。
俺が最後にパワーストーンをはめ込む時に、そうなるよう願いを込めたことで如意棒が完成したのである。そうでなければ自在に伸び縮みはしないんだよね。
魔晶石で試したけど発動しなかったし。決め手はパワーストーンであろう。
同じ合金でブランカの『緊箍児』も作る予定なので、大きさに合わせて変化するのは間違いない。
「ですがこれは、使い手を選ぶ武器ですな」
「我々では伸びろと念じても、倍の長さにしかなりませんしね」
「魔術師や魔法使いではありませんから、こんなものでは?」
「ディエゴさんでしたらどこまで伸びますかな?」
止めといた方が良いよお兄ちゃん。職人さんたちで倍の長さなら、ディエゴなら成層圏まで突き抜けそうだもん。
Siryiの鑑定では、この如意棒は与える魔力量で伸縮性が変わるようになっている。
普通の人ならただの棒だし、ある程度魔力操作に長けた人ならドワーフの職人さん程度の伸び率になる――――ということは、ディエゴが持てばかなりヤバイ。
他の人に持たせても意味はないし、ここは常識人である俺の持ち物にしよう。
それにただの浪漫武器と言う名の玩具だからね。(だが改善の余地もある)
持ち運びに不便なのも困るので麺棒サイズにしたし、俺が持っておくことにした。(料理する時に何かと使えそうだなこれ)
「いや、試すのは止めておこう。取りあえずこの合金で、従魔用のアクセサリーを作りたいのだが……」
「そう言えばそうでしたな~」
「本命はそちらでしたね」
「ですがなぜ伸び縮みが必要なので?」
今更な質問ですが、なんかいい理由を考えて下さいお兄ちゃん!
「ブランカはまだ子供なのだ。大人になるのを見越して、多少大きさが変化する素材で作った方が良いと思ってな……」
苦しいけどナイス言い訳だ!
「なるほど。そうでございましたか~」
「確かにこの子はまだとても小さいですしね」
「何とも贅沢な従魔の証をお作りになられる」
「この赤い宝石もお洒落ですね。どうやってくっつけておるのですか?」
「ウキッ!」
額に触られそうになり、ブランカは警戒するようにディエゴの肩へと駆け登った。
その赤い宝石は着脱可能じゃないので、触らないでください。
「まるでカーバンクルのようですな~」
「……取りあえず、デザインはこういう感じで作りたい」
「ティアラですかな?」
「そのようなものだ。この額の紅い石がお気に入りなので、それを際立たせるような感じにしたい」
「ほうほう、それはそれは、お洒落さんですね」
職人さんたちの興味がブランカに移りそうになったところに、仕事の依頼を無理矢理ねじ込んで気を逸らす。
俺のイメージしたデザインを、ディエゴがサラサラと紙に描いて見せると、皆さんはそちらへ意識が持って行かれた。
「このニョイボーのように、最後にリオンが手を加えたいのだが」
「それは構いませんです」
「リオン君がニョイボーを完成させたようなものですしね~」
「我々ではできなかったことですが、流石はアルケミストですな」
「魔晶石に術式を組み込むのとはまた違った、変わった仕上げをなさいますからな」
「虹色に光るのは、どういった術式なのでしょうかね?」
「それはひみつー」
「でしょうなぁ」
だって虹色に光る理由が、俺にもよく判んないもん。でもこの謎に光るエフェクトで、成功したかどうかが判別できるから便利なんだよな。
だがアルケミストという謎で便利なジョブによって、みんな納得するからそういうことにしておく。
実は如意棒にはめる石選びが最も困難を極めた。(俺的に)
いくつか候補はあっても、しっくりこなかったんだよね。
最終的に潜在能力を引き出すという意味で選んだのが『ラブラドライト』である。
ヒヒイロカネとミスリルの潜在能力をスムーズに引き出してくれと願ったので、上手くいったんじゃないかな? まぁ、割と適当と言うかただの直観だけど。そういう直感が大事なんだよ。
「とりあえずごはんたべよー」
次の作業に取り掛かる前に空腹を満たそうと声をかける。
ご飯を食べて休憩を挟んだら、また作業をしなきゃだからね。
まだ合金は残っているし、ブランカだけじゃなくてシルバやノワルにも新しい首輪や脚輪を作ってあげたいし。
調子に乗って合金を大量に作っちゃったのもあって、他にも何か作れないかみんなで考えるのも楽しい作業である。
チョコレート工場を拡張しているであろうアラバマ殿下にも、お礼として何か便利な道具を作りたい。ボスの立派な角に飾るアクセサリーを作るのもいいかも――――なんて雑談をしつつ食事をとる。
「他の魔法金属同士で合金を作れば、また新たな発見があるかもしれませんな~」
「しかし難しいことは変わりませんがね」
「配合が判っても、魔力操作が難しいです」
「そこはディエゴさんに協力して頂いて……」
徹夜明けのナチュラルハイ状態の為、ちょっとみんなおかしくなっている。
ヒヒイロカネとミスリル以外の魔法金属も大量にあるので、他にも合金を作ろうという話になっているのもそのせいだろう。
でもこういう時が一番楽しいので、様々なアイデアが浮かぶのだ。
「ここはこのようにすれば――――」
「いやいや、ここをこうしたほうが――――」
気が付けば俺とディエゴは魔道具工房に居座って、あれこれとアイデアを出し合いながら様々な魔道具作りをすることになったのだけれど。
実験に使いすぎて魔法金属が不足したこともあり、俺とディエゴは二度ほどダンジョンへ行ったりもして(誰も居ないのでブランカもゴーレムを召喚し放題である)、気がついたら一週間ぐらい過ぎていた。
当然の結果として。暫く留守にすると伝えてはいたものの、その間に連絡を一切しなかったので滅茶苦茶怒られることになる。
おまけにカーバンクルまで従魔にしていたので、怒られると同時に呆れられたのは言うまでもない。




