第152話 やめといたほうがいいよ
カーバンクルはゴーレムを召喚する能力がある、ちょっと変わった幻獣である。
今まで召喚獣として従魔契約をした人間がいなかったので、妖精がボガードに転変した存在として、半ば都市伝説扱いされていた存在だった。
「これは、報告をするべきだろうか……?」
「どこに?」
「冒険者ギルドにだ。いやしかし、正直に情報を提供して良いものかどうか……」
冒険者である召喚士やテイマーは、原則として従魔の報告をしなければならない。ただし決まったルール(法則)ではないので、全ての従魔をテイムする度に報告しなくてもいいんだよね。テイマーや召喚士として登録する際に、一匹でも登録すればそれでいいらしい。そりゃそうか。
ただし主人の元から離れている従魔が魔物と勘違いされて斃されても文句は言えないことになっている。だから俺たちから離れちゃダメだとディエゴがブランカに言い聞かせていた。
一応、主人持ちの従魔である証として、首輪や脚輪が付けられているので、滅多なことでは野良魔物と勘違いされることってないんだけれどね。
「やめといたほうがいいよー」
「……そうだな」
テイマーとはいえ、従魔を連れているからといって冒険者にならなきゃいけない決まりもないわけで。アラバマ殿下や乳製品工場で働く従業員さんも、テイマーでありながら冒険者ではない。
よって面倒臭いから報告は止めようと提案する俺に、ディエゴも一瞬でその面倒臭さを理解して頷いた。
話しの解るお兄ちゃんですな。
「魔塔の連中に興味を持たれてはかなわんからな」
「だよねー」
数ある都市伝説の一つが解明されてしまったことで、騒ぎになることは避けたい。
謎は謎のままの方が浪漫があるし、あーでもないこーでもないと考察してる方が楽しいからね。その楽しさを奪っちゃいけないと俺は思うんだ。
そうしてふと、ディエゴは何か思いついたのか。ブランカに質問をした。
「もしかして、お前は普段猫や犬の姿をしていないか?」
「ウキュ?」
「ケット・シーという妖精と思われるものがいてな。もしかして、普段はそう言った姿をしているのかと思ったのだが……」
「キャキャ」
「そうか。それもまた、幻獣なのか……」
なるほどなと、納得したようにディエゴは頷いた。
ケット・シーってなんだっけ?
『ケット・シーとは、猫の姿をした妖精と考えられておりますが、どうやら幻獣のようですね。同じく犬の姿をしたクー・シーもいるようです。殆どがただの猫や犬のまま人間の傍で暮らしており、正体が判明すると姿を消すようです』
二足歩行で歩いたり、言葉をうっかり喋って人間にバレると姿を消すそうだ。
なので殆どの人たちは、ケット・シーやクー・シーを妖精の一種だと考えていた。
だがブランカによれば、幻獣の一種なんだってさ。
猫や犬の姿をしているのも、人間に飼われることで楽に暮らせるからであり、能力的なものはそれ程でもない。
カーバンクルのようなパワータイプ(?)ではないので、精々言葉が話せたり二足歩行で歩く程度なのだそうだ。しかし人間社会に溶け込むだけに、人間と同程度に知能は高いとされる。
中にオジサンが入ってるんじゃないかって疑われる猫とかも、実はケット・シーなのかもしれないね。たまにいるよね、貫禄のあるおっさんみたいな猫が。
「キャッキャッキャ!」
「そうか、頑張れ」
アタイもいつか、聖獣か妖精になれるように頑張る! と、シルバと俺を指さしてブランカはディエゴに宣言した。
うん? シルバは判るけど、何で俺も?
「ノワルもそろそろ聖獣に進化しそうだしな」
「そうなんだ」
「モウスグ! モウスグ!」
「よかったねー」
その時が来たら何かが変わるのだろうか? よく判んないけど、聖獣に進化したらノワルの好きなジャーキーでお祝いをしようね。
ブランカが召喚したゴーレムをみんな(俺除く)で斃しまくり(どう考えてもマッチポンプ)、ドロップした素材を拾って俺たちはダンジョンから出ることにした。
初仕事としてはりきってブランカが大量にゴーレムを召喚したものだから、俺はダンジョンに素材が吸収される前に拾い集めるのに苦労したよ。
なんでダンジョンにカーバンクルが出没するのかと言えは、召喚したゴーレムから貴金属類がドロップするからなんだと。
他の場所でゴーレムを召喚しても、素材はドロップしないんだってさ。
だから遺跡ダンジョンの主は、実はカーバンクルではないことを知った。
道すがらカーバンクルが居なくなったダンジョンがどうなるのかなと思ってブランカに訊ねてみれば、ここは縄張りの一つなだけで住んでいる訳じゃないそうだ。
それに他のカーバンクル仲間もいるとのこと。
ブランカはここら辺り一帯のボス的存在で、彼女がいると他のカーバンクルは出てこないらしい。彼女の存在に怯えて小さな魔物すら出て来なくなる。
まさにボス猿的存在ということだ。
色が白いのも強さの証というか、自然界で色が白い個体は子供の頃に狙われやすく死にやすい。しかしそれを乗り越えると、最強の存在になる。
他のカーバンクルは緑色や茶色らしいので、ブランカは王者として君臨するだけの強さを持っているということだ。
洞窟やジャングルみたいな場所に生息しているのも、保護色だからなんだって。(普段は小動物や小型の魔獣に変化しているらしい)
コロポックルの森に住む白い悪魔みたく、白い種類の毛を持つ種族じゃない場合、生存率が物凄く低くなる。異色なので仲間に迫害されるからだ。
カーバンクルは変化する能力はあっても、固有の色だけは変えられない。そんな厳しい世界で生き残ったブランカなので、めちゃくちゃ強いのも当然である。
「だがゴーレムを召喚して、他の冒険者に斃させて素材を奪うのは今後禁止だ」
「ウキュ……」
今回は活躍するために自らコングに変化して倒しまくってたけど、普段は人間を襲わせてドロップした素材を掠め盗っていたらしい。
何てアコギなことをやっていたんだコイツは!
だが邪気の払われたブランカは、しおらしく反省してディエゴに謝った。
こういうのもあって、冒険者ギルドにカーバンクルの報告ができないんだよな。
まぁ、今後はディエゴが確り手綱を握っておけばいいだろう。
見た目は可愛い子ザルだからね。まさかコレがコングと化すとは誰も思うまい。
でもちょっと心配だから、パワーストーンの効果が切れても大丈夫なように、保険をかけておかねば。
「ドワーフのこうぼうにいこう」
「ああ、少し早いが、ヒヒイロカネが手に入った報告をしないとな」
少しどころか昨日の今日ですよお兄ちゃん。
「それもあるけどね」
「それ以外に何かあるのか?」
「うん」
仲間になったお祝いに、ブランカにも従魔の証であるアクセサリーを作ってあげようと提案した。
シルバやノワルだって首輪や脚輪があるのだし、当然ブランカにも着けてあげなくてはなるまいて。
「依頼するのか?」
「ううん」
俺が作るよ。いいアイデアがあるんだよね。
それにSiryiからも、一度魔道具的なナニカを作ってみてはどうかと提案されていたことだし、俺も実際に何か作ってみようかと考えていた。
流石に彫金師のような綺麗な細工は無理だけど、ドワーフの職人さんに手伝ってもらえば何とかなるような気がする。
「おんなのこだからねー」
念波でディエゴにデザインを送り、カーバンクルだとバレない装飾品を作るつもりだと伝えた。
「額の紅い石を誤魔化すようなアクセサリーを作るのか……なるほど」
「かわいいいのにしようねー」
「ウッキャ~ッ!」
やったー! と嬉しそうなブランカだけど。
俺が作る予定のブランカ専用アクセサリーって『緊箍児』なんだよな。
ボス猿こと女王様として君臨していたブランカには、きっと似合うと思うよ。
ティアラだって言っとけば喜びそうだし。
ある意味王冠でもあるからね。
だから聖獣になれるよう、願いを込めて俺がブランカに『緊箍児』をプレゼントすることにした。




