第147話 行くしかないらしい
「魔道具を作ることは良いとして、問題は素材集めの方だな」
「おいくらまんえんするの?」
「また貴様はわけの判らん聞き方をするな……」
「素材集めとは?」
俺もディエゴも首を傾げてアラバマ殿下を見た。
魔道具の作成依頼なのに、なぜ素材集めの話をするのだろうか?
「俺様の場合は冒険者ギルドに依頼を出して素材を集めたが、貴様らはそもそも冒険者だろうが。自力で素材を集めろという話だ」
「あ~……あ?」
「部品に使用する素材を、自力で……集めるのか?」
「決まっておろうが。ここをどこだと思っておる。サヘールだぞ。素材集めに打ってつけのダンジョンがあるであろう?」
「……」
「……」
魔道具の作成を依頼して終わりじゃないの?
もしかして、ここでは魔道具を作ってもらうために、自力で素材を集めなきゃならない決まりでもあるの? え? ストックのない素材があるの?
「特殊金属である、ヒヒイロカネが必要ですしな~」
「この部分はミスリルでなければなりませんです」
「どちらもストックがございませんな」
「魔塔の依頼で全て使ってしまいましたので」
「……」
「……」
ヒヒイロカネもミスリルも希少金属である。魔道具に必要な素材であるだけに、需要はあれど供給は少なかった。
「冒険者ギルドに素材集めの依頼を出しても構わんぞ。かなりの高額となるが」
「金額的にはあまり気にしてはないが……」
「そうだね」
「まぁ、目的の素材がいつ手に入るかは判らんがな」
「もしや気長に待てということでしょうか?」
「ヒヒイロカネは時価のような扱いだぞ。期限など設けられん」
「それはこまる」
急いではないけど、時間に余裕があるほどでもない。待つとしてもどれぐらい待てばいいのやら。
「俺様の場合は、目的の素材が全て集まるまでに半年はかかったからな」
それを覚悟しているのなら、依頼しても構わんと言われた。
半年が長いのか短いのかすら判らない。サヘールの滞在がどれだけになるのか判らない俺たちにとって半年は長いけれど。
「ここはサヘールですからね~。他の地より沢山の鉱物や素材の依頼が舞い込んでおりますからな~。冒険者も他の簡単な依頼から熟しますからの~」
なんということでしょう。
のんびりした気風のサヘールでは、冒険者ものんびり依頼を熟すようだ。
せかせかしてなくていいなと思っていたけれど、それはそれで困る事ではあった。
「金額を釣り上げれば、半年が三ヶ月に短縮できるかもしれんが……」
「ヒヒイロカネは特にドロップしませんからな~」
「ミスリルの方がまだドロップし易いです。あくまでもヒヒイロカネよりはですが」
「そのヒヒイロカネが一番必要な素材ですからね」
「ミスリルは魔素を通しやすい性質ですし、ヒヒイロカネは熱伝導率もさることながら、何より錆びませんのでな。どこも常に品薄ですよ」
魔道具が何故お高いのか、何となく判った。
そして大量生産できない理由も。
錆びない金属で思いつくモノとしてステンレスやチタン等色々あるけれど、この世界での最強の錆びない希少金属はヒヒイロカネらしい。おまけに木の葉数枚で茶が湧かせるほどの熱伝導率なのでコスパが良いのだ。
俺の世界でも三種の神器にも使用されているとされ、精錬方法が失われた幻の金属だった。
『マスター、アントネストの海域エリアでドロップした、『懐剣』や『移転鏡』にもヒヒイロカネが使用されておりますよ。魔道具には必須の金属ですね』
そうなの? だとしたら何としてでも手に入れなきゃいけないな。
「オリハルコンでも代用できますが、こちらは硬いので加工が難しいですな~。主に武器の素材ですからの~」
「ヒヒイロカネは軽くて丈夫。しかも柔軟性もあり、細かな細工も出来るので魔道具向きですからね」
「魔力を通すとオリハルコンと同程度の硬さになりますし~。武器を作ることも可能ですが、大変希少性の高い金属ですからの~」
これらの話を聞いて、俺とディエゴは覚悟した。
ダンジョンにアタックするしかないと。
依頼を出して待っていては、魔道具の作成がいつになるか判らない。
「……行くしかないか」
「……そうだね」
「まぁ、確率がアップするアイテムもあるしな」
「そうだね」
普段はダンジョンにアタックしない、ただ眺めているだけの俺だけれど、魔道具作りのために潜らなきゃならないようだ。
そのためには作戦を練らなきゃね。ダンジョンでどんな魔物が出てくるのか判んないのもあるから、まずは事前調査をしなければ。
「では、ヒヒイロカネとミスリルが手に入ってから、本格的に魔道具の作成を致しますな~」
「それまでは他の調理器具でも作って待っておりますです」
「このフリーズドライとやらの魔道具も作るとなると、かなりの量が必要ですから頑張ってくださいな~」
「お待ちしております」
「健闘を祈る」
「祈る」
戦いに挑む勇者のように見送られながら、こうして俺たちは工房を後にした。
「……心配はしておらぬが、貴様は戦えるのか? 俺様も人のことは言えんのだが」
「それねー」
ディエゴだけにアタックさせるという手もあるけど、流石にそれはマズイ。
お互い離れている時に、何かあっては問題しかない。
武器になるような道具ってなんかあったかな?
猟銃もあるにはあるけど、使い勝手が悪いからいらない子だ。
『よく考えて取り出した方がよろしいですよ。マスターの場合、ふざけた思考で取り出すと、ふざけた性能を持ったアイテムになりますので』
それな。
今までは深く考えずに取り出していたのは、電源がなくても動くとか、ちょっと丈夫になっている程度だったし。だが玩具の場合は結構ヤバイ性能になっていた。
道具類をアイテム化させる能力でも、そんなに万能じゃないんだよね。
あったらいいなとか、こんなこと出来たらいいなで取り出す訳にはいかないのだ。
「取りあえず俺様の方はチョコレート工場の拡張を始めるが、ダンジョンの方までは付き合わんぞ」
「判っております。そちらの方は、お任せしてもよろしいでしょうか?」
「うむ。任せておけ」
ドンと胸を叩くアラバマ殿下が何とも頼もしい。
これは俺も頑張らないとね。
あ~でもダンジョンかぁ~。
ドロップ率のしょっぱいアントネストでも、戦闘に加わらなかっただけに不安だ。
あの時は昆虫採集(観察)的な感覚で、テンションがおかしかったのもあって恐怖よりも楽しさが勝っていた。
それに虫よけスプレーがあれば、魔昆虫を回避できてたしね。
しかしサヘールは本格的なダンジョンである。(アントネストも本格的なダンジョンだけど)遺跡ダンジョンだから、見晴らしも良くないだろうし、唐突に魔物がエンカウントしてくるに違いなかった。
「リオンは無理をするなよ?」
「うん」
「ギガンたちが動けるか、一応聞いてみることにするが」
「むずかしいよねー」
あちらはあちらで忙しそうなので、俺たちの趣味の魔道具作りのためにダンジョンに行って素材を取って来て欲しいとは頼めなさそうだ。
「因みにミスリルやヒヒイロカネがドロップする階層は、かなり深く潜らねばならんからな。数日留守にせねばならんぞ?」
「……」
「……」
忘れていたけど、サヘールは普通に階層のあるダンジョンだった。
アントネストが日帰りできるから、そのつもりでいたなんて言えない。
ディエゴも最悪の場合、俺をシルバやノワルに護衛させて、一人でアタックするつもりだったそうなので。数時間程どこかで時間を潰させようと考えていたようだ。
数時間のお留守番が、数日間のお留守番になると流石に拙いと気が付いた。
「まさか日帰りするつもりだったのではあるまいな?」
「……イエ」
「……ソンナコトナイヨ」
「何故カタコトなのだ?」
ディエゴにドロップ率のUPするアイテムを持たせて、俺はシルバとノワルに護られながら留守番を決め込みつつ、素材を取ってこようだなんて考えてないよ。
ホントダヨ。
「最速で階層を踏破する方法を考えよう」
「おねがいします……」
頼りにしてますお兄ちゃん。
もう俺ってマジで戦闘で役に立たないな。
なんかいい道具がないか頭の中を整理しよう。
便利な道具(無駄な道具も多い)は色々あるけど、いざとなったら何も思い付かないんだよな~!
身を守る道具と、武器になる道具って、案外直ぐには考えつかないものである。
日頃から整理整頓を心掛けてないからだろう。
こういう時、呆れながらも良いアイデアを出してくれるアレクサの存在に頼りたくなるな……。
だが奴はいない。それが何だかちょっぴり寂しくなる俺だった。




