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エテルネル ~光あれ  作者: 夜星
第八章 不死の王
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再戦に向けて

 遥か彼方の大地にまで広がる平原の草が、果てしない緑の(じゅう)(たん)のように風にそよいでいる。空は高く()み渡り、白い雲が静かに流れていく。


 ルスタリア東部を広く占めるデュアール平原──。


 その只中(ただなか)を、西へと向かうひとりの少女の姿があった。


 長い赤紫(マゼンタ)色の髪をなびかせて、しなやかな体の背には、燃え立つ力を秘める神秘の長剣を背負っている。

 その剣の魔性に気負い負けせぬほどの決意とともに、(りん)とした気品を(ただよ)わせた少女──ルスタリアの王女ルナ・ユースティ・レミナレスであった。


 草原を抜ける風が少女の耳元でささやくように吹き抜け、何かを告げている。それに応えるように、彼女は一旦(いったん)足を止めた。


 挿絵(By みてみん)


 伏せていた顔をゆっくりと上げ、まだ数十キロ先にある故郷エルシエラを見据(みす)える。


──母上……父上……もうすぐだよ。もうすぐ帰るからね。


 心の言葉は風に溶け、誰にも届くことなく、ただ彼女自身の胸の奥へと()み込んでいく。


 リュネシスたちが〝幻夢城〟にたどり着いてから、四日目の朝が(おとず)れようとしていた。


 ルナが馬を用いず徒歩で進んでいるのは、己の存在を気配の底へと沈めるためである。

 すでに不死王リッチの張り巡らされた(ちょう)(ほう)の網は、空気の隙間すら許さぬほどに()(みつ)であった。


 彼女の肩の後ろに背負っている、見事なまでの黒い長剣──それは、炎の魔女アカーシャから譲り受けた、伝説の聖剣〝炎の剣〟であった。


 魔王リュネシスが手にする〝(らい)(こう)(せい)()〟や、大地の戦士ヴォロスが駆使(くし)する〝大地の剣〟に並び立つ〝四大聖剣〟のひとつと言われ、この世界が創造された原初の炎から、神によって創り出されたとされる最強の剣である。


 だが今、その刃は沈黙している。まるでまだ——戦いの序章すら物語るべき時ではないことを、知っているかのように。




 昨日の夜──。


 アカーシャから『大事な話がある』と告げられ、〝幻夢城〟の地下室に導かれた。


 くらい室内の床には、青白い光を放つ魔法陣が浮かび上がっている。


 その中央に(おごそ)かに置かれていたのは、一本の長剣であった。

 それは、炎を宿す剣でありながら、今はその力を抑えている。


 刀身は黒鉄にも似た深い色をたたえ、光を拒むかのように重く沈黙している。かつて(しゃく)(ねつ)に包まれていたであろう痕跡(こんせき)は、かすかな朱の脈動となって閉じ込められ、触れれば目覚める危険な獣のごとき気配をはらんでいた。


 (つか)にはめ込まれた宝石は、燃え尽きた残り火のように静かにくすぶり、その光は外界ではなく、内なる何かを見つめているようである。装飾のとげは禍々(まがまが)しくも優雅な曲線をえがき、持つ者を選ぶ意思をあらわにしていた。


 剣の正面に(たたず)むアカーシャの表情は、常の妖艶さを脱ぎ捨て厳格そのものだった。


「ルナ」


「は、はい!」


 ただならぬ雰囲気に、少女は背筋をピンと伸ばす。


「あなたに受け取ってほしいものがあるの」


 向けられた眼差しは静かだが、少女に逃げ場を与えない。


「それって……?」


「〝炎の剣〟よ」


 驚いたように問いかけてくるルナに、アカーシャは口元をふっと(ゆる)めて応えた。


「火の精霊界を(しょう)(あく)した者が、その証として手にすることのできる伝説の剣──この剣を、今からあなたに授けます」


 まるで子供に菓子でも分け与えるかのごとく、さりげなく言ってしまう黒衣の魔女に、ルナは思わず声を張り上げた。


「そんな大事な物もらえないよ!もう〝炎の指輪〟だって頂いてるし!!そんな──」


「不死王リッチを倒したいんでしょ?」


 アカーシャは優しい笑みを崩さぬまま、少女の言葉を(さえぎ)った。


「これはね……私が炎の支配者として長年所有していた剣だったけど、(あつか)うことのできなかった代物なの。なぜなら私は魔導士だから……でも、竜族の正統継承者であるあなたにならきっと使いこなせるはず。少し時間がかかったけど、聖剣との契約を私からあなたに更新しておいた。今から最後の儀式を済ませましょう。〝炎の指輪〟も、〝炎の剣〟も、すでに私ではなくあなたを選んでいるのよ」


「……」


 言葉は穏やかだったが、そこには一切の拒絶の余地を与えぬ決意が込められていた。


 アカーシャはルナに歩み寄ると手に白い掌を添えてくる。ひやりとした感触だが、なぜか不思議と温かく感じた。


 少女は、もう何も言い返せなくなっていた。


「リッチの唯一の弱点は炎なの。だから〝炎の剣〟を使いこなせる者ならば、必ず奴を倒せるはず。今のうちに少しでも、この剣の扱いに慣れておくのよ。〝炎の指輪〟とも相性のいいあなたになら──いえ、あなたにしかできないことよ」


 魔族の姫アカーシャの視線を正面から受け止めて、ルスタリア王女ルナの表情もいつしか(はげ)しさを増していった。


「ルスタリアを取り戻すんでしょ?あなたの手で」


「……はい」


「みんなの(かたき)を討つと、誓ったんじゃなかったの?」


「はい!」


 ルナの返事が、溌溂(はつらつ)と大きくなっていく。

 見つめ合うふたりの魔少女の瞳が、同種の紅で、熱く(つよ)く燃え上がっていく。


「だったら迷わず進みなさい!できることを全部やりきるの。これはあなたの剣なのよ」


「はい!ありがとうございます!!」


 その瞬間、アカーシャに対して残っていた複雑な思いすらも燃え尽きる。

 残されたのは彼女に対する深い信頼と、言葉にできぬほどの感謝だけであった。


 儀式を終えると、ルナは授かった剣を大切に抱きながら、深々と頭を下げていた。


 そんな少女に、アカーシャは満足そうに微笑みかける。


「よろしい」


 そして──。


 新たな主を認めたかのように〝炎の剣〟の刀身に、燃えるような熱が(しゅく)(ぜん)と宿る。


 それは剣が、今後この世で起こるであろう(てん)()(めい)(どう)の戦いの予感に震えている熱の()(どう)でもあった。

 かの剣の秘めた大いなる力を、存分に解き放つことに神意が(こた)えた印なのだ。




 現在──。


 背中から射し込む朝の光が、ルナの歩みを照らしていた。


 かつて滅び、しかし今や奪還(だっかん)を待つ王国──その救国の英雄たらんとする若さあふれる王女を、太陽が祝福するように黄金の光で包んでいく。


 これまでの旅の様々な出来事を想起する彼女の足取りは、自信に満ちて軽やかだった。


 だが、それだけではない。

 瞳には赤い原色とは異なる種類の炎が宿り、何者にも屈しない鋼の意志として浮かびあがっている。


 (じょう)(げん)の月の最も輝く今夜──その時こそが竜族の戦士ルナが、持てる力を最大限に発揮できる勝機の瞬間であった。

 少女の()(どう)が、待ちわびた戦いへの期待に〝ドクン、ドクン〟と高まっていく。


 そしてさらには、魔王リュネシスから与えられた風の加護が──水の精霊ディーネから(きょう)(じゅ)された〝陰態〟の秘技が──炎の魔女アカーシャから授けられたばかりの〝炎の剣〟が──それら(いく)()もの、大いなる託された力が、驚異的な成長をとげた少女に、前回の不死王リッチとの敗戦を(くつがえ)すほどの勝利をもたらさんと彼女を支えている。


 だが今は、決戦への渇望(かつぼう)を抑えて、無双の王女は〝炎の剣〟にそっと掌を添えていた……。




 


 まるでお母さん

 挿絵(By みてみん)



 お弁当は忘れないで

 挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
   ルナさんがアカーシャさんから渡される炎の剣。  指輪との相性も良さそうですね。  毎エピソード、美しい文章と描写に憧れます。  あとがきの4コマ漫画も、とても良きでした(๑╹ω╹๑ )  …
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