解放軍VSプラーガ帝国②
あれから10日近くが経過した。
最初はあたしとグラップさん――それにセレンさんだった面子。
それが今では20人近くのダンマスを抱え、違法奴隷だった人たちや貧困層の人たち――更には没落貴族や商人までをも加えて巨大な勢力になった。
「いやはや凄まじい。短期間でこれほどの勢力に成り上がるとは、まるで夢を見ているようですわぃ」
あたし達の後ろに続く大人数を眺めつつ感想を漏らすのは、リップコールのとなり街で解放したセベクお爺さん。
ダンマスとしての経験が豊富なことから、今ではすっかり御意見番みたいな立場になってるんだ。
「いつか貴族に使い潰されて終わるんだと諦めてたけど、まさか自由になれるとか。人生何が起こるか分からないものね」
「ああ、まさかのどんでん返しってやつだ。他のダンマスも同じように思ってるだろう」
前の台詞に同調するのは、同じくダンマスのルナさんとムトーさん。
この人たちもセベクお爺さんと同時に解放した二人だよ。
「でもってグラップ司令、次はいよいよ帝都攻略か?」
「うむ。現皇帝を倒すまでこの戦は終わらんからな。ここまで来るのに幾多の困難が待ち受けていたが、皆もよくついてきてくれた」
そして司令という言葉を染々と噛みしめているグラップさん。武装強化したコボルトのお陰で戦闘は楽勝だったから困難とは違うような気が……。
何せ低コストのコボルトが倒されたところで再度召喚しちゃえばいいし、他のダンマスも各自の魔物で援護してくれるし、極めつけはセレンさんという最大火力だもん。あたし達を止められるのはアイリちゃんくらいだよ。
「よっ、救世主のグラップ!」
「フフ、誉めるな誉めるな、勝利の美酒が甘くなりすぎる。ほろ苦いくらいが丁度いい」
というかムトーさん、あんまり持ち上げると調子に乗っちゃうから程々にお願い……。
「ところでグラップ司令。帝都へ向かう前に寄っておきたい場所があるんじゃが」
「むん? 帝都は北の山を越えればすぐだぞ? 攻略してからでも遅くは――」
「いや、そうではない。皇帝の妹であるエルマイヤ様を救出したいのじゃ」
「……どういう事だ?」
セベクさんの話を詳しく聞くと、東に広がる湖の中心に帝国が築いた監獄があるらしく、その監獄島に政治犯が収容されてるんだとか。
エルマイヤさんもその1人で、現皇帝――つまりお兄さんによって投獄されたんだって。
「このまま皇帝を打倒したところでワシらはテロリスト扱いじゃ。そこで思い付いたのが、新たな皇帝を用意するという方法じゃよ」
「なるほど。エルマイヤ様を担ぎ上げてウチらの生活を保証してもらおうって考えね」
「冴えてるじゃんか、セベクの爺さん」
「まぁ、決めるのはグラップ司令殿じゃがの。どうかね?」
「ふむ……」
提案を受けてしばし考えるグラップさ――いや、こっそりカンペを用意してる。
どうやら考えるフリをしてたらしい。
「あの~、何を書かれておいでで~?」
「だぁぁぁ、ビックリしたぁぁぁ! 驚かさないでくれセレン!」
「驚かせたつもりは~、ないのですが~」
「……コホン、とにかくだ。ここはセベクの案を取り入れ監獄島に向かうことにする!」
カンペをチラ見しているグラップさんにより、エルマイヤさんを救出することになった。
向かう先は湖の中心に浮かぶ監獄で、セベクさんたちを水際で待機させると、あたしとグラップさんが人化を解いたセレンさんに乗り湖を飛び越える。
「あ、そういえばエルマイヤさんってどんな見た目なんだろ? セベクさんに聞いとけばよかったなぁ」
「いや、見た目のことなら大丈夫だ。皇族は全員金髪だというし、兄のラーズヴォルトが15歳だったはずだから妹のエルマイヤはそれより下だろう」
じゃああたしと同じくらいか。それならすぐ分かりそうだね。
シュ――シュシュシュ!
「ぬぉ! 弓矢が飛んできただと!?」
「見てください、収容所の屋上にプラーガ兵がいます」
早くも発見され、多数の矢が放たれてきた。
「セレン!」
「問題ないです~。あの程度の弓矢に~、当たったりはしません~」
その言葉通り、矢を掻い潜り収容所へ急降下する。
矢に当たらず迫るあたし達を見て、兵士たちは大慌てを始めた。
「マズイ、こっちに来るぞーーーっ!」
「今さら逃げようとしても遅い!」
ズダダダダダダダッ!
「ゴハァ!」
「グオッ!?」
「アガガガガ!」
屋上に着地すると、透かさずグラップさんが射撃を開始。
10人ほどいた兵士が瞬く間に倒れていく。
「なななな、何なんだいったい! その妙な武器は何なん――ギェッ!」
「フン、冥土の土産に教えてやる。これはプラーガ帝国に鉄槌を下す神の雷――って、聞いちゃいないか」
叫んだ兵士はすでに穴だらけとなって事切れていた。
「ではでは~、中に入りましょうか~♪」
「うん!」
「うむ」
セレンさんを先頭に中へと降りていく。
すでに侵入されたことに気付いてるようで、あらゆる方面から兵士が駆けつけてきては返り討ちにするという流れが続き、動き回ってるうちに牢獄部屋を発見。
中にいた政治犯の人たちを解放しつつエルマイヤさんの居場所を尋ねてみると……
「「誰も見ていない?」」
「はい。ここに収容されたという噂は耳にしましたが、見た者は1人もおらず……」
政治犯の1人――元宰相のザクフォンさんが代表して答えてくれた。
いや、元宰相さんがこんなところに居るのも驚くけれど、今はエルマイヤさんが重要だから理由を聞くのは後回しで。
「地上の部屋は全て見たはずだが……。もしかしたらここには居ないのかもしれん」
「そうなのかな? だとしたらどこに……」
「でもでも~、最初から誰も見ていないのは~、不自然では~?」
う~ん、確かに不自然かも。
「おお、そういえば!」
「宰相さん?」
「時おり番兵がぼやいてましたが、地下は臭いから近付きたくないとか申しておった記憶が御座いますな」
「「それだ(よ)!」」
何てことはなかった。
目撃されなかったのは直接地下に運び込まれてたからだよ。
「あったぞ、地下に続く階段だ」
管理室を調べたらアッサリと発見。地下に降りると、さっそく腐臭が出迎えてくれた。
こんなところに女の子を閉じ込めるとか絶対に許せない。皇帝に会ったら叩きのめしてやらなきゃ!
「だ、誰? 誰かいるの?」
地下通路の奥から女の子の声。
多分エルマイヤさんだ。
「あ、あなた方は……」
奥の小部屋に着くと、首やら手やらを鎖で繋がれた金髪の女の子が。
歳もあたしと同じくらいだし、エルマイヤさんで間違いなさそう。
「……コホン。我々は――」
「エルマイヤさんだよね? 今すぐ出してあげるよ!」
ターーーン!
グラップさんが何か言ってる間に鉄格子の鍵を拳銃で破壊。中に入ると鎖も壊してエルマイヤさんを助け起こした。
「あ、あの~、どなたかは存じませんが、助けていただきありがとう御座います」
「うん、いいんだよ、あたしが助けたいって思ったから助けたんだし。あ、あたしはミラクル。一応確認するけどエルマイヤさんで間違いないよね?」
「え、ええ。確かにわたくしがエルマイヤですが――」
「よし。本人確認完了。じゃあ早いとこ脱出しよ!」
「おいおい、待て待て待て。唐突すぎてエルマイヤ殿が混乱しているじゃないか」
グラップさんの指摘で気付いた。
あたし達が何者か分からないし、その辺を説明しなきゃだよね。
「……コホン。我々は不当に捕らわれたダンジョンマスターを解放すべく行動を起こしたダンマス解放軍である。現皇帝の蛮行は誠に許しがたく大変目に余る。そこで我々が考えたのはエルマイヤ殿、貴女に皇帝の座についてもらい、ダンマスの人権を保証していただきちゃい――んん……いただきたいのだ」
カッコいい台詞だったのに最後の最後で噛んじゃったね。
「私からもお願い致します、エルマイヤ様」
「ザ、ザクフォン! 貴方までここに収容されていたなんて……」
「お恥ずかしい話ではありますが、ダンマス狩りを止めるよう提言したところラーズヴォルト様のご不興を買ってしまいましてな。生きているだけありがたい事ではありますが」
宰相さんはダンマス狩りに反対だったんだ。
よし、エルマイヤさんを皇帝にしてザクフォンさんにも宰相に戻ってもらおう。
「分かりました。兄であるラーズヴォルトを討ち、新たな秩序を定めましょう――と言いたいところですが……」
「エ、エルマイヤさん?」
「この奴隷の首輪はラーズヴォルト自ら掛けたもの。これが有る限り監獄島からは出られません……」
ラーズヴォルトって悪い奴に監獄島から出るなって命じられてるんだって。
もし命令を無視したらペナルティが発生するし、強引に連れ出すわけにもいかない。
「大丈夫ですよ~、えい~♪」
パキン!
「「「……え?」」」
セレンさん以外の全員がハモる。
だって奴隷の首輪に触れたと思ったら壊しちゃったんだもの。
「ペナルティで発生した魔力を~、逆流させて壊したんです~。アイリちゃんと似たような感じですね~♪」
そういえばアイリちゃんも壊せるっけ。
奴隷の首輪って案外脆いんだね。
※緊急補足。そんな事はありません。
「もう大丈夫だよエルマイヤさん。頑張って皇帝になろうよ!」
「はい! よろしくお願い致します」
覚悟してよラーズヴォルト。
絶対に皇帝の座から引きずりおろしてやるんだから!




