挑まれしダンジョンバトル
「――という訳で、現在の魔女の森にはあたしを含む6人のダンジョンマスターがいるんだよ~!」
紅茶が注がれたカップを片手に、楽しそうに語るミラクル。
シフォンケーキにかぶりつくエレインを横目に耳を傾けると、他5人のダンマスとは親しいんだとか。平和で良いことだわ。
「北東のマリオーネさんに、東の幻王さん。南のムムちゃんに、南西の聖徳さん。最後に北西のレミットさんの5人が、あたしのお友達だよ!」
レミット? そういえば昨日の夜に挙動不審なところを目撃したわね?
「ねぇミラクル、レミットに通信入れてもらっていい?」
「レミットさんに? 構わないけれど、どうかしたの?」
「ちょっと確認したい事があるのよ。情報収集も兼ねてね」
「うん、分かった!」
あっさり応じたミラクルがコアに触れ、待つこと1分。
上部のモニターに、銀髪セミロングの少女が映し出された。
昨日見た挙動不審の少女で間違いない。
『昨日ぶりだねレミットさん』
『そそ、そうね。……き、今日も元気そうで何よりですわ』
『昨日も思ったけれど、どうしてそんなにカミカミなの? いつものレミットさんならクールにキメてくれるのに……』
『そ、そうだったかしら……』
ミラクルから目を逸らし、髪を指でクルクルと巻いている。
……やっぱり怪しい。後ろめたい何かがあるとしか思えない。
『あ、そうだ、新しいお友達を紹介するね』
『お友達――ですか?』
『うん。昨日知り合ったばかりだけれど、とっても頼りになる女の子なんだぁ。ね、アイリちゃん?』
ミラクルにモニターの前へと押し出され、レミットと視線が合わさる。
どこか値踏みするような視線を受けつつ自己紹介を済ませることに。
『初めまして。訳あってアイリーンに居候しているアイリという者よ』
『……ダンジョンマスターのレミットと申します。種族は魔族で、身体能力はミラクルよりも遥か上だと自負しておりますわ。貴女は何を得意としておりますの?』
ふ~ん? これはマウント取る気満々ってとこかな?
鑑定スキルを使用した結果、レミットよりも私の方が遥かに強かったわ。はい残念って感じね~。
『直接の戦闘も得意だし魔法も得意よ。けど何よりダンジョンマスターだし、ダンジョンバトルなんかは負ける気がしないわね』
『ほぅ、ダンジョンバトルですか……』
顎に手を添えて考える素振りを見せてきた。
多分だけど、素知らぬ私に挑んで勝てるかを考えてるんだわ。マウントを取りたがってるし、私が得意とする分野で打ち負かそうって思ってるのね。
『フフ、ならばわたくしと勝負なさいませんこと? お得意でしたら断ったりはしませんわよねぇ?』
『望むところよ――と言いたいとこだけど、訳あってダンジョンを持ってないのよ』
『……ダンマスなのにダンジョンがないと? ……プッ♪』
あ、コイツ笑いやがったわね!?
『……とにかく、自分のダンジョンがないからミラクルのダンジョンを借りる事でバトルできるけど、それでもいい?』
『それで構いませんわ。わたくしの実力をお見せ致しましょう』
セミロングの銀髪をファサッと靡かせ、人差し指をこちらに突き付けてきた。
最近はダンジョンバトルもご無沙汰だったし、少しは楽しめるかな?
『自信アリアリね。なら対決は明日の朝にしましょ。――あ、ついでの提案だけど、勝った方が何でも一つ命令できるってのはどう?』
『よろしいんですの? ではそうしましょうか。後程バトルの申請を出しますので、お受けくださいませ。フフ、何を命令するか今のうちに考えておきますわ』
もはや勝った気でいるレミットがホクホク顔で通信を切った。
当然負けるつもりは毛頭ない。むしろ徹底的に思い知らせてやるつもりよ。
「あの~、あたしのダンジョンでバトルを?」
「いいじゃない。どうせ罠や魔物を増強しなきゃいけないし、DPが必要なら調達するまでよ」
「調達――と言っても日々の食費だけでも精一杯で、調達なんてとても……」
これまで貧しい生活を送っていたミラクルは、ダンジョンの外で野草や木の実を採取して凌いでいたんでしょうね。
でも私が来たからにはそんな生活ともおさらばよ。
「ダンジョン運営は軌道に乗るまで大変だけど、乗せてしまえばどうにでもなるわ。まずは外で魔物狩りと行きましょうか」
「で、でも、魔女の森にいる魔物を倒しちゃったら、外部からの守りが手薄に……」
「なら遠くから狩ってきましょ。――エレイン、ダンジョン通信を使わせもらうわね」
「モゴモゴ(理解です)」
いまだにスイーツを頬張っているエレインは置いといて、ダンジョン通信を立ち上げる。
「さ~て、どこかに魔物関連の集いがあればっと…………あ、コレなんか良さそう」
見つけたのは【強い魔物の目撃情報】という集いよ。ここなら有力な情報が集まりそうね。
ちなみに集いっていうのは、地球でいう掲示板のスレッドと同じよ。ダンジョン通信が掲示板そのものだと思っていいわ。
ここは強い魔物の目撃情報を交換する集いです。ただ雑談したい奴や眷族を自慢したい奴は他に行ってどうぞ。真面目に話したいダンマスは、テンプレをよく読んでから発言するよう願います。
タツヤ「――って感じでさ、マジ強かったんだって!」
ルーシア「へ~ぇ、オークの突然変異かもね」
冷血「かもなぁ」
タツヤ「鉄製の棒を振り回してくるから接近戦は無謀だな。かといって離れると大音量のヘタクソな歌を垂れ流すから、耳は絶対に塞いどけ。あと一定数ダメージを与えれば「いてぇよ母ちゃ~ん!」とか言って逃げ出すのも特徴らしい」
ルーシア「なるほどね。私も機会があれば、その【タケシ】っていうユニークモンスターに遭遇してみたいわ」
ユニークモンスター? スッゴい気になるけど、今はこっちが優先ね。
アイリ「流れを切っちゃってゴメン。魔女の森以外で、これは強い! って感じの魔物はどっかにいない?」
タツヤ「お、見かけない名前だけど新人さんかな? 魔女の森以外でってなると、バジュラ山の中腹で目撃されたシャドウムーンベアが有力だろうな」
シャドウムーンベアか。Aランクだし、強さ的には問題ないわ。
冷血「それもいいが、グロスエレム砂漠で目撃されたデザートイーグルも捨てがたい」
デザートイーグルはBランクのハゲ鷲ね。これも中々の獲物ね。
ルーシア「じゃあ私も。バジュラ山の頂上で目撃されたブラストドラゴンが、知る限りは最強かな?」
きたわねドラゴン系。ブラストドラゴンはSランクだから、相当な糧となるわ。
アイリ「皆さんありがとう。さっそく行ってみるわ!」
タツヤ「え、行くって――あ~通信切れちまった」
冷血「知的好奇心で見に行ったのか……」
ルーシア「あの様子だと、行く気満々みたいに見えたけど」
タツヤ「貴重な新人が……」
冷血「それは仕方ない。いつの時代も弱肉強食だ。強敵を垣間見て強さを知り、打ちのめされて弱さを知るんだ。結果死んでも自己責任でしかない」
ルーシア「そうね。可哀想だけど、私たちがしてあげる事は何もないわ」
情報収集完了。さっそく狩に出掛けよう。
「ミラクルはどうする? 付いてくる?」
「行ってもいいの? それなら戦ってるところを見てみたい!」
「じゃあ留守番はエレインに任せましょ」
「フゴフゴフゴ(夜までには帰ってきてくださいね)」
★★★★★
「アレがデザートイーグル……」
人化を解いたホークの背に乗って、やって来たのはグロスエレム砂漠。
見上げれば餌を探しているデザートイーグルが旋回していて、岩影にいるミラクルが怯えながら眺めていた。
ちなみにここって、5000年前は大国があったんだけどねぇ……。
「アイリはん、まさかワイに突撃させようと思ってはるん?」
「まっさか。別の眷族を召喚して――いや、突撃させるのも面白いかな?」
「断固反対やで! 同ランクやし、下手したら相討ちやんけ!」
冗談はさておき、こちらの手札はちゃんと決めてある。
「出番よ――レイク!」
シューーーン!
召喚したのはファイアドレイクのレイク。全長10メートル以上はある巨体ドラゴンよ。
「ンゴ~~~~~~!」
「起きなさーーーーーーい!」
っとにもう、寝るのが好きなのは結構だけど、召喚先でも寝てるとか……。
「キィェェェェェェ!」
無防備に腹を出してるレイク目掛けてデザートイーグルが急降下してきた。
ブスッ!
「ンゴォォオ!?」
クチバシが腹に刺さり、思わず飛び起きるレイク。
寝てないで応戦しなさいっての。
「よ……よくもオラの睡眠さ邪魔してくれただな!? 丸焼きにしてやるべ!」
ゴォォォォォォ!
「ギェェェッ!」
辛うじて直撃は免れ半分が丸焦げに。これならいけるかな?
「エレクトバインド!」
「ギェギェッ!?」
よし、弱ってたから上手く拘束できたわ。
「す、凄い! もう終わったんだ!」
「ええ。次の場所に行くわよ」
「ええっ!?」
勝利の余韻に浸っていたミラクルの手を引き、ホークの背に飛び乗った。次に向かったのはバジュラ山の中腹よ。
今度の相手はAランクだし、レイクは送還して別の眷族を召喚したわ。
「……ミリーの出番?」
「ええ。生け捕りにしたいから、半殺しでお願いね」
「……イェス、マスター」
召喚したのはミスリルゴーレムのミリー。
人化した姿は銀髪幼女ながらも、その中身はSランクのゴーレムよ。
「な、なにこの子、スッゴく可愛い♪」
「……ミリーです。お菓子をくれたらとても喜びます」
「あ、ゴメン……。あたしのダンジョンは貧相なもので、お菓子を用意してる余裕は……」
「な……なん……だと?」
「はいはい。お菓子は私が用意するから、ちゃんと働きなさい」
「イヤッフゥ♪ さっすがマスター、頼りになるぅ!」
バッ!
「……え? こ、こんな高いところから飛び降りた!?」
「大丈夫よ。物理能力の高いゴーレムだから、多少の高さなら問題ないわ」
ドゴン!
『マスター、下半身が潰れたけど生け捕りには成功した』
飛び降りたと思ったら透かさず念話が届いた。
もう終わったんだ……。
「よし、シャドウムーンベアも捕まえたし、最後は山頂を目指すわよ」
中腹に着地すると、ミリーと重体のクマを回収した。後はブラストドラゴンを捕らえるだけよ。
「ほぇ~、ミリーちゃんて強いんだねぇ」
「イェス。そこらの雑魚には負けない。だからお菓子ちょうだい」
「いや、さっきも言ったけど――」
「ほらほら、喋ってないで注意して。あそこに飛んでるのが見えるでしょ?」
「あそこ――って、あの竜!?」
山頂付近に到着すると、我が物顔で飛び回る赤黒い竜の姿が。
その姿に恐怖したミラクルが近くの樹木に身を寄せ、そっと顔を覗かせる。
「ああああんなのと戦うの? ホントに? マジで言ってる!?」
「別にミラクルに戦わせたりしないから安心しなさい。ここはミリーが――」
とは言え、ブレスを吐かれると同ランクのミリーには厳しい。
ならばと新たな眷族を召喚することに。
シューーーン!
召喚したのはオリハルコンゴーレムのルー。
見た目が金髪幼女な彼女は、SSランクのゴーレムよ。
「……ミリーより強いルーの登場。あの竜がターゲットでオケ?」
「そうよ。ルーがメインでミリーはサポートをよろしくね」
「「イェス、マスター」」
作戦開始と同時にゴーレム姉妹がホークの背に飛び乗る。勢いよく舞い上がったところで、ブラストドラゴンに発見された。
「Gyaaaaaa!!」
「ヒィッ!?」
耳を裂くような咆哮を放ち、威嚇してくる巨大ドラゴン。
堪らずホークは距離を取り、ゴーレム姉妹に促した。
「ルー、ミリー、お兄ちゃんチビりそうやさかい、はよぅ退治してや!」
「じゃあウィンドスマッシュを要求する」
「後はミリー達に任せればオケ」
「分かったで!」
ゴーレム姉妹がジャンプしたのを確認したホークは、落下に合わせてウィンドスマッシュを放つ。
この風魔法は対象を勢いよく吹っ飛ばす、殺傷能力の弱い魔法よ。
バスン!!
「あの夕日に向かって――」
「突撃~~~」
奇しくも夕日とは関係ない方向に吹っ飛ぶゴーレム姉妹。
その先にいるのは、件のドラゴン。
ドゴォォォォォォン!
「Gyaoooooo!?」
さすがはゴーレムと言うべきか、ドラゴンの硬い皮膚に大穴を開けて明後日の方向に飛んでいく。
面倒だけど、後で回収しに行かなきゃ。
それよりブラストドラゴンが死なないように保護しないとね。
「あ、あんな強そうなドラゴンを簡単に……」
「完全物理のゴーレムだからね」
後はダンジョンでトドメを刺せば、大量のDPが手に入るはずよ。
いくら入るか楽しみね。




