消えた後ろ楯
昼下がりのアイリーンにて、私とミラクル、そしてエレインの3人で紅茶とスイーツを堪能していると、無造作に転がしていた黒装束の男が目を覚ました。
「……ん……ここは?」
「おや、ようやくお目覚めですか。愚かな構成員」
「っ! 誰だきさ――グッ!?」
「あまり激しく動かない事をおすすめします。アイリ様の拘束魔法は強力ですので」
意識を取り戻したのは、アイリーンに刺客を差し向ける真似をしたカゲマルという男。
但し全身をエレクトバインドで拘束してるため、無理に動くと手足がチョン切れるけどね。
「一応説明しといてあげるわ。ここは魔女の森にあるダンジョン――アイリーンよ」
「アイリーン――だと?」
「そ。アンタが必死こいてダンジョンコアを狙っていた、あのアイリーンよ」
「っ!」
当然身に覚えがあったらしく、ハッとなった表情を見せる。
そんなカゲマルに対し、さっそく尋問開始といきましょうか。
「ではわたくしエレインが尋問を行います。さっそくですがハゲマル「カゲマルだ」――おっと失礼。ではカゲマル、アイリーンを狙った理由を聞かせていただきましょうか」
「フン……」
おっと、これまた強気な態度だこと。
今の自分の立場を理解していないとは、この先長生きできないでしょうね。下手したら今日この場で終わってしまうくらいには。
「ご自分の立場を理解していないようですが、ハゲマル、貴方「カゲマルだ!」――っと失礼。貴方の命は我々が握っているのですよ? 大人しく話した方が身のためだと思いますがね」
「フッ、理解していないのは貴様らの方だ。この俺を拘束して、ただで済むとは思わないことだな」
「理由を伺っても?」
「俺が所属している組織はちょいと有名なのさ。もちろん悪い意味でな。貴様らのような弱小ダンマスじゃあ逆立ちしても敵わんだろう。せいぜい震えて眠るがいい」
あのヘルハウンドとやらは有名だったらしい。もう消滅したから過去形だけども。
「ほぇ~、あの人たちって有名だったんですね。あたしったら世間に疎いもので……」
「そうだぞ? 事実ゴールドキャニオンからも危険視されるほどだ。国1つを大きく揺るがすと言っても過言ではあるまい。もしも許しを請うのであれば、口添えくらいはしてやってもいいが?」
それは100%無理ね。
「存在しない組織にどうやって口添えするっていうのよ?」
「フッ、どうやら本当に知らんのだな。有名と言っても一般人が知るわけではない。貴族や王族しか――」
「ゴールドキャニオン、フランツの街にある西スラム。その地下水路をたどった先を拠点としている」
「な!?」
ハゲマル――じゃなかった、余裕面だったカゲマルが驚愕した顔に変化させた。
まさか拠点の場所を当てられるとは思わなかったんでしょうね。
実際ダンジョン通信でも街を割り出すまでしかできなかったし、それなりに情報統制を行ってたんだと思うわ。
「貴様、なぜ知っている!?」
「現地のチンピラに聞いたのよ。そうしたら喜んで情報をくれたわ」
「チッ、役立たずどもが……」
少しばかり無理矢理だったけれどね。
「まぁそう言わないであげて。ソイツらはすでに死んでるから」
「……何?」
「始末したって言ったのよ。ヘルハウンドの連中もまとめてね」
「フン、戯言を……」
「そう思う? なら証拠を見せてあげるわ――エレイン」
「了解しました」
コアルームに招きたくはないんだけど、コイツらを見せないと信じないだろうしね。
「ご紹介します。本日から当ダンジョンにて勤める事となりました、元ヘルハウンドの皆さんです」
「「「ウヴゥゥゥ……」」」
呼び出したのは、ヘルハウンドのギルマスと幹部9人よ。
但し、少々顔色が悪くなってるけれどね。
「フン、ただのゾンビ――ん? コイツらの格好……ま、まさかっ!?」
さすがに同じデザインの黒装束には見覚えがあったらしい。
「気付いた? せっかく拠点に乗り込んだのにアンタ居なかったんだもの。しかもね、知られたからには生かして帰さないとか言い出すものだから、徹底的に潰しちゃった」
「ぬ……ぐぅ……」
ぐうの音も出ないって顔をして――いや、正確にはぐぅって言った気もするけれど、とにかくそういう表情を作り、視線を床に落とした。
「後ろ楯が無くなった気分はどう? いや、アンタの気分はどうでもいいか。それより話してちょうだい、アイリーンを潰そうとしたヤツは誰なのかを」
ヘルハウンド壊滅が致命的だったのか、観念したカゲマルは重々しく口を開いた。
「……誰――という単純な相手ではない。アイリーンを――魔女の森を支配したがっている国が1つだけだと思っているのか? ――フッ、だったら大きな間違いだ。魔女の森を征して戦況を有利に進めようとする国はそこらじゅうにある」
なるほど。他者に出し抜かれる前にと先走った国が、先日召喚されたあの国なんだ。
国の名前すら知らないしどうでもいいけど。
「だが強いて言えば、火付け役とも言えるダンジョンマスターが黒幕と言えなくもない」
「それは誰?」
「……名前までは知らん。ただ、マイルドホークを眷族にしている恐ろしい奴だと言えるのは確かだ」
マイルドホーク? でもそれってCランクの魔物であって大した――あ~そうか、コイツらからしたら、Cランクでも脅威なんだ。
ちなみに私の眷族であるホークは、Bランクのワイルドホークよ。
「知ってる事は全て話した。煮るなり焼くなり好きにするがいい。但し、俺を消す事により不利益を被る奴らがどう動くかまでは知らん。せいぜい覚悟する事だな」
よく考えればコイツは情報屋をやっていて、いろんな奴らが接触してくるのよね? そう考えればここで消すには惜しい奴だと言えなくもないか。
「どうするミラクル?」
「へ? どうするって……今さら逃がすのは危険なんじゃ……」
「そうじゃなくて、コイツを使役するって方法もあるのよ」
「な!?」「ええっ!?」
ミラクルとカゲマルがまさかという顔を見せる。
反面エレインは意図を理解したらしく、納得の表情を見せていた。
「マスター、実に画期的な方法だと思われます。我々の現状を省みれば、情報戦略に乏しいのは明らか。で、あるならば、地上の情報をできるだけ多く集めるのは、戦略上優位に立てるのは言うまでもありません」
「な、なるほど」
エレインにまくし立てられて若干の混乱が見られるものの、一応はミラクルも理解できたらしい。
「じゃあ使役するって事でいいわね?」
「はい、お願いします!」
お願いするのはカゲマルだけどね。
「そういう事だからカゲマル、これからはアイリーンの手先として頑張ってちょうだい」
「……本気で言ってるのか?」
「もちろんよ。冒険者に続いて傭兵団まで送り込んできた手並みは見事としか言いようがないわ。それにミラクルがどこぞの国に捕まったのも、アンタが関わってるんでしょ?」
今だから分かる。ミラクルが外に出たのも何らかの誘導があったんだと。
「そこに気付いたか……。まぁその通りだが、本当にいいんだな? 一度はお前たちを陥れようとしたのだぞ?」
「あたしは大丈夫だよ? 細かい事は気にしないし。エレインもいいよね?」
「もちろんです。優秀な人材は貴重ですので、是非ともその能力を我々のために生かしていただきたいところですね」
「じゃあ決まりね」
カゲマルに拒否権はないしね。
表向きは今まで通りに情報屋をやってもらい、裏ではこちらの都合通りの情報を流してもらう事になるわ。
「あ、一応監視はつけるからね? もしも裏切ったら――」
「言わずとも分かる。ヘルハウンドを壊滅させたくらいだ、俺を消すなんぞ造作もない事だろう」
「分かってるならいいわ」
さて、監視兼補佐として、自慢の眷族を召喚しよう。
シューーーン!
「お……おお? まさか俺の出番ッスか!?」
「ここが5000年後の世界……」
召喚したのはクロとギン。
今は人化してて一般人にしか見えないけれど、クロはブラックカオスウルフというCランクの魔物で、ギンはシルバーウルフという同じくCランクの魔物よ。
「2人とも、このカゲマルって男の監視をお願いするわ。詳しくは念話で伝えるから」
「了解」「了解ッス」
眷族2人とカゲマルを送り出すと、紅茶を口にし一息つく。
ティータイムが終わったら、周辺国とダンマスの動向を探ろう。
ガタッ!
「た、大変です、アイリ様!」
「エレイン!?」
向かいに座っていたエレインが、血相を変えて立ち上がった。
「ス、ス、ス――」
「す?」
「スイーツが切らしてしまいました!」
そんな事で大声を上げないでほしい。
だいたい遠慮なくガッツいてれば、無くなるのは当然でしょ。
「ねぇエレイン、あたしの分のアーモンドエクレアも、いつの間にか消えてるんだけど?」
「マスター、そんなものはとっくの昔に消費しております。今はわたくしのスイーツが無い事が重要なのです!」
「……え? と、とっくにって――え?」
「とにかく、マスターも一緒に犬の真似でも何でもして、アイリ様へお願いしてください!」
誰に似たのか見当はつくけれど、密かにミラクルの分まで横取りするとは、凄まじい執念だわ……。
「一番エレイン、トイプードルやります! キャンキャン♪」
いや、可愛いけど犬種関係ないじゃん……。
そもそもイグリーシアにトイプードルがいるのかという。
「ほら、マスターも早く!」
「に、二番ミラクル、雑種犬やりま――」
「雑種ではダメです! 由緒正しき血統にしてください!」
「ええっ!?」
だから犬種は関係ないって……。
「はいはい、ちゃんと用意してあげるから、犬の真似はやめなさい」
「ご厚意ありがとう御座います。次はマルチーズに挑戦させていただきますので、是非ともご期待ください」
「やらんでいい!」
……ったくもう、まるでアイカ2号ね。




