ダンマスの解放
時はミラクルとセレンが到着する数時間前まで遡る。
リップコールの街ではいつもと変わらぬ昼下がりを向かえた――かに見えたが、この日だけは違った。
その理由はただ一つ。そこらのダンマスとは比べ物にならないほど強いアイリが、すっかりお供と化したセリーヌを連れて現れた事だ。
「おお! まだ若いのにAランクの冒険者なのか!?」
私のギルドカードを見た門番が驚きの声をあげ、背後に並ぶ入場待ちの人たちまでがザワつき始める。
「そんなに珍しいですか?」
「もちろんだとも! Aランクと言えば、年期が入ったオッサン連中と相場は決まってるんだ。お前を見たところで誰もAランクとは思うまい」
そりゃオッサン扱いは御免だし、ランクは気にしてほしくはないかな。
「ププ! オッサンの中に一人だけアイリが混ざってるのを想像し――おぅえ!」
「下らない事を想像しないように」
「ぢょ、わがっだがらグビがじまるぅぅぅ」
……ったく。セリーヌはロクなこと言わないわねぇ。
「よし、続いてダンマス検査だ。この水晶に触れてくれ」
「……何これ?」
「ダンジョンマスターかどうかを調べるアイテムだ。ダンマスがこいつに触れるとな、激しい光を放つんだと。俺は見たことないから本当かどうかは知らんがな」
門番が持ち出してきたのは、ボーリング玉サイズの白い水晶。
これに触れなきゃ通れないらしい。
「そもそも何だってダンジョンマスターを調べてるんです?」
「ん? なんだ、知らんのか。今プラーガ帝国じゃダンマス狩りが流行っててな、生け捕りにしてから使役するってのが貴族のトレンドなのさ。ま、こんなところにダンマスが彷徨いてるとは思わんが」
……腹立たしい――実に腹立たしい。
これじゃまるでダンマスが珍獣扱いじゃない。
ここは一つダンマス代表して、ガツンと知らしめてやらなきゃ。
「ね、ねぇ、どうするアイリ? 触ったらバレちゃうよ?」
「大丈夫よ。まぁ見てなさい」
耳元で囁くセリーヌを安心させ、ソッと水晶に――と、その前に……
「あの~、一つ聞きたいんですが、兵士の皆さんもダンマスは使役する対象だと思ってたりします?」
「そりゃそうさ。より優秀なダンマスを手元に置くのが貴族のステータスだからな。最近だと豪商も抱えてやがるし、噂じゃダンマスに戦わせてる傭兵団もいるんだとよ。俺も一人くらい欲しいぜ」
門番と同意見らしく、後ろに並んでる連中もウンウンと頷く。
どうやら国ごと腐ってるらしい。
「そうですか。大変参考になりました」
フィキーーーン!
「え……す、水晶……え?」
どうやら効果は本物らしく、私が水晶に触れると激しい光りを放ち出した。
初めて見た門番は口をポカンと開けて間抜け面を晒し、後ろの連中はザワザワと騒ぎ始める。
「良かったわね、初めてお目にかかれて。記念にプレゼントを受け取ってちょうだい――フレイムキャノン!」
ドゴォォォォォォン!
「うおっ!?」
挨拶代わりに門の横っちょの防壁を破壊してやった。
「ななな、なんだコイツ! 化け物か!?」
「間違いなく化け物だぁ! ダンジョンマスターが化けて出たぞぉぉぉ!」
「ひぃぃぃ、お助けをーーーっ!」
あらら。せっかくノーチェックで出入りできるようにしてあげたのに、後ろの連中は散り散りになって逃げちゃったわ。
グィッ!
「ヒッ!?」
「アンタ、いろいろと知ってそうだから答えなさい。この街に捕えたダンマスはいる?」
「そそそ、それなら領主が一人飼っているはずだ。見世物小屋で魔物ショーをやらせたりしてるのを見たぜ」
ダンマスを飼っている――ねぇ。
しかも見世物小屋とか、これは領主も血祭りにあげる必要がある。
「……で、そのふざけた領主はどこにいるわけ?」
「そ、それなら街の中央に陣取ってるデカい建物が領主の邸だ。けど今は帝都に詰めてるはずだから、代官しか居な――」
「分かった、もういいわ」
ドゴォ――――ズダン!
「グェ……」
門番を殴り付けると防壁へとめり込み、白目を向いて気絶した。
「情報提供を考慮して、このくらいで許してあげる。生きてるだけ感謝しなさい」
但し、目が覚めたら街が変わり果ててるだろうけどね。
「敵はっけ~ん! アイリ、正面の中央通りから兵士が押し寄せてくるよ」
「まとめて焼き払うから、セリーヌはそのまま上空で待機」
「ラジャ~♪」
じゃあ改めて街の皆さんにご挨拶しときましょ。
「スプラッシュファイヤーボール!」
ドドドドドドォォォ!
「「ぐわぁぁぁ!」」」
「気を付けろ、魔法士がいやがる!」
「ダメだ、半数が殺られた!」
「それどころじゃねぇ! 建物が倒壊する!」
兵士に続き、火球を撃ち込んだ建物が次々と倒れていく。
もはや戦闘どころじゃなくなり、逃げ惑う住民と兵士、加えて倒れた家屋に道を塞がれ、辺りは大パニックとなった。
「うっわ~、相変わらず容赦ないわ……」
「仕方ないじゃない。悪いのはこの国の連中なんだし」
「頑固な人って大抵そう言うよね……」
「頑固で結構。ほら、代官のいる邸に行きましょ」
ダンマスにも善人悪人はいる。
けれど全てを奴隷として見世物にされちゃ、私だって黙ってはいられない。
「アレが領主の邸ね」
上空から邸を見下ろし、アイテムボックスから拡声器を取り出す。
「あーあー、テステス……コホン。邸にいる代官に告ぐ。無駄な抵抗はやめて邸から出てきなさい。10分以内に出てこなければ戦闘の意思があるものと受け取り、東門と同じように邸を吹き飛ばす。巻き添えを食らいたくないものは、今すぐ邸から逃げるように!」
すでに東門での騒ぎが伝わってるらしく、数分後には兵士と使用人が大慌てで逃げ出していく。
それを見た兵士長や執事が怒鳴り声をあげ、必死に静めようとしていた。
「しょうがない。ちょっとサービスしちゃおっか――ファイヤーボール!」
ボボン!
「「グワァ!」」
これでよし。
うるさいのが居なくなったし、逃げやすくなったでしょ。
「それって誰に対するサービス?」
「逃げ出したい人に向けたサービスよ」
「響きが世捨て人っぽいんだけど……」
「代官に逆らうんだから間違いでもないでしょ」
「あ、はい……」
代官の反応次第じゃしばらく領主が不在になるしね。
あ、もちろん私が面倒を見るなんて御免よ? 領主に従ってる時点で代官も街の連中も同罪だし――って、そういえば代官が出てこないわね?
どうやら立て籠る――ん? あれは……
「ねぇアイリ、アレってコボルトじゃない?」
「うん、コボルトで間違いないわ。でも何だって邸から――あ、まさか!」
飼ってるダンマスが居るって門番が言ってたわね? もしかしなくても奴隷のダンマスが命令されてやってるのね。
「邸の中にダンマスが居るっぽい。どうせ奴隷だろうし、ついでだから解放してあげよう」
「え? 奴隷を解放なんて簡単にできるわけじゃ――って、待ってよアイリ~!」
コボルトの弓矢を回避して邸の屋根をブチ壊し、地下まで貫通して着地した。奴隷なら地下に居るだろうと思ってね。
そして案の定、驚愕の表情で私を見る渋いオッサンが目の前に。
更にオッサンを盾して震えている代官のジジイまでいる。
「腐女子が泣いて喜びそうなシチュよね~」
「誰も泣かないし喜ばないわよ。だいたいフジョシって何?」
「あれ? アイリなら知ってると思ったのに」
知ったら後悔しそうだし、敢えて調べないからね?
「おおおおおいグラップ、はははは早くその小娘ををををを、始末せんかぁぁぁぁぁぁ」
「…………」
代官に命じられグラップというダンマスが無言で頷き、10体ほどのコボルトを召喚した。
「面倒ね。セリーヌ、お願い」
「は~い。ちょっとばかし眠っててね~」
コボルトが動き出す前にセリーヌの睡眠魔法で眠らせた。
後ろの二人も眠ったところで、グラップの首に付けられた奴隷の首輪にソッと触れる。
パキーーーン!
「わーお! 奴隷の首輪を壊すとか、アイリってばダイタ~ン♪」
「神の加護がある私じゃないとできない方法だけどね」
これでグラップは自由の身となった。
何故助けたかというと、ちょっと良い事を思いついたからよ。
ペチペチ!
「起きて、グラップ」
「起っきろ~♪」
さっそく話をするため、頬をペチペチやって起こしてみる。
「…………うぅ……ん? んおっ!?」
「はいはい落ち着いて。貴方が暴れたりしなければ危害は加えないから」
「し、しかし、奴隷の俺には代官の命令に逆らうという選択肢は――」
「貴方はもう奴隷じゃないわよ? 首輪だってほら――」
「え……ええ? く、首輪が壊れた!?」
壊した首輪を目の前にぶら下げてやると、目を丸くして驚かれた。
「言っとくけど壊れたんじゃなく壊したんだからね? そこんとこ間違えないように」
「そ、そうなのか!? 世の中にはキミのような強者がいるのだな」
神の加護を持つ存在なんて、世界中を探しても一桁だろうけどね。
「さっそくだけど、グラップには解放軍を指揮してもらいたいのよ」
「……解放軍?」
「そ。今からプラーガ帝国は、劇的な変化を遂げることになるわ」
帝国にいる連中が度肝を抜くような――ね。




