舌先のシュノーゼ②
『オーーーッホッホッホッホッ! しばし休憩といたしましょうか。あまりにも一方的では張り合いがありませんもの』
フロアにシュノーゼさんの高笑いが響く。
「やっろ~、言わせておけば――」
「だから聖徳は落ち着いて。キミ1人が突っ込んでまけたら意味がないんだよ?」
「け、けど……」
「あたしもムムちゃんと同じ意見だよ? だって負けたら聖徳さんを取られちゃうんだもの」
「あ……ああ、そうか……」
「こらこら、ソコでも惚気ない」
の、惚気たつもりはないんだけど……。
「まぁしかしなんだ、向こうから休息を与えてくるとは、せめてもの哀れみか?」
「……そうじゃないよ、バカ幻王。あの狡猾な女がそんな真似すると思う?」
「まさか、これにも裏があるのか?」
「……当然。デンジャーグレムリンのスキル発動には5分間のインターバルが必要。だから安全を重視して撤退したと思われる」
「なんと!」
やっぱりだ。シュノーゼさんがあたしたちに利する選択をするはずがないもの。
ホント、こんな人を信用してしまったのが凄く悔しい。
「5分か……そろそろだな」
「どこに行くのさ聖徳?」
「入口で待ち伏せするのさ。ノコノコ現れたところを切り裂いてやれば――」
「だから危険だって言ってるじゃん。それでキミがやられたら負けなんだよ?」
「分かってるよ。だからこのフロアからは出ない。どうせ向こうから来るんだから、壁で身を隠して待ち構えるのさ」
装着した鋼の爪を鳴らし、聖徳さんが入口横の壁へと移動する。
グレムリンが現れたら透かさず爪を振るうつもりだね。
「……でも相手側には筒抜けだから、結局は無駄になりそう」
「そうなんだよねぇ。これもシュノーゼの策だと思うと余計に腹立つよね~」
隠れても無駄、話し合っても無駄。なんとかシュノーゼさんの目を誤魔化せれば……。
「シッ、静かに。どうやらお出ましのようだぜ」
足音を聞き取ったのか、聖徳さんの耳がピクピクと反応し、爪をカチャリと構えた。
みんなが息を殺していると、タタタタッという軽快な足音が聴こえてくる。
「いいか? 入ってきたら時間差で襲いかかるんだ。矢継ぎ早に攻撃を繰り出せば、スキルを発動する余裕がなくなるからな」
「……了解」
「そんじゃ久々に運動しよっかな~」
「…………」
あたしも慣れない手付きでショートソードを手に持つと、入口へと注意をそそぐ。
すると間もなく、あの憎たらしいグレムリンが姿を現した! けれど……
「そこだぁぁぁ――――」
スカッ!
「――あ、あれ?」
「ギーギギギ!」
入口手前で大きく飛び上がり、聖徳さんの爪は空を切る。
「……このっ!」
ヒョイッ!
「ギギッ!」
苦し紛れにマリオーネさんが掴みかかるも既に高所にあり、手に忍ばせていた投げナイフを――
シャシャ!
「あ! 危ない、二人とも!」
狙いは後ろの二人――レミットさんと幻王さんにあり、2本のナイフが真っ直ぐに向かっていく!
「グギャーーッ!」
キキン!
でも二人に到達する前に、ゴブリンジェネラルが盾で防いだ。
「よくやりましたわジェネラル!」
「グギャグギャ!」
「ふぅ、肝を冷やしたな……」
よかった。とりあえずは無事みたい。
「よぉし、今度はこっちの番!」
ビュッ!
ショートソードから弓に持ち変えたムムちゃんが矢を放つ。
ザッ!
「ギギギギ!?」
当たった――と思ったら、惜しくも翼を掠っただけだった。
「チッ、もう一度――」
「やべぇぞムム、また破壊光線がくる!」
ムムちゃんを危険視したのか、そっちに向きを変えてあの光を集めだした。
「グレムリンが止まってる今がチャンスなんだ! 当たれぇぇぇ!」
あの光よりも先に弓矢が放たれ、一直線にグレムリンへと飛んでいく。
そのまま胴体に命中――
「ギギギギーーーッ!」
「あっ!?」
――する一歩手前で、あの光が放たれた。
ドシュゥゥゥ!
「はぐぅ!」
破壊光線は弓矢を粉砕し、そのままムムちゃんへと直撃してしまう。
「「ムム(ちゃん)!?」」
「ご、ごめん。武器も防具も壊されちゃった……」
「早く下がれ。その状態で襲われたらおしまいだ」
「うん……」
やむ無くムムちゃんも後方へと下がり、前衛はあたしを含めて3人だけに。
このままじゃダメだ、あたしも戦わなきゃ!
「グ、グレムリンめぇ!」
「ギーギギ♪」
高所に浮いてて届かないとでも思ったらしく、鼻で笑って背を向けるとマリオーネ他の二人へと注意を向けた。
そうやってられるのも今のうちだよ。
近くにある折れた柱を踏み台にすれば、あたしでも届くはず!
「いくよ~~」
ガッ――ドシン!
「いたっ!」
踏み込む手前で足を引っかけちゃった。
「あ、あれ? 剣は――」
コケたはずみで剣がどこかに――
ザクッ!
「ギャァァァァァァ!?」
「ナイスだミラクル! 狙い通りにヤツの背中に突き刺さったぞ!」
「ええっ!?」
狙ってはいなかったんだけど、結果的に良かったのかな?
「……今がチャンス」
「ああ、一気に畳み掛けるぜ!」
ドゴッ! ザシュ!
「ギィ!? ギーギギギッ!」
負傷してフラつきながら降下したところを、マリオーネさんと聖徳さんが襲いかかる。
「グギャーーーッ!」
そこへゴブリンジェネラルも加わり、グレムリンを防戦一方に追い込んだ。
けどおかしい。Cランクのグレムリンなら、肉弾戦でもかなり強いはず。
なのにまるで何かを待っているかのように反撃に移らないなんて……あ!
「よぉし、これでトドメ――」
「聖徳さん、破壊光線がくるよ!」
「――なにっ!?」
聖徳さんが慌てて飛び退くと、背を向けて逃走中だったグレムリンがグルリと反転した。
両手には例の光が集まっていて、今まさに放とうとしてる!
「ギギギギギーーーッ!」
「コイツ、インターバルの経過を待ってやがったのか!」
身構えた聖徳さんからは向きを変え、攻勢に出ていたマリオーネさんがターゲットに!
ドシュゥゥゥ!
「……うっぐ!?」
ガントレットは破壊され、身に付けていたアーマーも消え去った。
これでマリオーネさんもまともには戦えない。
「チッ、こんにゃろう!」
「ギギッギギッ♪」
グレムリンは小馬鹿にするように爪をかわし、またしても逃げ去ってしまった。
「チッキショウ、あと少しだったのに!」
「ごめんねみんな。ムムが冷静さを欠いたばかりに……」
「……ウチも同じ。項を焦って視野が狭まっていた」
いや、これは誰のせいでもない。
そもそもが悪条件なんだから、苦戦するのは当たり前。
それにあたしのショートソードも背中に刺さったまま持ってかれたし、これも大失敗だと言える。
「聖徳、こう言っちゃなんだけど、もしもの時は……」
「分かってるよムム。とっくに覚悟はできている。死ぬよりはましさ」
悲壮感が漂う中、間もなく5分が経過しようとしていた。
多分次がラストチャンス。
ゴブリンジェネラルは他のみんなを護らなきゃならないから、あたしと聖徳さんだけで挑むしかない。
ピクッ!
「……来やがったぜ」
聖徳さんの犬耳がピクリと反応する。
いよいよだ。次こそは絶対に仕留めないといけない。
けれどあたしは剣を失ったし、情けないけど聖徳さんに頼るしかない。
「次が最後になるだろうが、多くは望まない。ミラクルはヤツの動きを封じるように掴みかかってくれ。鈍ったところを俺が殺る」
「分かった!」
作戦は決まった。
今度こそ成功させなきゃ!
「来たぞ!」
ダッ!
またしても入口手前で飛び上がり、あたしたちを越えて行く。
けれどそっちは!
「そっちはダメ!」
後方には無防備になったみんなが固まっていて、ゴブリンジェネラルだけじゃ護りきれない。
しかも破壊光線を浴びてしまえば、ゴブリンジェネラルもほぼ無力に。
「みんなを助けなきゃ!」
気付けば無意識のうちに走り出していた。
「待ってミラクル! ヤツの狙いは――」
「狙いは貴女ですわよ!」
「――え?」
そう。この行動がかえって良くなかった。
グレムリンは飛び上がった直後に光を集め始めてて、身体を反転させると――
「ギギギギーーーッ!」
ドシュゥゥゥ!
マ、マズイよ、このままじゃ――
「間に合えぇぇぇ!」
ドン――バシュゥゥゥ!
「ぐあっ!」
「聖徳さん!」
あたしを突き飛ばした聖徳さんが身代わりとなり、アーマーと爪を消されてしまった。
「ギィギィギィ!」
「クッソォォォォォォ!」
これを好機と見たグレムリンがターゲットを変え、聖徳さんへと襲いかかる。
対する聖徳さんも盾で凌いではいるけれど、噛みつかれるのも時間の問題。
「こ、このままじゃ……」
そう。このままだと負ける。負けちゃうんだ。
悔しいよ。凄く悔しい!
「ギーギギギ♪」
「ちっき……しょう……」
ごめんね、聖徳さん。本当にごめんなさい。
やっぱりあたしじゃダメだった。
でも……
あたしは負けたくない。
聖徳さんを――仲間を失いたくない。
だから――
「禁じ手を使うよ!」
ターーーーーーン!
「グギェゴォ!?」
「!!!?」
その瞬間、時が止まったように全員の動きがとまる。
「ハァ……ハァ……」
肩で息をしたあたしが見つめる先で、こめかみに穴を開けたグレムリンが聖徳さんに覆い被さるように倒れ込む。
「やった……のか?」
「うん」
「じ、じゃあ倒したのか?」
「そうだよ」
「ミラクルが……やったんだよな?」
「……ごめん。やったのはあたしだけど、あたしの実力じゃない」
眷属のグルースさんから借りた、デザートイーグルという異世界の武器。
これはアイリちゃんが召喚したものだから、結局は頼ってしまったんだ。
「ごめんね聖徳さん。あたし、アイリちゃんがいないとダメ――」
「そんなことはねぇ!」
「――え?」
「借り物の何が悪いってんだ。ミラクルは俺を助けてくれた。それで充分さ」
「聖徳さん……」
グレムリンを無造作に投げ捨て、照れ臭そうに鼻を擦る。
よかった。アイリちゃんに頼らないと決めた手前、使うかどうか躊躇った。
けれど仲間を見捨てるよりは遥かにマシだものね。
「ふぅ……やれやれだよ。最後はどうなるかと思ったら、切り札を持ってるとはねぇ」
「まったくですわ。そんな強力な武器があるならさっさと倒せばよかったものを」
「ごめんなさい。使わずに倒すのが最善だと思ったから……」
ホントは迷わずに使うべきだった。
今回は際どい結果になったんだし、次からは遠慮しちゃいけないよね。
「まぁいいじゃないか。これで負けはなくなったんだし、あとは終わるまで寛いでいようではないか」
「……タイムオーバーまで寝てるから、時間が来たら起こして」
一気に緊張が和らいだせいで、各自が地面にへたり込む。
あたしも横になろうかな?




