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誘われしダンジョンマスター・未来紀行  作者: 北のシロクマ
第6章:プラーガ帝国のダンマス
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舌先のシュノーゼ

10月14日

一部描写を追加しましたが、ストーリーに変更はありません。

 限られた条件下での作戦が練られ、待ち望んですらいないバトル当日を迎えた。

 戦いの舞台は相手方のダンジョンなので、審判役の天使族によって互いのダンジョンを繋げられ、入口を通って相手側へと移動する。

 そこでは派手に着飾ったシュノーゼという女性が壁に寄りかかっていて、こちらに気付くと目を細めて微笑んだ。


「ようこそ、わたくしシュノーゼのダンジョンへ。皆様のご来場を心より御礼(おんれい)申し上げますわ」


 レミットさんと同じ銀髪をサッと(なび)かせ、優雅に一礼をする。

 左手を腹部に当てた丁寧なお辞儀に、あたし以外のみんなが「えっ?」て感じに首を傾げた。

 そう、あたしの時も同じ。この後ついつい気を許して大変な目に合ってるんだ。

 だからみんなには小声で忠告する。


「騙されちゃダメだよ? ああやって油断させるのが、あの人のやり口だからね?」 

「分かってますわ。お人好しなミラクルを騙すような鬼畜ですもの、見た目で判断するような愚は犯しません」

「寧ろ分かりやすいんじゃない? 詐欺師だと思えば何てこともないよ」

「そこの二人、聴こえてましてよ?」


 さっきとは裏腹に、レミットさんとムムちゃんに対して凍えるような視線を向ける。

 そうだよ、ここは相手方のダンジョンなんだから、小声でも拾われちゃうじゃない……。


「初対面の相手に対して鬼畜や詐欺師とは随分な暴言ではなくて?」

「暴言も何も事実ですわ」

「そうそう。ムキになるって事は自覚があるって事なんだよね~」

「僕にはマリオーネが居るから惑わされないが、その振る舞いでどれだけの男を手玉に取ってきたことか」

「……バカ」

「ハン、厚化粧の()()()()が何か言ってら」


 ピシッ!


 誰かの台詞が(かん)に触ったのか、場の体感温度が急激に下がった気がした。

 見ればシュノーゼさんの顔がヒクヒクと引き吊っていて、視線は聖徳(しょうとく)さんへと向けられ……


「……そこのお前、今……何と言った?」

「ああ? テメェのハリボテ(がお)が厚化粧だっつったんだよ、糞ババァ!」

「…………」


 どうやら厚化粧のオバサンというフレーズが良くなかったらしい。

 たぶん二十代後半くらいだろうし、これは確かに――




「……わ、わたくしの半分しか生きてはいないガキの分際でぇぇぇぇぇぇ!」


 ガシッ!


「うぉっ!?」

「美を理解できないくせにふざけた事を抜かすな! 貴様のようなクソガキはジワジワと(なぶ)り殺しにして――」


 ビシャッ!


「ヒグッ!?」

「バトルとは無関係な乱闘はダメですよ~」


 審判の天使族さんがイカズチを落とし、シュノーゼさんの暴走を止めた。

 まさかこんなに短気な人だったなんて思わなかったよ。ホント見た目で判断するのは危険だね。


「え~申し遅れましたが、私が今回の審判を勤める天使族のプリシラと申します。双方準備はよろしいですか?」

「あ、あたしたちは……」


 あたしを含めて可能な限りのDP(ダンジョンポイント)を使い、最高の防具で身を包んだ五人。

 それにプラスして、レミットさんの眷族であるゴブリンジェネラルがこの場にいて、皆揃って力強く頷いた。


「大丈夫……です」

「わたくしの方もよろしくてよ」

「了解です~。ではカウント0でバトル開始とします~。私は先に退避しておきますね~」


 プリシラさんがどこかへと転移し間もなくカウントダウンが始まった。


 5……4……3……2……1……



 0~。


『バトル、始め~~~』


 やや気の抜けた声と共に始まったバトル。

 ダンジョンの入口に集結している私たちが侵略者側で、コアルームにいるであろうシュノーゼさんを倒せば勝ちとなる。

 けれど今回においては積極的に勝ちにいく必要はない。

 何故かと言うと……


「制限時間は一時間だったな? それまでに撃破されなければ引き分けとなり、実質勝利と言っても過言ではない」


 幻王(げんおう)さんの言う通り、バトルには必ず制限時間を設定する必要があり、今回は一時間とのことで設定上では最も短いものだった。

 これはシュノーゼさんが設定したもので、恐らくは向こうから仕掛けてくるはず……。


「けどいいのか? こっちから仕掛けなくて」

「それは無謀だよ聖徳。その可能性も向こうは想定してるはずだし、仮にこっちから攻めこめば(たちま)ち罠の餌食だよ」

「だよな……」


 ムムちゃんの正論に対し、分かってると言いたげに聖徳さんは肩を竦める。

 罠に掛かったところを襲われたら一溜りもない。

 何せ肉弾戦に関しては素人集団で、いくら強力な武装をしてても死ぬ時は死ぬんだもの。


「……ウチなら善戦できると思うけど?」

「それも得策じゃないね。作戦会議でも言ったけど、こっちの誰かが倒されたら負けなんだから、わざわざ出向く必要はないよ」


 実はムムちゃんの指摘した点――ダンマスの誰かが倒されたら負けという条件は、最後まで難航した。

 吸血鬼のマリオーネさんなら善戦できる反面、人数を増やせば的が増えるから危険だとムムちゃんは主張したけれど、最終的には互いにフォローできるからと五人全員で挑むことになったんだっけ。


「いくらマリオーネでもCランクの魔物は無謀だろう。あまり無茶な真似はするな」

「……幻王がそう言うなら」

「はいはい、ソコで惚気(のろけ)ないように」


 改めて全員で正面の扉を見据える。

 この扉のすぐ先は通路になっていて、私たちが固まってる場所はやや開けている。

 先に進むよりはここで待ち構えるのが得策と考え、扉の先から現れるであろう魔物を全力てで警戒することに。


「いい? 作戦会議でも話したけど、ここから先へは絶対に進まないこと。このフロアに居いる限り、シュノーゼは罠を仕掛けられないから」


 これはダンジョンの法則で、誰かの足元に罠を仕掛けることは出来ないようになっていて、例えばの話、黙って立っているところを突然足元に落とし穴が現れることはないんだ。


「なぁムム、扉の先を覗くくらいはいいだろ? せめてもの偵察ってやつだ」

「だからダメだって。いきなり襲われたらどうするのさ? 向こうにはこちらの動きが丸分かりなんだからジッとしてなきゃ」

「そうですわよ聖徳。わたくしたちはゲストなのですから、向こうがエスコートするのが筋ですわ」

「そういう意味でもないんだけどね」


 ムムちゃんの言うようにここから出なければ安全なのは間違いない。

 だからせめてもの抵抗で、罠を仕込むくらいなら……


「…………よし。設置完了」

「ん? ミラクル、何かした?」

「扉から少し離れた場所に落とし穴を仕掛けたんだ」

「それ、意味ある? 向こうにはモロバレだし、だいいち通路や部屋じゃなければもっと無意味だよ」

「だよね……」


 それから4、5分ほど経過し、ほどよく緊張が和らいだところでシュノーゼさんの声が聴こえてきた。


『アイリーンの皆様ごきげんよう。完全武装でご苦労な事ですこと。特にそのお二人は、ミスリルのプレートアーマーにミスリルの盾、更にはミスリルヘルムと大変な重装備ですわね』


 扉側に近いレミットさんと幻王さんを指してるらしく、ズバリ装備品を言い当ててきた。

 どうやって見破ったんだろ? まさかアイリちゃんみたいに鑑定スキルが? これはますます厳しい戦いになりそう。


『動きにくいなら装備を変えるくらいの猶予を与えましてよ? せっかくの貴重品を無駄にしたくはないでしょう?』

「断る。選りすぐりの装備を外すなどあり得んことだ」

「その通りですわ。貴女の口車には乗りませんことよ」

『あらあら、親切心での忠告でしたのに。でしたらせめて、扉からは遠ざかっておくことをおすすめしますわ。一瞬でケリが着いてはつまらないですものね』

「む、言われてみれば……」

「そうかもしれませんわね」


 みんな揃って忠告通りに遠ざかる。

 だけどおかしい。相手が有利になるような助言をするなんて。

 そう思い扉の方を振り返ると、聖徳さんだけが途中で立ち止まっていた。


「何をしていますの聖徳。扉の近くは危険でしてよ?」

「いや、おかしいと思っただけさ。わざわざ敵に塩を送るなんて、あの女の性格なら――」

『フン、感の良いガキは嫌いですわ!』


 バァン!


 突如扉が開け放たれ、その先に光が集中しているのが見えた。

 あの光は――


「コイツは――や、やべぇ!? 避けろーーーっ!」




 バシューーーーーーゥゥゥゥゥゥ!


 聖徳さんの声と光が発射されるのが同時だった。

 直線上に放たれたソレはレミットさんと幻王さんへと直撃する!


「ウグッ!?」

「キャッ! な、なんですの、この光は!?」


 不可思議な光はすぐに収まり、伏せていた顔を上げる。


「だ、大丈夫二人とも!? ケガは――え?」


 驚いた事に、二人は無傷だった。

 但し、同時にあの光の恐ろしさも目の当たりにすることに……


「そ、そんなバカな!? ミスリル装備が一瞬で……」

「消えてしまった……ですの?」


 重装備だった防具は見当たらず、代わりに軽装で防御力皆無な二人がそこにいた。


「気を付けろみんな! グレムリンだ、デンジャーグレムリンの破壊光線(デストレイザー)だ!」

「「「デンジャーグレムリン!?」」」


 聖徳さんが叫んだその名はデンジャーグレムリン。

 Cランクな上、武器や防具、その他アイテムを破壊してくる狡猾な魔物だよ!


『オーーーッホッホッホッホッ! その通りですわ。ですから忠告したのですよ? せっかくの貴重品が無駄になると』


 うぅ~~、してやられたよ。まさか装備品を破壊してくるなんて……。


「ックチョウ、やられっぱなしでいられるかよ! 食らえっ!」

「ギーギギ♪」


 タタタタタッ!


「クソッ、逃げやがった……」


 聖徳さんの爪をかわし、通路の奥へと逃走するグレムリン。


「待ちやが――」

「深追いはダメ! すぐに戻って!」

「……チッ!」


 追撃しようとしたところをムムちゃんに止められ、聖徳さんはイラつきながら戻ってくる。


『あらあら、威勢だけは良さそうでしたのに、その程度ですの? これだから下賎(げせん)な輩は嫌になりますわ』

「クッ……」

「ダメだよ聖徳、挑発に乗るのは絶対にダメ」


 尚も挑発するシュノーゼさんに反応するも、ムムちゃんが押し止める。


「すまないみんな。僕とレミットは隅の方に退避しているよ」

「キーーーィ! 悔しいったら悔しいですわ!」


 二人を護るように立ち、開かれた扉の先を注視する。

 マズイよ、いきなり不利な状況に追い込まれちゃった……。


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