肉食暴走
小部屋から通路を覗くと、ゴブリンを先頭にコボルトやスケルトン、クラッシュベアなどの混合部隊が押し寄せてるところだった。
それでもランクはFからEまでで、私らにとっては雑魚の寄せ集めでしかない。
「先手は俺にやらせてくだせぇ」
「分かったわ。討ち漏らしたやつは私たちが片付けるから。アンジェラもそれでいい?」
「……まぁよかろう。罠に掛からぬよう注意いたせ」
「分かってんよ!」
ダッ!
「ハッ、俺の動きに反応できるかぁ? できねぇなら黙って寝てな!」
ザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!
魔物の中でもスピードが抜きん出ている狼種のモフモフよ。
しかもSランクとなればその差は歴然で、瞬く間に数を減らしていく。
「グギャギャ!」
「ギャーギャ!」
仲間が犠牲になってるうちに詠唱を終わらせたゴブリンメイジがファイヤーボールを放つ。
更にコボルトまでもが弓矢を飛ばしてくるも……
「へッ、おせぇおせぇ――遅すぎらぁ!」
ズバズバズバズバッ!
「「「グギャッ!?」」」
火の球と弓矢を掻い潜り次々と手刀で斬り裂いていき、1分も経たずに20体近くの魔物が全滅した。
「ヘヘ、ザッとこんなもんでさぁ」
「うん、完璧すぎて退屈だったわ」
「まったくじゃ。次は妾の番じゃからな!」
果たして次があるのかどうか。
恐らく付近の魔物をすべて寄越してきただろうから、しばらくは遭遇しないかもね。
「お~い、アンタら無事か~!?」
あ、通路の向こうから冒険者パーティが走ってくる。
「私たちは無事ですけれど、どうかしたんですか?」
「どうかしたって……凄い数の魔物がこっちに移動したのを見たんだが……アレ? ゴブリンやコボルトは来なかったか?」
「来ましたけれど、まとめて落とし穴に落下しました。タイミング良く間一髪って感じに」
間一髪なのは間違いない。もう少しでモフモフが無双してるところを見られただろうし。
「そうか、大丈夫そうでホッとしたよ。じゃあ俺たちは引き上げるから」
もともと帰還する予定だったらしく、冒険者パーティは出口へと戻って行った。
言っちゃ悪いけど、魔物よりも冒険者とかの方が厄介ね。
この先にも大勢いるだろうし、気をつけなきゃ。
「さ、私たちも進みましょ。日を跨ぐのは面倒だから、今日中に攻略するつもりでね」
「ガッテンでぇ!」
「当たり前じゃ。妾はまだまだ暴れ足りん!」
今度はアンジェラを先頭にしてボス部屋を目指す。
案の定ボス部屋までの間に魔物は出現せず、肝心のボスも討ち取られてインターバル中。
難なく2階層へと進むことができた。
「なんじゃつまらん。せっかく妾が来てやったというに……」
「何も無いなら進み易いじゃない」
「無くはないがの。現にトラップだけはしっかりと張り巡らされておるわぃ」
時間稼ぎでもするつもりかもね。
先に進んでいる人たちも相手にしなきゃならないし、アマノテウスも私たちばかり気にしてる隙はないはずよ。
「危険なトラップは解除して行きましょ。例えばどの辺にあるの?」
「ちょうど主の足元じゃ」
「……は?」
カチッ――ジャララララララ!
「――って、吊り天井!」
ガシャーーーン!
剣山付きの吊り天井をスライディングで回避した。
当たらなかったからいいものの、天井から金ダライを落とされたくらいの痛みは感じるのよ!
「アンジェラ! もっと速く教え――」
カチッ!
「……へ?」
ブスブスブスブスブスブスッ!
「いったーーーーーーい!」
左右から飛んできた矢がアチコチに突き刺さった!
大したダメージじゃないけど、注射器に刺された瞬間みたいに痛いのよ!
「アンジェラ~?」
「ピンピンしているではないか。そう怒るでないわぃ」
「だからってね――」
「さすがは姉御! 立て続けの罠にも怯んだ様子は見せねぇたぁ惚れ惚れしますぜ!」
「……そ、そう?」
実際に大した事はないし? 回避も余裕だし? 当たってもちょっと痛い程度だし?
「うむうむ。主なら問題ないと信じておったぞ」
「身を呈して罠に挑むなんざぁ素人にゃできやせんぜ!」
「まったくじゃ。それでこそ妾の主に相応しいというもの。正に自慢のマスターじゃな」
うん、まぁそれほどでも――あるかな?
うんうん、それに最初から罠を解除するつもりだったし?
うんうんうん、ならやった事は無駄にはならないわね。
……あれ? なんで怒ってたんだっけ? まぁいいや。
ドドドドド……
「ん? この音は……」
「多分じゃが、攻略に向かっていた者達が大勢で走ってるせいじゃの」
「走ってる?」
「うむ。後ろから大量の魔物が迫ってるのが原因ではないか?」
「それって……」
まさかスタンピード?
とうとうアマノテウスが自棄を起こしたとかじゃ……
「3階層より先は何も起こっておらぬようじゃが、数だけはやたらと多いな」
「どのくらい?」
「ざっと1000はあるぞぃ」
そりゃ先駆けてる人たちも逃げ出すわね。
「どうしやす姉御? もうじきここに殺到しやすぜ」
「地上に出たら面倒な事になるし、ここで蹴散らしてやりましょ」
アマノテウスからしたら私たちを追い出したいと思ってるはず。
だったら攻略するまで居座り続けてやるわ。
「っしゃあ、燃えてきたぜ!」
「待てモフモフよ。今度は妾が先手じゃ」
「何言ってやがる、早いもん勝ちだろ!」
「ダメじゃダメじゃ、妾が行くのじゃ!」
「はいはい。何でもいいから端に寄って。撤退する人たちの邪魔になるでしょ」
ほどなくして冒険者やら軍隊やらが入り交じった人の波が押し寄せてきた。
「ににに、逃げろお前ら! とんでもねぇ数の魔物がくるぞぉぉぉ!」
「ちょ、誰よウチの服引っ張ってるの!」
「ああ神よ、我を助けたまえぇぇぇ!」
「お、おで、生きて帰ったらあの子にプロポーズすんだな!」
人の波が背後に消えていく。
同時に前方からは魔物の這いずる音と、呻き声が聴こえてきた。
「アンジェラ、周囲に人の反応は?」
「ないな。少なくともこの階層に居るのは妾たちだけじゃ」
「じゃあ派手に動いても大丈夫ね」
「無論そのつもりじゃ!」
先頭の魔物が見えたか否かのタイミングでアンジェラが動く。
かなり高揚してるようで、手足の人化が解けかかっているほどよ。
「有象無象よ散るがよい! 妾の拳をその身に受けるが名誉の証と心得よ!」
ズドォォォォォォォン!
「森羅万象焼き付けよ! それが最後の絵とならん!」
ドゴォォォォォォン!
「価値なし意味なし道理なし! ゴミは等しく消え失せよ!」
ゴーーーーーーォォォォォォ!
殴った際の凄まじい衝撃が私とモフモフに跳ね返り、更にトドメと言わんばかりにブレスまでブッ放したもよう。
というかアッツゥゥゥ!
これ、ダンジョンの壁は不壊属性だから、通路を伝って殆どの魔物を焼き尽くしたんじゃないだろうか。
「フハハハハ! どうじゃ主よ。2階層の魔物はすべて消滅したぞぃ!」
「あ~~うん、そうみたいね。じゃあその調子で最上階まで願いするわ」
「承知じゃ!」
「あ……」
半分冗談だったのに、そのまま走って行っちゃった。
「姉御、早くしねぇとアンジェラに全部取られちまいやすぜ!」
「あ、ちょっ――」
焦ったモフモフに手を引かれ、私もアンジェラの後を追う。
誰も居なくなった2階層を突破し、3階層のボス部屋にたどり着くと、ボスであるDランクのアサシンスネークが焼け落ちるところだった。
「来たか、主よ」
「来たか――って随分と飛ばしてたけれど、誰にも見られなかった?」
「そんなヘマはせんわぃ。それより主よ、重要な事に気が付いたぞぃ」
真顔で振り向くアンジェラに、思わずゴクリと息を飲む。
「……な、何?」
「飛ばしすぎて腹が減ったわぃ」
ズテン!
「焼き立てジューシーなやつを所望するぞ」
「じゃあ俺にも頼みやすぜ」
「ア、アンタら……」
燃費悪すぎでしょ、いくらなんでも……。
「あ、ついでに言うとくが、レモン汁は無しじゃ。アレは舌を惑わすからのぅ」
「俺は濃厚なタレでお願いしやす。ついでにウェルダンで」
さっきより要求が多くなってるという。
せめて攻略が終わるまで我慢できないものだろうか。さすがの私も朝から油ものの連続で胸焼けが……。
「ん? んん? こ、この匂いは!」
「アンジェラ?」
「んお!? こ、こいつぁ……」
「モフモフまで?」
目を閉じて鼻をヒクつかせるアンジェラとモフモフ。
私は何の匂いもしないんだけど?
「肉じゃ、肉が妾を呼んでおる!」
「おぅ間違いねぇ、肉が焼ける匂いだぜ!」
ダダッ!
「ちょ、ちょっと二人とも!?」
匂いに取りつかれた二人が4階層へと突っ込んでいった。
肉の匂いがどうとか? ダンジョンの魔物なら絶命と同時にすぐさま消滅だし、まさか人の焼ける匂い!? ならすぐに助けないと!




