擬態侯爵
小隊の隊長を尋問(拷問とも言う)した結果、ミリオネック連合のコゴムール侯爵という人物が黒幕だと自白した。
そのためダンジョン攻略は一時的に中断し、黒幕がいる邸へと向かう事になったわ。
意外にも場所はすぐ近くだったんで、他の人に見つからないように山を登ってる最中よ。
案内人はもちろん……
「クッ……何たる屈辱! この俺が冒険者風情に捕まるなど……」
簀巻きにした状態でモフモフに担がれてるのが小隊の隊長よ。
口ではこう言ってるけれど、丁寧に尋ねた(モフモフがドスのきいた声で脅した)ら素直に話してくれたわ。
「俺の部下たちはどうした?」
「余計な荷物になるし、ダンジョンの小部屋に監禁してきたけど?」
「何ぃ!?」
「いや、道案内はアンタ一人で充分だし、なんだったら他のやつに頼んでアンタは殺処分しても構わな――」
「誠心誠意、案内させていたただきます」
「うん、それでいいのよ」
残してきた連中は武器と防具を没収して縛っといたから、他の冒険者らに襲いかかることはできない。
いや、アマノテウスに証拠隠滅されてるかな? それならそれでもいい。他に被害が出なければね。
「お~い主よ、そろそろ頂上が見えてくるぞ」
「――だそうだけど、どの辺りに有るわけ?」
「ダンジョンから見て南西だ。頂上からだとシルバートレンドとゴールドキャニオンに隣接してる所が見えるだろう? その手前側の山の中だ」
頂上へと進み南西を見下ろしてみると、山中にまで延びている防壁で仕切られた国境が見える。
南北に延びた防壁から東側がミリオネックで、西側に延びている防壁から南がゴールドキャニオン、北がシルバートレンドね。
「山と防壁で境になってるのは見えるわね。その手前――んん? あれは……」
シルバートレンドとゴールドキャニオンに挟まれた山中って、確かキートン爺さんが言ってた場所よね? ここからでも泉っぽいのが見えるし、後で寄ってみよう。
神秘の欠片をゲットできたら高値で売れるかもしれないし。
「しかしだ。侯爵様の邸の周囲は手強い魔物が多いのだが、お前たちは大丈夫なのか?」
「あん? 誰に言ってんだテメェ。俺たちをテメェらみてぇな雑魚と一緒にすんじゃねぇ」
「何ぃ!? 我々を愚弄する気か! 本気を出せば我々も――」
「なんじゃ? また妾の相手をしてくれるのかや?」
「いえ、大丈夫です、結構です、出しゃばってすみません」
尋問をアンジェラにやらせたら、不気味な音を立てて呻き声をあげたのよねぇ。
明らかに骨が折れる音だったし、この男にしたら二度と体験したくないでしょうよ。
うるさかったからポーション飲ませたけどね。
「時間も惜しいし、一気に飛ぶわよ」
ダン!
辺りに誰もいないのを確認し、邸に向けておもいっきり地を蹴る。
飛行できないモフモフもアンジェラに掴り、私のあとに続いてきた。
「あばばばば何だ何だ! いったい何が起こっているのだ!?」
「うっせーな。空飛んでるだけで大げさに騒ぐんじゃねぇ」
「そ、空を飛んでるだとぉ!? 貴様らいったい何者だ!」
「知りたい? 教えてもいいけど正体が露呈すると困るし、知られたら息の根を止めないといけないけれど」
「ハッハッハッ! 最近もの忘れが激しくて、何を話してるのか忘れてしまいましたなぁ」
「賢明ね」
割と利口な小隊長と共に、邸の上空までやってきた。
パッと見だと見張りは居ないし無防備に感じるんだけれど……
「本当にここなの? 人の気配がまるで感じられないんだけど?」
「間違ってはいない。ブルーゲージは代官に任せきりで、侯爵様本人は邸にこもり続けているのだ。そういえばここ数年、人前に出て来たことはなかったような……」
何年間も邸に……それは不自然ね。
「アンジェラ、邸の中は?」
「人の反応はないな。その代わり魔物がウジャウジャと居るわぃ」
「……やっぱりね」
「魔物だと? それはいったい……」
「あ~つまりね、侯爵さんはとっくの昔に殺されてて、何者かが本人に成り済ましてるって事よ」
「そんな!」
やったのは十中八九アマノテウスの眷族。
コゴムール侯爵と自身の眷族を入れ換えてミリオネックに干渉を始めたのよ。自分が有利になるような条件を突き付けてね。
何しろミリオネックの考えは侯爵を通じてアマノテウスに筒抜けだから、交渉での失敗はあり得ない。
それでこれまで上手くやっていたと。
「てっきり本人が野心家でアマノテウスとグルになってると思ってたんだけどね」
「確かに侯爵様は野心家であり、自ら進んでアマノテウスの側についたと思ったのだが……」
それ、殺す必要なかったんじゃ……。
「まぁいいわ。邸に乗り込んでニセモノを処分しましょ」
バリィン!
さっそく3階の窓から侵入してみた。
入った部屋は無人で誰もいない――
「ギギギ……」
「ギュギュ……」
――なぁんて事はなかったわね。
さっそくスライムがお出迎えしてくれたわ。
「どぉれ、打撃に強いスライムがどこまで耐えられるかのぅ?」
グシャ! ズシャ! ドシュ!
椅子やテーブルに擬態していたスライムがこちらに迫るも、アンジェラの拳で次々と核を破壊していく。
このプヨンとした中心にある核を失うとスライムは消滅するのよ。
「おいアンジェラ、俺の分も残しやがれ!」
ブゥン!
モフモフも負けじと背負っていた小隊長を振り回し、スライムを破壊していく。
「ちょ――オブッ! やめ――ブフッ! スライムが――ガプッ! 顔に――ブムッ!」
「オラオラァ、この程度じゃ物足りねぇぜ!」
「物足りないのはいいからボスを探しに行くわよ」
部屋中の家具が無くなり陳腐になったところで通路へと出る。
ボスが居るなら奥の部屋だろうと当たりをつけ、通路にも湧き出たスライムを潰しつつ突き当たりの部屋までやってきた。
「アンジェラ?」
「この部屋にも居るのぅ。しかも他のスライムとはチョイと毛色が違うようじゃ」
どうやら当たりっぽい。
「っしゃあ! 俺が一番乗りだぜ!」
ドガッ!
モフモフが先行して扉を蹴破り、中へと突入した。
私とアンジェラも後に続くと、ゴージャスな室内をグルリと見渡す。
すると……
「ほぅ? こんな山奥に客人とは珍しい」
ぶら下がっていたシャンデリアがスライムとなり、ボトリと落下して人の形を作りだす。
半透明だったものがしっかりと色を帯始め、衣服を纏った禿老人が誕生した。
「アンタがここのボスで、コゴムール侯爵を殺した犯人ね?」
「いかにも。今でこそコゴムールと名乗っておるが、我の名はヒュージフェイクスライム。アマノテウス様の命令で侯爵に成り代わり、ミリオネックで破壊活動を行っている」
ヒュージフェイクスライムはCランクの魔物で、取り込んだ対象に成り済ます事ができるのよ。
「このような場所にノコノコ現れるとは不幸な奴らだ。ここを見られたからには生かしては帰せぬ――」
グググググ……
「おお? コヤツ、今よりも巨大化するつもりのようじゃぞ?」
「その通り。すでに邸全体は取り込み済みだ。我が本気になれば、貴様らなんぞ一口で飲み込めるのだ」
目の前の老人がみるみるうちに巨大化していき、壁や天井、床までもを溶かしていく。
このまま私たちを取り込むつもりらしい。
というか、侯爵の脛毛や溶けた頭皮とかが混じっててマジでキモい。さっさと片付けてしまおう。
「久々にデカイのをかましてやるわ」
「どうした? 今さら逃げようとしても無駄だぞ?」
「逃げるんじゃない、アンタを消すのよ――イグニスノヴァァァ!」
ドッッッパァァァァァァン!
巨大化した核を炎で包み込み、そのまま破裂させてやった。
「ギュォォォォォォ! か、身体が熔けていくだと!? き、貴様はいったい――」
「アマノテウスと敵対する者――それだけよ」
「ク、クソォォォ……あ……が……ノテ……ウス様、も……申し訳……ありま……」
最後まで言い切る前に、ヒュージフェイクスライムは消滅した。
「姉御、邸が元に戻っていきやすぜ」
「それはよかった。邸も消滅したら、新しく建て直さなきゃならないところだったわ」
私が消したと思われたらたまったもんじゃないもの。
ダンジョンを攻略したらミリオネックの最高権力者と会わなきゃならないし、マイナス材料は少ない方がいい。
「しかし、かの恐るべき魔物を倒してしまうあたり、お前たちは只者ではあるまい? いったい何者なのだ?」
「さっきも言ったけど、聞いたら生かしてはおけな――」
「あーあー、何も聴こえない。何も聴こえませ~ん」
「賢明ね」
ミリオネックに紛れ込んだ曲者は始末した。
後は戻ってダンジョン攻略の続きね。
「じゃあ小隊長、この邸は任せるから」
「了解しま――ってちょっと待て! なんだって俺がそんな事を!」
「だって他に適任者が居ないんだもの。あ、ダンジョンに残してきた隊員も連れてきてあげるわ。生きてたらだけど」
「ま、待っ――」
小隊長の拘束を解いて透かさずダンジョンに転送してきた。
小隊を監禁していた小部屋を覗くと幸いにも無事が確認され、まとめて邸に転送してやった。後は小隊長がやってくれるでしょ。
でもって、私たちはアマノテウスの元へと向かい――
「主よ、そろそろ昼飯の時間じゃ」
「頼みやすぜ姉御!」
「…………」
散々食い意地を見せておきながらまだ足りないらしい。
燃費の悪い車ってこんな感じじゃないだろうか。いや、車よりも遥かに役に立ってくれてるけども。
「しょうがないわね。ちょうど小部屋にいることだし、お昼にしようか」
「おお! 肉じゃぞ、肉を召喚するのじゃ」
「秘伝の垂でお頼みしやす!」
「はいはいっと」
テキトーに焼いた肉を召喚し、二人の前に並べる。
私は軽くサンドイッチでも……
「……来てるわね」
「ハグハグ――うむ。この小部屋は突き当たりじゃからの。通路を塞げば逃げられないとでも思ったのではないか?」
「ガツガツガツガツ――へぃ、肉は全て平らげやしたぜ? いつでも行けまさぁ!」
私たちをマークしていたようで、戻った途端に大量の魔物が近付いてきた。
多分他の階層の魔物までこっちに寄越してるんじゃないかな?
「歓迎会を開いてくれるみたいだし、存分に楽しんでちょうだい」
「うむ!」
「へぃ!」




