閑話:レジェンダ喫茶の眠り姫
「いらっしゃいませ~。レジェンダ喫茶にようこそ~!」
「お二人様ですね? こちらのペア席へどうぞ~」
「ポーションを5つですね、お買い上げありがとう御座います!」
「レイさん、ご指名入りました~」
「うげっ!? またテメェかよ……」
「ハァハァ……き、今日もその足で踏みつけてください!」
今日も天気がいいし、お客さんも多いし忙しそう。
だけどウチはマイペース。呼ばれるまではレジでお昼寝zzz。
「……マリオーネ、6番テーブルのお客がご指名。早く行く」
「ええ……」
開店早々、ウチの安眠時間が終了してしまった。
仕方なくエルフの子――エミリアに言われるまま立ち上がり、20歳未満の少年に見えるお客さんの下へ。
「や、やぁ、マリオーネさん」
「……どちら様?」
「あ、ぼ、僕とは初対面だよ。ただ僕は前からマリオーネさんを見ていたけれどね」
「……ストーカー?」
「いやいや、断じて違うよ。ただね、そ、その……前からか、か、か、か……」
「……???」
「かわ……かわ……」
……かわ? つまりは皮の事? もしや寝不足で皮が萎れてるとか言いたい?
けれど見たところどこにも異常は見受けられない。
うん、ちょっとだけ安心した。萎れてたら睡眠時間を倍にしなければならないところだった。
「……コホン。じ、実はね、一目みた時からキミがす――」
「は~い、ご注文のジンジャーエールだよ!」
「――き~ききき!」
「じゃあごゆっくり~!」
……シェーラの声に遮られてよく聴こえなかった。
「……もう一度プリーズ」
「え、えっと、その……ングングング――」
……何を思ったのか、ジンジャーエールを一気飲みした少年。
空になったグラスを置くと、再びウチに視線を合わせてきた。
「そ、それじゃあ改めて言うよ。僕は前からキミの事がす――」
「は~い、ご注文のナッツサラダだよ!」
「――きっともっとずっとだよっと!」
「じゃあごゆっくり~!」
……またまたシェーラの声に遮られてよく聴こえなかった。
「……もう一回いっとく?」
「う、うん、ちょっと待ってて――ハグハグハグハグ……」
……何を思ったのか、ナッツサラダを一気食いした少年。
空になった皿を置くと、再びウチに視線を合わせてきた。
「ふぅ……。それじゃあ改めて言うよ。僕は前からキミの事がす――」
「は~い、ご注文のアイスパフェだよ!」
「――き、からの~っと!」
「じゃあごゆっくり~!」
……三度目の正直ならず、シェーラの声に遮られてよく聴こえなかった。
「……まだ他にも注文してる?」
「いや、大丈夫。これで最後だから、もうちょっとだけ待ってて――ハッグハッグ……うっ頭が!」
……アイスパフェの一気食いでキーンときたらしい。
あれ、眠気が吹っ飛ぶから嫌なんだよね。
「ふぅ……ごちそうさま」
「……お粗末さま。それで話の続きは?」
「あ、うん。それなんだけど、まだ自己紹介がまだだったね。僕はラスターっていう者で、ここフランツの東側に住んでるんだ」
「……ご近所さん?」
「少し離れてるけれど、遠すぎってこともないくらいかな? まぁ通い易い方だよ」
どうやら常連客らしい。
こういう人は大事にしろってアイリも言ってたし、キチンと接待しよう。
「新装初日にも来たんだけどね、その時に偶然見かけたマリオーネさんが気になっちゃってさ、こうしてちょくちょく来てるんだよ」
「……気になる?」
「そう、気になってるんだ。キミの美しいエメラルドグリーンのツインテールに引かれ、更にはすぐにでも閉じてしまいそうな眠気眼もチャーミング。そこで僕は気付いた。これは間違いなく恋――」
「お待たせしました~。卵かけパフェ・マスタードとタバスコの悶絶コラボのトッピングで~す」
うげ……。この人こんなもの食べるんだ?
「ちょ、ちょっと待って。僕は注文した覚えはないよ?」
「あれ? でも確かに――」
「ちょっと~、そこのピンクのお嬢さ~ん? ソレはあたしが注文したやつよ~ん♪」
「あ、ゴメンなさい、間違えました!」
ユーリアが間違って持ってきたらしい。
そういえば前にもあったっけ?
あの時は確かエールとビールを間違えて、ビールを飲んだお客さんが「これうめぇ!」ってなって、結果オーライだったけど。
「……それで、何だっけ?」
「あ、え~と……うん、何でもないんだ。気にしないでくれ。はぁ……」
「……?」
……気にするなと言われると余計に気になるなぁ。
だけど今は気にしないことにする。平和すぎて眠くなってきたから。
「……お客さんお客さん、今から睡眠とってもいい? なんだかとっても眠いの」
「あ、そうか。もう昼前睡眠の時間だもんね。うん、ここで寝てもいいよ」
「……サンクス」
優しいお客さんでよかった。
でもまさか昼前睡眠の時間を把握してるとは、ちょっとだけ親近感が湧く。
「こうして眠り姫を近くで見れるなんて……フフ、僕は幸せ者だなぁ」
「……眠り姫?」
「うん。マリオーネさんはいつも眠そうにしてて、他の店員の隙をみて寝てるって有名なんだよ?」
……一般客がどう呼ぼうと勝手だけど、気付かれてるのは不覚。次からは注意しよう。
「ところでマリオーネさん。よよよ、よかったらその……」
「……?」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕が膝枕――」
ゴスッ!
「……イタッ」
「……イタッ――じゃないです。みんな真面目に働いてるのに、1人だけ昼寝とはいい度胸ですです。そのまま寝るんならエレインにチクってやるですですです!」
……シュガーが肘鉄食らわしてきた。
この金髪三つ編み、後で絶対泣かしてやる……。
「……邪魔が入って眼が覚めた。それで……何だっけ?」
「ああ、うん、何でもない。何でもないんだ、ハハハハハ……」
……さっきから煮え切らないなぁ。
「……ラスターさん? 言いたいことはハッキリと言ってくれると助かる。こう見えて(寝るのに)忙しいんで」
「え……そ、そうか……うん、そうだよね、うんうん――コホン!」
わざとらしく咳払いをすると、またまたウチの方に向き直る。
「マ、マリオーネさん! よかったら僕と、つ、つ、つ……付き、付き、付き――」
「付き合ってられっかこんなの!」
「――だぁぁぁ違う、そうじゃない!」
「……?」
今度はレイの台詞と被ってよく聴こえなかった。
というか、レイはどうしたんだろ?
「踏めだの叩けだの、俺をなんだと思ってんだ!?」
「レイ女王様です!」
「やかましい!」
ゲシッ!
「ありがとう御座います、ありがとう御座います」
「だから喜ぶのをヤメロ!」
なんだ、いつも通りのレイだった。
これだから暴力女は――って言いたくなるパターンだね。
「……それで、話の続きだけど――」
「いや、いいんだ。僕も少し休むとするよ。なんだかとっても眠いんだ……」
そう言ってラスターはテーブルに突っ伏してしまった。
これはもしやウチへの挑戦? ならば受けて立つしかない!
「zzzzzz」
「ん、どうしたのマリオーネさん? 具合でも悪いのかい?」
フッ、どうやらウチの圧勝のようだ。
というか寝てるのと具合が悪いのと区別がつかないとか、この少年もまだまだ甘い。
……あ、本当に眠くなってきた。シュガーも近くにいないし、このまま――
ビクッ!
「こ、この感じは!」
「どどど、どうしたのマリオーネさん!?」
この気配は間違いなく幻王のもの。
奴め、また懲りずに従業員を物色してるに違いない。
どこだ……どこにいる!?
「ん? アンタは確か――幻王だっけ? テーブルの下で何やってんの?」
「バ、バカ、マリオーネに気付かれ――」
「そこだーーーーーーっ!」
ドゲシッ!
「ヘブポッ!」
「このポンコツ野郎、ウチというものが居ながら何をやっている?」
「」チーーーン
「マリオーネ、そいつ意識失ってるわよ?」
おっといけない。ついつい本気を出してしまった。
仕方ない。このまま医務室に運ぼう。
「あ、あの~、マリオーネさん。その人とはどういうご関係で……」
「……恋人未満?」
「え"?」
「……色んな女にフラフラと付いてくから、ウチとしては気が気じゃない」
「そ、そうだったんだ……ハ、ハハ、ハハハハハ……」
ラスターとの会話をテキトーに流し、気絶した幻王を背負う。
ちょうど近くに居たリーゼにラスターの接待を押し付け、医務室へと急いだ。
運んでから店内に戻ると何故かラスターはいなくなっていて、ウチに気付いたリーゼは肩を竦めて頭を振る。
「惜しい事したわね。あの少年、もう二度と来ないと思うわ」
「……なぜ?」
「そりゃあねぇ、好意を寄せている相手に意中の人がいたら諦めるしかないじゃない?」
「……?」
よく分からないけれど、常連客を1人失ったらしい。
「ま、どのみち知り過ぎると取り込むか排除するかの二択になるし、これでよかったんじゃない?」
よく分からないけれど、これでいいらしい。
「それよりマリオーネ、2番テーブルのお客様をお願いね――あ、いらっしゃいませ~!」
「……はぁ」
よく分からないけれど、忙しいのは当分続くらしい。
睡眠時間足りるかな……。




