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そのころのアイリーン

「じゃあ行ってくるわね」

「行ってらっしゃいアイリちゃん!」

「お土産も頼みますわよ」


 ツァールズって人に呼ばれたアイリちゃんが、プラチナキャリアーに出発した。

 その間あたしはダンジョンの改築を進めることに。


「さ、今日もダンジョン運営ガンバロー!」


 最近アイリちゃんは外の出来事で忙しいみたいで、アイリーンの方は見る隙がなさそう。

 だからあたし――ミラクルは決めた。いずれアイリちゃんが落ちついた時、見違えたアイリーンを見せてやろって。


「頑張るとは言いますがマスター、現在のDPをご存知ですか?」

「……1056ポイント?」

「分かっているなら結構ですが、問題はこの数値を大きいととらえるか小さいととらえるかです」

「う~ん……」


 なるべくアイリちゃんには頼らないって決めたから、食費は自分で負担することにしたんだよね。

 そうすると1日で約50ポイント消費するから、持って20日くらい。

 つまり……


「……全然足りない?」

「そういう事です。アイリ様も仰ってましたが、ダンジョンを拡張する前にDPを安定供給できる仕組みを作る必要があるのです」

「それって侵入者をダンジョンで監禁したりするって事だよね?」

「早い話そうなります」


 悪徳商人と悪徳冒険者は殺しちゃったし、今あてになる収入は……


「奴隷商から解放したエルフの子たちからDPが入るよね?」

「入ったところでエルフたちを養うんですから、どのみちDPは減ります」

「あ、そっか……」


 このままじゃマズイ。何とかして現状を打破しないと。


「そうだ! フランツの拠点にいる構成員の人たちをダンジョンに招待するのは?」

「彼らは彼らで仕事に追われています。レジェンダ商会の立ち上げと情報収集に勤しんでいるのに、ダンジョンで軟禁するおつもりで?」

「そっかぁ……」


 お仕事の邪魔しちゃ悪いもんね。


「じゃあレミットさんに分けてもらう?」

「根本的な解決になっていません。そもそもドケチなレミット様が分けてくださると?」

「う……確かにあのドケチさは――」

「わたくしの悪口を言ったのは誰!?」


 やばっ、レミットさんが地獄耳なの忘れてた!


「ミラクル、エレイン、貴女たちね!?」

「悪口だなんてとんでもない。わたくしはただ、レミット様がDPを分けてくださらないかとシミュレートしただけです」

「なぜわたくしのDPを与えなければ――」

「その結果、レミット様は分けてくださらないだろうという結論に至ったまでです」

「…………」


 あ~言っちゃった。

 でも分けてもらえたとしても、根本的な解決にはならないし……。


「それともわたくしのシミュレートが間違っていると仰るので?」

「う……く……ま、間違ってますわ。ええ、大いに間違ってますわよ。そもそも分けないなんて一言も――」

「え? じゃあ分けてくれるの!?」

「え……ええ。そ、そうですわね。わたくしを負かす事ができれば、恵んであげてもよろしくてよ」


 やった、これで少しはDPが手に入る!




「はい、チェックメイトだよ!」

「ムッキィィィ! もう一度――もう一度ですわ!」


 結局アイリちゃんが用意したチェスで勝負することになって、これであたしの10連勝。

 1試合で100ポイントのレートだから1000ポイント貯まったよ!


「レミット様。そのへんでお止めになられた方がよろしいのでは?」

「何を仰いますか! このままではわたくしの敗北は決定的ではありませんか!」

「ではこうしましょう。次の勝負では1000ポイント賭けるのです。これでレミット様が勝利すれば負けはなくなります」

「よろしくてよ。華麗に勝利して見せますわ!」



「はい、チェックメイト!」

「…………」

「レミット様、振り込みはお早めにお願い致します」


 自慢じゃないけど、今までレミットさんに負けた事ないのに急に負けるなんてあり得ないもんね。


「ではお帰りはあちらです」

「こ、こんな……はずでは……」フラフラ


 まるで魂が抜けかかったようなレミットさんが、エレインの誘導で自室へと戻っていく。

 なんか悪いことしたような……。


「上出来ですよマスター。効率よく稼ぐにはカモは必需だと、異世界から取り寄せた書物に記載されておりました。これからも適度に徴収しましょう」


 ゴメン、レミットさん。

 後で犬の物真似するから許してね。


「次は幻王様のところへ参りましょう」

「幻王さんにも勝負を挑むの?」

「いえ、彼に対してはちょっとしたネタがありますので」


 何やら考えがあるらしく、エレインと共に幻王さんの自室へ。


「少しよろしいでしょうか、幻王様」

「むむ? エレインにミラクルか。僕に何か用かい?」

「はい。是非とも幻王様にご覧いただきたい物が御座いまして――」


 そう言ってエレインが手にしたのは一冊の書物。

 確かアイリちゃんの眷族ホークさんが、コアルームで待機してる時に読んでた物だよ。


「ふむ。よく分からんのだが、この書物がどうかし――ブッ!?」

「げ、幻王さん!?」


 パラパラと流し読みを始めた幻王さんが突然吹き出す。

 いったい何が書かれてるんだろ? 

 タイトルは【ドキッ! 夏~い暑の水着美女特集、ポロリもあるよ!】って書いてあったけど、そもそも水着って何? よく分かんないや。


「いかがです? よろしければDPでお譲りいたしますが」

「言い値で買おう。いくらだい?」

「3000ポイントで――」

「買う」


 即決した! そんなに凄い書物なの!?


「その代わりマリオーネには黙っててほしい。バレたら物理的に首が跳ぶ」

「では追加料金で1000ポイントを――」

「払う」


 よく分からないけれど、マリオーネさんには秘密らしい。

 でも仲間外れはよくないし、後でこっそり教えてあげよっと。


「ねぇねぇエレイン。あの書物っていったい何なの? 価値のある物なら大事に保管しといた方が……」

「殿方しか喜びませんのでご心配なく。特にマスターがご覧になられると自信喪失に繋がる恐れがあるため、回覧はおすすめできません」

「自信喪失!?」


 それは嫌だなぁ。

 じゃあ幻王さんにあげちゃってもいいや。


「さ、どんどん参りますよ。次はマリオーネ様です」

「今度はどうするの?」

「マリオーネ様の場合は独自戦法でいこうと思います」


 何をするのかと思いきや、エレインが用意したのは大きな――鐘?

 それをマリオーネさんの部屋に設置すると、扉を閉めきった。


「念のためマスターは耳を塞いでてください」

「うん……」


 耳を塞ぐように言うってことは、つまりは鳴らすってことで――



 ゴーーーーーーン!


「うがーーーっ! 何なのよも~ぅ……」


 予想通り、眠気眼を擦りつつ上体を起こしたマリオーネさん。

 透かさず鐘をしまったエレインは、口の端を吊り上げ耳元で(ささや)いた。


「マリオーネ様、随分と(うな)されていたようですが、お気分はどうですか?」

「最悪だよも~ぅ。デッカイ鐘を目の前で突かれたかと思ったもん……」


 寝ていたはずなのに、正確に感知してるんだね……。


「ほほぅ、それは災難でしたね。さて、そんなマリオーネ様にお知らせです。今回ご案内しますのはこちら、安眠アロマです」


 またしても懐から取り出したのは黄緑色の液体が入った小さめの薬瓶で、蒼い花を数本差してあるオブジェのような物だった。


「……何その胡散臭いのは?」

「胡散臭いだなんてとんでもない。これはアロマと呼ばれるもので、植物から抽出した香り成分によりリラックス効果をもたらす素晴らしいアイテムなのです」

「リラックス……効果?」

「はい。リラックスできるという事はイコール安眠に繋がると――」

「買う! 買います!」


 凄い! 安眠できると知るや否や、そっこーで商談が成立しちゃった!


「ではDP3000ポイントに――」

「た、高い……。せめてもう一声!」

「2900ポイントでどうでしょう?」

「…………買う!」

「お買い上げ、ありがとう御座います」


 幻王さんの時もそうだったように、このマジックアイテムも貴重じゃないのかな?


「ねぇエレイン。いったいどこで調達したの?」

「調達もなにも自作ですが?」

「自作!?」

「ダンジョンの外に生えていた雑草を刈り取り、()り潰したものです。ボーションでも作ろうかと思ったのですが、ちょうど良かったです」

「……それって効き目あるの?」

「さぁ? こういうのは気持ちの問題ですからね。効くと思えば効くのでは?」


 そんなテキトーな……。


「それよりどうです? 8900ポイントも貯まりましたよ」


 凄いや、一時間足らずで8900ポイントも稼いじゃうなんて!

 でも……


「よく考えたら、仲間から巻き上げても意味ないんじゃ? どうせ助け合うんだし」

「……コホン。次の作戦に移りましょう」


 次があるのかな……。


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