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ツァールズ伯爵ご対面

 グレイの復讐は一応の決着となった。

 あの村は焼き討ちにあったように見せ、目立つところに【アマノテウス参上】っていう張り紙もしたし、私たちへと目が向くことはない。

 工作が簡易すぎ? この世界にそこまで熱心に調べるヤツは居ないと断言するわ。


 それから一週間。ついにツァールズ伯爵が動いた――というか、向こうから接触してきた。

 気になる内容は……


「レジェンダ商会の代表者を招待?」

「うん。グラハトーヤ子爵から使者が送られてきて、ツァールズ伯爵から招待状が届いてるとかでコレを持ってきたよ」


 コアルームに訪れたルトから書状を受け取り、その場で広げてみる。


「え~と……」


【此度の再興は例に見ない素晴らしいものであった。()()()()()()()()()、儀式を成功させたのはレジェンダ商会が初めてである。そこでだ。是非とも直接話がしたいと思い、この招待状を送らせてもらうことにした。共に新たな門出を祝おうではないか】


「まるで()()()()()()()()()()()()ような台詞ね」


 それに門出を祝うとか、心にもない事を言わないでほしいわ。だいたい――あれ? まだ続きが書かれてる。


【そうそう、キミのところに身を寄せているグレイ君にもぜひ来てほしい。再会を望んでいる兄弟が居るのでね。ではモルネデートで待っているよ】


 最後にツァールズ伯爵の署名がされてある。

 子爵も確認してるだろうし、本人の署名で間違いなさそうね。

 ライバル商会なら無視するところだけど、相手が伯爵とあっては立場上無視するわけにもいかないか。


 それにグレイの兄弟の話よ。

 確かシド――だったかな? 専属護衛をやってるの。

 ルトだけじゃなくグレイまで連れてく羽目になったわ。


「今回は護衛として私がついてくわ。大船に乗ったつもりでいなさい」

「そ、それはありがたいんだけど、アイリさんと2人きり?」

「いや、グレイも一緒――」

「そ、そうか……ア、アイリさんと2人きりなんだ……2人きりの旅……」

「お~い、ルト~?」


 なぜだかルトの意識が明後日の方向に行ってしまった。

 宙を眺めてしきりに2人きりを連呼していて、グレイも一緒だという部分は耳に入ってないらしい。

 さて、そんなルトに残念なお知らせ。


「別に旅はしないわよ?」

「……へ?」

「いつでもモルネデートに転移できるんだから、わざわざ街道歩いて馬車乗って――なんて真似はする必要ないもの」

「そ、そうなんだ……」


 はいそこ、露骨にガッカリしない。

 時間を短縮できるんだから喜ぶところよ。


「相変わらずアイリ様は堅いですね。どのみち時間調整で今すぐ転移できないのですから、馬車に揺られながら向かうのも一興かもしれませんよ?」


 紅茶を運んできたエレインに、やや呆れ気味に言われてしまった。


「うむ。その意見には僕も賛成だ。アイリ君はもう少し遊び心があってもいいと思うぞ?」


 エレインの後から現れた幻王にも言われる。

 というかコイツ、頬に紅葉マークが付いてるのを見るに、()()エレインに手を出そうとしたわね。


「そうかもしれないけど、敵地に乗り込むのに観光気分じゃいられないわ。どうせなら王都のマリーベルに会いに行く時でもいいでしょ」

「じ、じゃあ、王都に行く機会があったら僕も連れてってほしい!」

「……うん、まぁ機会があったら――」

「やったぁ!」


 ――考えてもいいって言おうとしたら、なぜか行くような雰囲気にされた。

 落ち着いたら実行するのも悪くないか。


「ところで聞いてください。幻王様ったら言葉巧みに近付いてハグをしようとしてくるのです。このハレンチな行動はどうにかならないのでしょうか?」


 そこで私に聞かれても困るんだけど……。


「いっそのこと、フィアンセになっ――」

「絶対に嫌です」


 はい、そっこーで幻王終了のお知らせ。


「僕の何がいけないんだい? せっかく同じダンジョンに居るのだから、親睦を深めるのは必要不可欠だよ?」

「親睦以前の問題です。少しはマリオーネ様のお気持ちを考えるべきかと」 

「「 マリオーネ?」」


 幻王とハモってしまった。

 でも何故にマリオーネ?


「アイリ様もでしたか……。ですがこれは他人がどうこうすべき事ではないため、わたくしの口から申し上げることはできません」

「ふむ……よく分からんが、このままだとマリオーネに迷惑がかかると。アイツに殴られると痛いし、自重するのもやむ無しか」


 いつも眠そうにしてて忘れがちだけど、マリオーネはヴァンパイアなのよ。

 基礎ステータスはかなり高めだから、本気で殴られたら幻王なんかは一撃で死ぬわね。


「はい。眠りの女王を起こしてはいけません。――いえ、マリオーネ様の場合は起こそうとしても起きませんね……コホン。とにかく、手をお出しになるならマリオーネ様だけになさるべきでしょう」


 だから何故にマリオーネ?


「……ますます分からんが、マリオーネならOKだと?」

「はい。その方がマリオーネ様も喜ばれると思いますので」

「ふむ……そこまで言うのなら、マリオーネに的を絞るとしよう」


 ――という感じにエレインに誘導された幻王でしたっと。

 理由? 私にも分からない。

 まさかマリオーネが幻王を好きだとか――いや、まさかね?


『アイリ様、再びグラハトーヤ子爵から使者が送られてきました。ツァールズ伯爵の要望により馬車を用意したそうです』


 ギンからの念話により嫌な予感を覚える。

 わざわざ馬車を用意させるとか、襲撃する気満々じゃない?


「ルト、予定変更よ。今から馬車で向かうから、すぐに準備して――」

「ホントに!? やったぁ、アイリさんとの2人旅だーーーっ!」

「……いや、だから2人旅じゃ――」


 どうやら都合が悪いことは耳に入らないらしい。

 こんなんで大丈夫だろうか……。



★★★★★



 子爵を待たせるのも非礼かと思い、用意された馬車の下へと参じた私たち。

 御者は子爵の使用人に任せてモルネデートの街へといざ出発。


「――で、なんでグレイもいるの?」

「いや、お前の専属護衛なんだから居るのが当たり前だろ」

「はぁ……」


 なぜだか露骨なため息をつくルト。

 そんなルトを不思議そうに眺めたグレイは、困り顔を私へと向けてきた。


「なぁアイリ、なんでルトのやつ機嫌が悪いんだ?」

「さぁ?」


 馬車の旅(2日で着く距離だけど)を喜んでたと思ったら急にローテンションになるんだもの。これは本人にしか分からない事よ。



 そんなルトは置いといて、道中で襲撃される事もなく魔物との遭遇もなく、至って平和な馬車の旅だった。

 案外拍子抜け? まぁ手が掛からない方がありがたいか。

 2日目の昼間に無事ツァールズの邸に到着すると、すんなり中へと通され応接室にて伯爵を待つ事に。


「道中は驚くほど平和だったな。てっきり襲われるものだと身構えちまったが」

「油断しちゃダメ。元々道中で襲うつもりがなかっただけかもしれないし、言わばここは敵地なんだからね?」


 とは言え、出された紅茶と茶菓子に毒の反応はないし、見張られてる気配も感じない。

 もしかして罠というのは考えすぎ?

 いや、まだまだ油断できないわ。



 ガチャ!


「やぁやぁ、待たせてすまなかったね。私がモルネデートの領主であるツァールズだ」


 護衛1人を伴い、白髪交じりの初老の獣人が入ってきた。

 この男がレジェンダ商会の再興を邪魔した張本人よ。


「こちらこそ、再興した身でありながらもお招きいただき、大変恐縮です。わたくしがレジェンダ商会の会長を勤めるルトで御座います」


 ……最初の頃のオドオドした雰囲気がまったく感じられず、一度も噛むことなく言ってのけたわ。

 これもエレインによる教育のお陰かな?


「そして付き添いで参りましたのは経理担当のアイリと、専属護衛であるグレイで御座います」

「アイリです。以後お見知りおきを」

「ど、どうも……」


 なぜか打ち合わせにない経理担当という座を押し付けられた。

 そういう面倒なのはレミットに振ってほしいわ。

 (おだ)てたら簡単に引き受けてくれるだろうから。


「うむうむ、若いのに大変しっかりとしておる。これならレジェンダ商会の未来は明るいだろう。――のぅ、シドよ?」

「はい。自分も同意見です。我が弟が彼の専属護衛というのも鼻が高いです」


 透かさず護衛に鑑定をかける。うん、確かに熊獣人のシドと出たわ。

 こうなるとシドの思考が重要になってくる。

 鼻が高いといいつつも、本心ではどう思っているのかが気になるところよ。


「どうだね? たまには兄弟水入らずで語らうのも良いだろうし、一晩泊まっていくとよいだろう」

「えっ……」


 冷静だったルトが思わずたじろぐ。

 まさか泊まってけと言われるのは想定してなかったらしい。

 ここは助け船を出さなきゃ。


「お言葉ですがツァールズ様。我がレジェンダ商会はオープンを目前に控えてる状態でして、店舗を放置して我々だけが楽しい思いをするというのは――」

「ほほぅ、ますます気に入った。是非その勤勉さを買おうじゃないか。もちろん金貨でだ」


 パンパン!


 ツァールズが手を叩くと執事がズタ袋を持って現れ、私たちの目の前へと静かに置く。

 ドサリという重い音を聴くだけでも大量の金貨が詰まっていると分かるわ。


「開店祝いだ。もちろんオープンが遅れるのを加味した金額にしてある」


 マズったなぁ……これじゃあ断れない。

 もしここで断ればツァールズの顔に泥を塗ることになるし、下手すると不敬罪よ。


「そこまでして頂いては断るわけにはいきません。お言葉に甘えてお部屋をお借りします」

「うむ。今夜のディナーも豪勢にするゆえ、楽しみにしていたまえ」


 不本意ながらもツァールズの邸で1泊することになった。

 コイツ何を企んでるやら……


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