ダンジョン跨ぎ
傭兵と獣人を撃退してから3日後。
ダンジョンのコアルームで寛ぎつつ、逃走中であるグレイの両親を追跡していた。
「う~ん、さすがに魔女の森は脱出しちゃったか」
モニターに映っているのはエアーバットの視点から見た映像よ。
途中で何度か魔物と遭遇するも自慢の脚力で逃げきり、みごと魔女の森を抜け出していったわ。
「さすがはカゲマルさんだね。強い魔物と遭遇しないルートをキチンと割り出して誘導したからだよ」
「ミラクルの言う通りね。カゲマルの手引きがなかったら5日は掛かるもの。そう考えればホントに優秀な人材だわ。グレイには悪いけれどね」
「構わないよ。むしろ無事に戻ってくれた方がありがたい。トドメは俺が刺したいからさ」
そうよね。殺されそうになったんだもの、死をもって償わせるのが妥当よ。
「では華麗に勝利してくださいませ。勝利した暁には、わたくしが豪華なディナーを用意しますので」
「……なんでレミットが?」
「多分だけど、DPがいっぱい入って機嫌が良いんだと思うよ」
ああ、そういう事。
1階層はレミットが受け持ってるから、傭兵や獣人が死んだために大量のDPが加算されたのね。
「だいたいレミットさんばっかりズルいよ? あたしやマリオーネさんには1ポイントも入ってないのに」
「……ミラクルに同意。ウチらへの分け前を要求する」
「お黙り。この前まで捕らえていた冒険者の時は貴女たちに入ったじゃありませんか。それにわたくしの日頃の行いが良いからこそ、このような結果になったのです」
日頃の――ねぇ……。
いっつもヒステリー起こしてる印象しかないんだけどなぁ。
「アイリちゃ~ん、レミットさんが意地汚いこと言ってる~」
「な!? 誰が意地汚いですか!」
「……アイリぱいせん、レミットにお仕置きプリーズ」
「誰がぱいせんよ……」
――って、そんな事はどうでもいい。今はあの二人を注視しないと。
「あ、荒野の先にある街に入るみたいだよ?」
「この街は……モルネデート?」
二人が入ったのは、フランツから東の死の谷を越えたところにある街――モルネデートだった。
物資の調達でもするんだろうか?
「そういや長男のシド兄さんは貴族の専属護衛になったって聞いたよ。もしかしたらこの街にいるのかも」
可能性はあるわね。
長男を使って貴族に支援要請という流れなら想像できる。
ちょうど宿に入ったし、エアーバットを屋根に張り付かせて会話を拾ってみよう。
『上手くいくかしら?』
『いってもらわねば困る。なにせ我が村が未曾有の危機に瀕しているのだ、ここで潰えればプラチナキャリアーにとって多大な損失となるだろう』
「また随分と大げさよね? まるで自分たちが居なきゃ成り立たないみたいな言い種じゃない」
「ですが名声が高まっているのでしょう? なら間違いとは言い切れませんわ」
その名声とやらがどこまで影響するかよね。
『シドを通してツァールズ伯爵からの支援を受けれれば、騎士団を動かしてくれるやもしれん』
『騎士団は遠征に出ていると門番は言ってましたが……』
『間の悪いことだが仕方あるまい。戻りしだいあのダンジョンを……』
『でもアナタ、ダンジョンもそうですが、グレイを引き入れられないかしら?』
『生捕りにすれば問題あるまい。名誉がどれほど重要かを言い聞かせれば、いずれは分かってくれるだろう』
予想的中ね。
そしてツァールズ伯爵といえば、コルザレスと裏で繋がっていた悪徳領主よ。
上手く行けばまとめて潰せるかもしれない。
「レジェンダ商会の再興も邪魔されたわけだし、上手く罠に掛けれれば……」
「何か具体的な策でもありますの?」
「今考えてるとこ」
ツァールズ伯爵とソイツに関わってる闇ギルド、そして獣人村。
これらをまとめて潰すには……
『アイリ様、カゲマル経由の新しい情報が入りました』
おっと、ギンからの念話だ。
『ツァールズ伯爵や闇ギルドに関わる情報なら大歓迎よ』
『ならば御納得いただけるはずです。ご存知の通りフランツの騎士団がマリオーネ殿のダンジョンに遠征して逃げ帰ってるわけですが、これの代理討伐という形でモルネデートの騎士団が派遣されたそうです』
モルネデートだからツァールズが関わってるのは確定ね。
向かった先はマリオーネの――ん? 派遣されたって言った?
『ギン、派遣されたのはいつ?』
『一週間ほど前だと聞いております』
『一週間も前なの!?』
それはおかしい。
モルネデートからマリオーネのダンジョン跡地までは2日も掛からない。
現地にはダンジョンが無いわけだし、引き返してるならすでに戻ってきてるはず。
あの夫婦の会話から騎士団が戻ってないのは確定している。
なら騎士団はどこに?
ビー! ビー! ビー!
「あ、ダンジョン通信だ」
このタイミングでの通信。
凄く嫌な予感が……。
『幻王さん、お久しぶ――』
『すまないミラクル、何の前触れもなく騎士団が攻め込んできたんだ。大至急救援を要請したい!』
『え、き、騎士団が!?』
モニターに映っているのは、渋い顔をした青髪の青年だった。
『もしかしたらこれが最後の会話になるかもしれない。間に合わなくても責めたりはしないから、どうか安心してほしい。では……』
『あ、ちょ、ちょっと幻王さん!?』
悲壮感漂よう台詞を最後に、通信は切られた。
確か幻王のダンジョンは東の方だったわよね?
ならモルネデートの騎士団がそのまま南下して攻め込んだんだわ。
「あわわわわ、どどどどうしよう! 助けるにも今からじゃ――」
「そ、そうですわ、ここからじゃどんなに頑張っても3日は掛かりますわよ」
「……寝る間もないとは正にこの事」
取り乱す3人。
そしてマリオーネだけは微妙にズレた事を言ってるような……って、そんなことはいい。
「3人とも落ち着いて。救援なら私が向かうから」
「ア、アイリちゃんが?」
「言ったでしょ? 一度見た場所なら転移できるって。今映っていた渋い青年のいる場所なら転移できるのよ」
モニター見てなきゃアウトだったけどね。
「凄い、さすがアイリちゃん!」
「アイリにかかれば何でもありですわね」
「……果報は寝て待て」
ミラクルとレミットはいいとしてマリオーネ、アンタは寝てるだけで何も――いや、この場合は正しい――のかな?
「そういう訳だから幻王は私に任せて、みんなはツァールズ伯爵とあの二人を見張ってて」
「うん、分かった!」
★★★★★
「よっと、こんにちは幻王」
「な!? だ、誰だ!?」
「ゴメンゴメン、私はミラクルの仲間よ。救援が必要だって聞いたから飛んできたの」
「ミ、ミラクルの……」
ミラクルの名前を出すと、一応は納得してくれたみたい。
「いきなりコアルームに転移して悪かったわね。でも緊急時だし大目に見てちょうだい」
「あ、ああ……。し、しかしキミは何者なんだい? 仲間というからには眷族ではないのだろう?」
「これでもダンジョンマスターよ。訳あってアイリーンに居候してるけどね」
シューーーン!
「!?」
そう言ってスマホをちょちょいと操作し、グレーウルフを召喚して見せた。
「どう?」
「な、なんと! 自身のダンジョンではないにも拘わらず魔物を召喚するとは!」
ややオーバーな気がしなくもないけれど、あんぐりと顎を開けて目を見開く幻王。
ちょっとちょっと、そんなに驚いてる場合じゃ……
「す……す……す……」
「……す?」
「素晴らしーーーーーーい!」
ムギュ!
「どわぁ!?」
ちょ、ちょっとコイツ、いきなり抱きついてきんだけど!?
「なんて素晴らしいスキルなんだ! キミこそは僕の希望――いや、僕の天使――いやいや、僕の女神だーーーっ!」
ムギュギュギュ!
「ちょ、離せ――離しなさい!」
「いいや離さない。もう僕はキミなしでは生きていけないんだ!」
「いいから離せっての!」
「いいや、キミがフィアンセになるまで、僕はこの手を離さない!」
「何でいきなりフィアンセなのよ!? そういうのはちゃんと手順を踏んで――」
「なら友達から始めよう。そしてスキンシップのハグだ!」
「やってる事が変わってない! つーかいい加減にしなさーーーい!」
ゴツン!
「痛いです……」
「どこぞのミラクルみたいな反応するな!」
しかしなんつ~激しい性格なんだろ。
出会って間がないっていうのに。
ピピピピ! ピピピピ!
「むぅ? ……ぬぉっ!? 早くも2階層が突破されてしまった!」
「アンタが暴走するからよ」
モニターを覗き込むと、甲冑を着込んだ連中が3階層へと足を踏み入れるところだった。
彼らの前方には斥候の役割を担ったであろう軽装の連中もいて、本格的にダンジョンを攻略してやろうという意志を感じる。
「どれくらい耐えれそうなの?」
「3階層と4階層は迷路にしてあるから1日は耐えれると見ている。5階層はコアルームのみだから4階層を突破されれば後がない」
なら充分ね。
「ここから反撃するわよ」
「すまない、アイリ君。見事撃退した暁には、僕の身体を好きにして――」
「いらないからね?」
さて、幻王の相手するのも疲れるし、さっさと終わらせてやろう。




