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名誉の戦死

「ここがボス部屋のようだ。各々、準備はよいか?」


 先頭に立つ熊獣人の男が振り向きざまに問うと、後ろの面子は静かに頷く。

 この男こそグレイの父親にして獣人部隊のリーダーなのだ。


「いつでもよいぞ? なんだったらワスが代わりに突撃したいくらいだわぃ。息子のライオネルとは違い、勢いに任せるだけが戦いではない事を証明するぜよ!」


 グレイを殺そうとした主犯ライオネルの父親もおり、突撃したくてウズウズしている。


「ちょっとアナタ、連携が大事なのだから少しは自重しなさいな。そんなんじゃライオネルと変わらないわ」

「そうじゃぞ? お主も自重できんのなら、息子の事をとやかく言えんじゃろ」

「でも久々の戦闘依頼だもの、気が高ぶるのも分かるわ。あたしだって娘のニアに負けたくないもの」


 グレイの幼馴染みであった猫獣人ニアの両親も居り、自分の子供には負けないと対抗意識を燃やしていた。


「ほれ、はよぅ行こうぞ。血に踊る戦いが我を呼んでおる」

「そうだプギ。前座はもう終わりだプギ」


 他の獣人も血気盛(けっきさか)んな様子であり、ボス部屋の扉を睨みつけ闘志を燃やす。

 傭兵からは弱小ダンジョンにしては難易度が高いと聞いていたが、当初はそこまで気にしていなかった。

 しかし実際に難所だと感じとり、ならば是が非でも攻略してやろうと考えるのは自然というもの。

 多数決の結果、全会一致で攻略続行が決まったのである。


「ならばゆこう。但しCランク以上の魔物と遭遇したら一時撤退だ」

「「「了解」」」


 バァァァン!


 扉を勢いよく開け放ち、ボス部屋へとなだれ込む獣人たち。

 待ち構えていたのはゴブリンナイトをリーダーとするゴブリンパーティで、こん棒で武装したゴブリンが正面に整列し、その後ろには弓を構えたゴブリンにゴブリンメイジが。更に後ろではゴブリンナイトが獣人たちを指して不快なわめき声をあげていた。


「グギャギャギャギャ!」

「フン、Eランクの分際で(やかま)しく()えよる。これだから身のほどを知らぬ雑魚は困るわぃ」

「ならば教えてやるべきじゃな。本当の戦いというものをのぅ!」


 得物を手にした獣人たちが我先にと襲いかかると、ゴブリンもこれに応戦する。

 ――が、彼らは軍隊をも相手にできる強者揃い。こん棒で殴られ矢で射られようとも怯む者は一人も居らず、逆にこん棒をへし折り矢を引き抜き、血を(したた)らせつつもゴブリンを追い込んでいく。


「グギャーーッ!」


 ボフッ!


「フン、その程度のファイヤーボールでは腕を焦がすことしかできんぞぃ!」


 ザシュ!


「グギャッ!」


 喉を掻っ切られ、血溜まりに沈むゴブリンメイジ。

 これで残すはゴブリンナイトのみとなった。


「もぅ……あなた達ばかりズルいじゃない。最後はあたしに寄越しなさいよね」

「ならばマダムにお譲りしよう」


 ようやく出番が来たとばかりに、ニアの母親が詠唱を始める。


「ギャギャ!」

「フッ、邪魔はさせんぞ」


 それを見たゴブリンナイトが詰め寄ろうとするも、他の面子が行く手を阻む。

 ここで詠唱が完了したニアの母親が狙いを定め……


「さぁ消えてちょうだい――フレイムキャノン!」


 ドン!


 炎の砲弾がゴブリンナイトへ迫る。

 中距離のため回避は間に合わず――



 ドゴッ!


「はい終わり~。これで――――え?」


 信じられない光景がそこにあった。

 なんと、何者かがゴブリンナイトの前に立ち、剣で防いだのだ。


「誰よ、他人の活躍を邪魔するのは!」

「待てマダム、その()()には見覚えがあるぞぃ。こやつは確か……」

「見覚えって――――あっ!」


 ニアの母親が()()()に気付くと、他の面々も即座に気付く。


「よう。借りを返しに来たぜ」


 ハッとなる一同。

 理解が追い付かないままに、グレイの父親が口を開いた。


「お、お前は……グレイ――なのか? なぜこのようなところに……」

「どうだっていいだろ親父。重要なのは――」


 ザッ……


「今ここで借りを返すってことだ!」


 剣を構え直し、()父親を睨みつけるグレイ。

 20人以上は居るかつての村民を前にしても、まったく怯む様子を見せないでいた。


「フン。ボンクラだとは思ったが、ノコノコと殺されに現れるとはな。それに魔物に背を向けた状態で我々とやり合うつもりか?」

「はん、コイツなら問題ない。敵として認識されないしな」

「……何ぃ?」


 どういう事かと疑惑の眼差(まなざ)しを向ける元父親。

 だがグレイが説明する間もなく答えが現れた。


 シューーーン!


「な、なんだ、地面に魔法陣が!?」

「ま、まさか新手の出現か!」


 突然浮かび上がるシルエットに一同が驚く。

 魔法陣が収まると、通常のゴブリンよりも何倍ものゴツい体格をした存在――ゴブリンキングがそこにいた。


『グレイ1人だと大変かと思ってね。微力ながら手伝ってあげるわ』

「お、恩に着るよ、アイリ!」


 ボス部屋に響くアイリの声に獣人たちが戦慄する。魔物を召喚したのなら、声の主がダンジョンマスターである事を示すからだ。

 更に召喚したのはCランクのゴブリンキングである。このランクになると彼らでは(いささ)か部が悪い。


「この死に損ないめ、まさかダンマスと手を組んだというのか!?」

「だったらどうするってんだ?」 

「もちろん今ここで始末する――と言いたいところだが、この場は退いてやろう」


 元々Cランク以上の魔物は危険であると認識していたため、取り決め通りに撤退を――


 シューーーン!


「アナタ、出口が!」

「何っ!?」


 引き返そうとした彼らを阻むように、出口の前に新たな魔物が召喚された。

 全長3メートルほどあるそれはCランクのストーンゴーレムで、完全に出口を塞いでしまう。


『バカね、逃げられるとでも思ってるの? 敵対者を生かして帰すほど、私は甘くないわ』

「クッ……」


 グレイの元父親を始め焦りだす獣人たち。

 魔女の森にあるダンジョンはどれもこれも弱小揃い。そんな噂を真に受けていた自分たちを、今さらながらも殴ってやりたい気持ちである。


「グギャーーッ!」


 シュシュシュシューーーン!


「しまった、ゴブリンが!」

「ゴブリンキングは多くの配下を召喚するわ! グレイとストーンゴーレムには構わずゴブリンキングだけを狙うのよ!」


 逃走に失敗した彼らに追い討ちをかけるかのように、大量のゴブリンが召喚される。

 こうなっては戦う以外に道はない。


「ええぃ、邪魔だゴブリン共!」

「そこを退きなさい!」


 ゴブリン程度なら彼らの敵ではなく、次々と斬り捨てられていく。

 やがてゴブリンキングまでの道が空いたところで――


「その首もらったぁぁぁ! 受けよ――トルネードクローじゃい!」


 ライオネルの父が駆け出すと、高速回転しながらゴブリンキングへと迫る。


 ガキン!


 ――が、巨大な剣を盾にし、爪を防いだ。


「ギャギャ!」

「ええぃ、まだまだ――」


 一旦飛び退き、再びチャンスを(うかが)おうとしたその時!


 ザシュ!


「グワァッ!?」

「まずは1人!」


 グレイがライオネルの父を斬り下ろした。

 以前とは違うグレイの動きに反応できなかったのだ。


「そ、そんな! よくもライアンをーーーッ!」

「いかんマダム! 闇雲に突っ込んでは――」


 怒り狂うライオネルの母。

 いかに強くとも我を失った者は動きが単調になってしまい、ゴブリンからの集中攻撃を受ける羽目に。


「クッ……この程度で――」

「ああ。この程度で終わりだよ」


 ドスッ!


「ガフッ!?」

「これで2人目!」


 最後はグレイにトドメを刺され、ライオネルの母も動かなくなる。


「マズイぞ! グレイのヤツめ、聞いた話とはまるで別人だ!」

「あれが出来損ないだと!? 神父の鑑定は大間違いではないか!」


 手を動かしながらも不満をブチまける獣人たち。

 鑑定を行った神父を援護するわけではないが、彼の鑑定スキルに欠陥はない。

 つまり、当時のグレイは紛れもなく弱者であり、アイリーンでの特訓を経て強者へと成長したのである。


「グレイよ、どうやら我らの勘違いだったようだ。村での生活を認めるゆえ、ここは我らと共闘するのだ」

「そうよグレイ。今のアナタなら村の英雄に相応し――」

「うるせぇぇぇっ!!」


 都合の良いことを(のたま)う両親。

 他の獣人もウンウンと頷くが、グレイにとっては今さら過ぎる。


「何が英雄だ、何が名誉だ、そんな事のために俺は死ぬところだったんだ。俺がどんな思いで過ごしてきたのか知らねぇだろうが!」


 態度を180度変えてきた両親に、怒り爆発のグレイ。

 聞いてるアイリたちも同様で、やはりこの獣人たちは生かしては置けないなと、改めて思うのだった。


「何を言う。我が村が名誉で成り立っているのは知っているだろう? 名誉に生き名誉に死す――これ以上の誇りはあるまい?」

「……そうかよ。だったら俺が名誉の死とやらを与えてやらぁ!」


 ガキン――ガギギギギ……


「ええぃ、落ち着けグレイ! 今のお前なら大歓迎だと言っておるのだ。いったい何が不満だというんだ!?」

「何が――だと? なら教えてやる。テメェらの顔を見るのが死ぬほど不満なんだよ!」


 ズバン!


「ぐおぉ!? う、腕がぁっ!」


 元父親の腕を斬り飛ばし、切っ先を突き付けた。

 いつの間にか他の獣人もゴブリンやストーンゴーレムに殺られており、残るはグレイの両親のみだ。

 但し、母はストーンゴーレムに押さえつけられ、元父親は目の前で負傷し、実質負けはない状態だが。


「チェックメイトだ。何か言い残すことはあるか?」

「……お、お前は英雄に成りたくないのか? 村の名誉を忘れたのか!?」


 この期に及んでそんな事かと呆れるグレイ。

 何が嬉しくて殺されかけた村に愛着を持たなければならないのか。

 そんな事は考えるだけ無駄である。


「アイリ、我が儘を言って悪いが、両親を解放してやってくれ」

『ちょ、ちょっと本気なの?』

「ああ。不名誉にも村に戻った両親がどうなるかと、直接俺を殺そうとしたライオネルとニアの反応も見たくなった」

『ふ~ん、なるほどね』


 これは見逃すのではなくむしろ生き恥を晒せと言っているのであり、両親としてはかなりの屈辱である。


『あらあら、アイリに似て冷酷な事を思い付くのですわね』

『うるさいわよレミット。……コホン。よく聴きなさいそこの2人。グレイの意見を尊重し、アンタらを解放してあげる。せいぜい頑張って魔女の森を抜けることね』


 ダンジョンからは解放するが、魔女の森では責任を取らない。


「「クッ……」」


 そんな意味を込めて述べると、苦虫を噛み潰したような顔の2人が出口から逃走していく。


『じゃあグレイ。第2ラウンドをしに行くから、早く戻ってらっしゃい』

「ああ、分かった!」


 もちろんあの2人が村に戻ったとして、助かるかは否かは別問題である。


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