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誘われしダンジョンマスター・未来紀行  作者: 北のシロクマ
序章:やって来たのは5000年後
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アイリVSレミット

『フフ、久しぶりのダンジョンバトルですし、華々しく飾って見せますわ』


 昨日と同じようにセミロングの銀髪を(なび)かせるレミット。モニター越しからも自信有りきな感情が伝わってくる。


「前に戦った時はコテンパンにやられちゃったんだよね……」

「そうなの?」

「うん。あたしはDPに余裕がないから、ろくに魔物を召喚できなかったの。けれどレミットさんは豊富にあるDPを惜しみ無く使ってきたから、なす術なく――って感じにね」

「……それって性格悪くない?」


 親しいならミラクルの現状を理解してるはずだけど。


「でも親しいからこそ全力であたるものだってレミットさんに力説されて、負けたあたしはレミットさんの部屋の掃除をさせられたっけ」


 それ、単に都合よく使われてるだけじゃないかと……。

 まぁミラクルが気にしないならいいか。


『アーアー、テステス。いらっしゃいませいらっしゃいませいらっしゃいませ、いらっしゃいませいらっしゃいませいらっしゃいませ、いらっしゃいませいらっしゃいませありがとう御座いますいらっしゃいませ。本日は当ダンジョンバトルをご利用頂きまして、まことにまことにま・こ・と・にありがとう御座います。利用者のお二方におかれましては、厚く深く深く厚く御礼申し上げます』


 派遣されてきた審判による挨拶が始まった。

 ダンジョンバトルの際には、ダンジョンの管理神である邪神レグリアスから審判が派遣されるのよ。

 というかこの審判、無駄に挨拶長過ぎ……。


『本日も全機種全台、大開放でのお客様お出迎えとなっており――』

『ちょっと! いい加減始めてくださらないかしら!?』

『おっと、失礼。ではただ今から、アイリとレミットのダンジョンバトルを始めます。今回のルールは、先に相手のコアルームに侵入した方の勝ちとします。よろしいですか?』

『それでいいわ』

『異論ありませんわよ』


 要はどちらが最後のボス部屋にいる魔物を倒せるかよ。

 ま、私としては1階層のボス部屋も通過させるつもりはないけどね。


「言い忘れてましたが、自分の名前はダッカーラと申します。以後お見知りおきを。ちなみにお二方のダンマスランクには極端な差が――」

「ですからさっさと始めてくださらない!? 一刻も早く、華麗に勝利したいのです!」

「おっと、失礼。ではカウント0でバトル開始とします」


 (トゥリー)(トゥー)(ワーン)(ジィロゥ)


 いざ、バトルスタート。

 バトル中は互いのダンジョンの入口が繋がった状態になり、外部からの侵入は一切不可となる。つまり対戦相手に集中できるのよ。


「アイリ様、入口から魔物の群がなだれ込んで参りました」

「そのようね」

()()()何もなさらないので?」

「ええ。まずは侵入してきた魔物の様子を見ましょ」


 エレインの言う通り、今現在こちらから送り込んだ魔物はいない。

 これには少々理由があって、保有DPが少ないのが原因なのよ。

 じゃあ昨日の魔物狩りは何だったのかって話だけど、実は……


「ミラクル様、お茶が入りました」

「ありがとう、グルース」

「エレイン殿もどうぞ」

「あらありがとう。気が利きますのね」


 執事服を着てお茶を注いでいる渋い中年男は、昨日捕獲したデザートイーグルが人化した姿よ。

 顔半分に鋭い傷があって、裏家業の輩にしか見えないのが難点だけど。


「グルースよ――フン! ワレにも――フン! 熱ぅ~い茶を――フン! 一杯――フン! 貰えるかのぅ――フン!」


 でもって、毛深い体で見苦しい筋トレを行ってるマッチョ男が、シャドウムーンベアが人化したやつよ。

 名前はワグマだって。


「俺を顎で使うな。自分で注ぐがいい」

「冷たい事を言うでない。それともワレの肉体美を見て恐れをなしたか?」

「……ワグマよ、そんなに欲しければ頭からかけてやろうか?」

「おぅ、望むところじゃい!」

「暑苦しいからやめて」


 ワグマがいるだけでも体感温度が上がってるのに堪ったもんじゃないわ。


「フッ、これだから野蛮な連中は。せっかくこちらの可愛いレディがバトルを行ってるというのに、注目しなくてどうするのです。ねぇアイリ()()?」

「…………」


 私に対してふざけた呼び方をした細身の青年は、ブラストドラゴンのブラッシュ――が、人化した姿。

 コイツを含めた三人は、本来ならダンジョンでトドメを刺してDPを稼ぐ予定だったんだけどねぇ。でもミラクルが「なんか可哀想……」なんて言うもんだから、結局はミラクルの眷属になってもらったのよ。


「アイリたんもいいがミラクルたんも捨てがたい! ああ、僕はどうしたら……」


 というか、コイツもワグマとは別のベクトルでウザい……。


「アイリ様、その三人は置いといてバトルの方に注目しましょう」

「大丈夫よ、ちゃんと見てるから」


 先行してるのはレミットの放ったジャイアントラット。Gランクだから弱いけど、素早さが持ち味だから偵察にはもってこいなのよ。DPのコスト的にも優秀ね。


「アイリちゃん、このままだとボス部屋まですぐだよ?」

「大丈夫だから、まぁ見てなさい」


 慌て出したミラクルを横目にモニターを注視する。

 さて、そろそろ罠が発動するわよ?



 ドスン! ゴロゴロゴロ……


『『『チュチュ!?』』』


 突如落下してきた大岩が、ネズミたち向かって転がっていく。

 ボス部屋の前は上り坂になっているため、ネズミは慌てて引き返す羽目に。


「凄いよアイリちゃん、これならボス部屋に近付くのは難しいね!」

「それだけじゃないわよ。見てみなさい」

「ああ! ネズミの群が後から来た魔物たちとぶつかっちゃった!」


 逃げるネズミと先を行こうとした魔物とで、通路がごった返す。

 そこへ先ほどの大岩が転がっていき――



 ブジュブジュブジュ!


「グ、グロいです……」

「今のうちに慣れておきなさい」


 レミットが送って来た魔物の大半が、大岩で消える羽目に。

 分かれ道が殆どないのが幸いしたわね。


「あ、生き残った魔物が引き返してくよ?」

「追加で送り込む魔物と合流させる気ね」


 でも逆に好都合だわ。


「入口からゴブリンが入ってきた。アイリちゃんの言った通りだよ」

「ええ」


 大岩に潰されたのがよほど悔しかったのか、大量のゴブリンを送り込んできた。中にはゴブリンメイジの姿もあり、大岩対策として召喚したのがバレバレね。


「マズイよアイリちゃん、ゴブリンメイジが10匹以上いる上に、普通のゴブリンも30匹はいるよ!」

「大丈夫だって」


 今回は大群が押し寄せた時の罠も仕掛けてあるのよ。

 こんな感じでね。



 ガコン!


『ギギ!?』

『ギャギャーーーッ!』


 ゴブリンメイジを含めた殆どのゴブリンが、落とし穴へと吸い込まれていった。


「え……さっきは発動しなかったのに……」

「それはね、重量フラグを使用したからよ」

「……重量フラグ?」

「要するに、重さで発動する仕掛けだったってわけ」


 さっきはジャイアントラットが先行して後方のゴブリンとは分断されたため、落とし穴は発動しなかったのよ。


「す、凄い……凄いよアイリちゃん! あのレミットさんが手玉に取られるなんて!」


 まぁそれほどでも――あるかな?

 実際に使用したDPは少ないし、魔物すら召喚してないからね。


「アイリ様、ゴブリンたちが戸惑っております。そろそろ攻め時では?」

「そうね。そろそろいいかな」


 総力を上げて突撃をかまそうとしたけれど、返り討ちにあって慌ててる感じね。

 なら私のターンって事で、レミットにお披露目してあげよう。


『ホーク、ザード、レミットのダンジョンに突入して!』

『了解やで!』

『いざ出陣!』


 ボス部屋から出撃した二人を、紅茶を堪能しながらモニター越しに眺める。

 Cランク以上の魔物を眷族にしてるダンマスは殆どいないらしいし、レミットもそれに当てはまるはず。

 つまりは消化試合ってところよ。


『邪魔やでゴブリンども!』

『刀のサビにしてくれる――ムン!』

『『『グギャァァァ!』』』


 入口でウロウロしていたゴブリンを蹴散らし、レミットのダンジョンへと突入した。

 さぁて、何分持つかな?



★★★★★



「ま、まさかそんな……ゴブリンの大群が一瞬で……」


 思わずモニターを二度見してしまいましたわ。

 なぜならここが勝負どころと考えて大量のゴブリンを召喚しましたのに、あっさりと罠に掛かってしまったのですから。


「先ほどの大岩といい、あのアイリとかいう娘は見た目とは裏腹の恐ろしさを秘めておりますわ」

「その通りですマスター。こちらは大量のDPを消費しましたが、向こうは魔物すら送り込んではいません。ここは守りに専念し、様子を(うかが)うのがベストかと」


 悔しいですがコアの言う通りですわ。そろそろアイリの魔物が来る頃――

 

「マスター、入口で待機させていたゴブリンが倒されました!」

「……え?」


 まさかと思いモニターを覗き込むと、10体ほど待機させていたゴブリンが全滅しているじゃありませんか!

 いったい何が――と考える間もなく、こちらのダンジョンに侵入者の姿が映り込みました。


「あの二人が侵入者……ですの?」

「はい。瞬く間にゴブリンを殲滅した二名で間違いありません」


 一人は赤毛のチャラそうな男で、もう一人はエゾ共和国やダンノーラ帝国のおとぎ話に出てきそうな鎧武者に見えます。


「冒険者――ではありませんわよね?」

「恐らくは魔物が人化した姿かと。いずれにせよ強者である事は確かです」


 フフ、ならば見せていただきましょうか。

 ちょうどボス部屋へと来たみたいですし、お手並み拝見で――


『いっくで~、エアバーストやぁ!』


 バシュゥゥゥ!



 ……はい? なぜコボルトとウルフは消えてしまったのでしょう?

 前衛のグリーンウルフに後方支援のコボルト弓隊を配置していたはずですが……


「マスター、お気を確かに。たった今風魔法により混合部隊は全滅しました」

「ぜ、全滅?」


 おかしいです、今しがた現れたと思ったら既に終わっていたとか、そんなの悪い冗談でしょう?


「マスター、間もなく侵入者は2階層のボス部屋に到着します」

「……は?」


 いえいえ、1階層以外は罠を仕掛けているのですよ? そんな簡単に――


「マスター、2階層にてバトル発生です」

「お待ちなさい」


 そんなスピーディーに行けるはずがないでしょう? 

 もし本当なら、罠を力ずくで突破したという事になりますわ。


「マスター、2階層を突破されました」

「だからお待ちなさい!」


 普通のゴブリンに加えてゴブリンメイジやゴブリンナイトまで居たのですよ!? それを突破したというのですか!?


「残すは3階層のボス部屋のみです。マスター、覚悟を決めてください」

戯言(たわごと)を!」


 このボス部屋にはDランクのゴブリンジェネラルが居るのです。更には同ランクのゴブリンソーサラーやゴブリンローグまで居るのですから、ここを突破するなど――


『お、ここが最後みたいやで?』

『ならば全力で行こう――王者の威光(ビクトリーレイ)!』


 な、なんですの、そのスキルは!?


「マスター、あれはリザードマンキングが持つ特殊スキルです。あの閃光を浴びた者は戦闘意欲が削がれ、ステータスダウンを招くのです」

「で、ではあの鎧武者は……」

「はい。Bランクのリザードマンキングで間違いありません。付け加えると、隣のチャラ男もBランクのワイルドホークです」


 ま、まさかBランクの魔物を眷族にしているというのですか……。

 どうやらわたくし、アイリという娘を過小評価し過ぎたようです。


 ガチャ!


「ハロー、対戦相手のダンマスはん。ご挨拶に来たでぇ」


 そして堂々とコアルームに現れたチャラ男。

 これはわたくしの完敗ですわ……。


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