プロローグ
10年前、突如発現した『魔術刻印』によって人類は進化の階段を上った。今まで空想の中でしか存在しなかった魔術と呼ばれたものが現実に現れ、同時にそれまでの科学では不可能だった奇蹟を可能にするようになった。
しかしそれは人類にとっていい事ばかりではなかった。ある者は欲望を解放し、ある者は自分こそが世界の指導者と名乗りを挙げるなど、法が機能するようになるまでは各地で暴動や迫害があった。
この一連の事態を重く見た国家は魔術に関する法を制定し、魔術刻印を有する者は『魔術師』と呼称され、国の管理下に置かれた。
こうして魔術師を管理する組織、『魔術統制局』が組織され、魔術師に関係のある事件に対処・解決する為、捜査官を派遣・指導する独立した機関となった。
『A班から各班へ通達。<ERROR:CODE/祝福>は現在進路を北に向けて進行中。』
「聞いたか?雪菜。あと10分で現場に着くから準備しとけよ。」
「了解。それにしても<祝福>ですか。厄介な魔術刻印があったもんですね。自身から半径3km以内にいる人間の意識を完全に停止させるなんてね。これのどこが<祝福>なんだか。」
「そう言うなって。アレだって元は魔術師の体の中にあったもんだ。保有者が死んで魔術刻印が暴走したのが<ERROR:CODE>だろ。保有者だって望まぬ結果だろ。」
「そうですね。僕自身もいつああなるかわかりませんし、これ以上悪口は言わないことにします。」
「そうしてくれ。お前が<ERROR:CODE>吐いた時はありったけの悪口を浴びせてやるからその時は楽しみにしとけ。よし、着いたぞ。」
車に揺られること十数分。目標を視界に見据える。
およそ全長は10mほどだろうか。外見は聖女のようで、穢れなど知らぬような純粋な笑みを浮かべている。今も尚、ゆっくりと進んでいるが道中何百人の命を奪ってきたことだろう。
<ERROR:CODE/祝福>
『半径3km内にいる人間の意識を完全に停止させる』
一見すると弱そうだが実際は違う。しかしあらゆる状況下で、相手を一切抵抗させることなく殺すことができる。
「しかし半径3km以内に入れば即死とは、一体どうやって奴を止めるんです?」
「確かに近づけない以上決定打は生まれにくい。だがな、奴の魔術行使はどうやら魔術師には効果が無いとのことだ。魔研からの情報だ。」
「相変わらず仕事がお早いことで。ということは行使される魔術の対象は人間のみってことですかね?」
「そうだ、お前には聞かないみたいだから思う存分暴れてこい。あー、S班より各班へ通達。これよりS班は目標の討伐に入る。S-348を最前線に配置し、目標の魔術行使範囲外より後方支援を行う。A班からD班は周囲の警戒を頼む。」
「A班、了解。」
「B班、了解。」
「C班、了解した。」
「D班、了解。健闘を祈る。」
「よし雪菜、後ろは俺達がキッチリ固めててやるからな。行ってこい!」
「任務了解。常時強化術式、始動。」
全身に魔術を行使し、僕は音を置き去りにして対象との距離を詰める。目標は僕の事を見失っているだろう。その隙に『核』の場所を特定し、目標に飛びついた。
そして腰に携帯した2丁の散弾銃を引き抜き、銃弾に魔術を行使する。目標の胸部に銃口を突きつけ、引き金を引く。銃声と共に目標に大きな風穴が空き、『核』が砕けた。悲痛な断末魔とは裏腹に、慈愛に満ちた表情を浮かべながら目標は消滅した。
「S-348より各班へ。<ERROR:CODE/祝福>の討伐を確認。S班は帰投します」
「よくやった雪菜。体は大丈夫か。」
「ええ。今回は常時強化術式しか行使してませんし、大丈夫です。」
「そうか。だが帰投したら医務室行けよ?念のため、な。」
「わかってます。」
死んだ同族の弔いと尻拭い。これが警備局対魔術特捜課に所属する僕の日常。魔術師としての任務だ。




